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安保法案“トンデモ答弁” 倉持弁護士が解説

カナロコ by 神奈川新聞 7月30日(木)14時16分配信

 安倍晋三首相自ら「国民の理解が進んでいない」と認める安全保障関連法案。日弁連憲法問題対策本部のメンバーとして国会審議をウオッチする倉持麟太郎弁護士(32)は、理解が進まないのは質問に正面から答えない、あるいは言を左右にする不誠実・不合理な答弁に一因があると考える。気鋭の若手弁護士が“トンデモ答弁”を解説する。

【倉持弁護士が指摘する不誠実・不合理答弁】
■自衛隊の活動地域拡大によってリスクは増大するか
 大串博志委員(民主党)「リスクを低減する仕組みとして、近傍で戦闘が起こった場合には一時停止をする、あるいは長引く場合には中断をする仕組みを入れているから大丈夫と言われました。それに対して、私は、それは前の周辺事態法にもそういう規定はあり、その中で活動エリアが広がっているからリスクがあるのではないかと申し上げた。

 これまでの法律には、活動期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる場所を選びましょうと書かれていた。それを法律から落としてしまっている。つまり、安全を確保する手段を削って、安全性を下げてしまっている。リスクが増大するということは、こういうものも加味して、やはり心配になるのではないか」

 中谷元・防衛相「以前の非戦闘地域と、先ほど私が説明しましたが、新たな仕組みにおいて、現実に自衛隊が活動する期間に戦闘が発生すると見込まれない場所であるという点におきましては、安全性においては相違はない」(5月27日、衆院平和安全法制特別委員会)
 今井雅人委員(維新の会)「新たな任務によるリスクが増える可能性があるということは、リスクが増えるということでよろしいですね。新たな任務でリスクがふえる可能性があるということでよろしいですね」

 中谷防衛相「新たなリスクが生じる可能性はございます」(6月15日、特別委)

▼倉持弁護士の総括
 活動範囲の拡大にともなって新しいリスクがあるかという質問について、当初は変わりないと言っていたにもかかわらず、何度も野党議員から追及を受けた後ようやくあると認めるに至った。そもそも、活動範囲の増大に伴いリスクが増大すること自体は自明のことであり、それを前提にどうリスク管理をするのかという議論を展開しようという野党議員に対して、そもそも安全性は変わりないと言い続けた姿勢は、答弁内容に虚偽が含まれる上に、審議に臨む姿勢として極めて不誠実。

■武力行使の一体化について
 塩川鉄也委員(共産党)「出撃準備中の戦闘機に対する給油および整備支援とは、戦場で爆撃する米軍機に対する給油支援であり、戦闘機へのミサイルの搭載も含むものだ。米軍の戦闘行為と密接不可分となる活動であり、米軍の武力行使との一体化が問われる。だから1999年の周辺事態法のときはこの出撃準備中の米軍機への給油支援については米軍からのニーズがなかったということで除外するという整理にしたと言われているが、いかがか」

 中谷防衛相「発進準備中の航空機への給油、整備について慎重に検討した結果、現に戦闘行為を行っている現場では支援活動を実施しないという一体化回避の考え方が適用できる。発進準備中の航空機への給油と整備は、その航空機によって行われる作戦行動と時間的には近いといえるが、地理的には実際に戦闘行為が行われる場所とは一線を画する場所で行う。

 支援活動の具体的な内容は補給の一種の整備であり、戦闘行動とは異質の活動だ。他国の武力行使の任に当たる者との関係の密接性だが、自衛隊は他国の軍隊の指揮命令を受けるものではなく、わが国の法令に従って自らの判断で活動する。あくまで発進に向けた準備中であり、現に戦闘行為を行っているものではなく、一体化をするものではないということができると考えている」(6月29日、特別委)

▼倉持弁護士の総括
 この理屈からすれば、兄貴分の組員が組事務所から人を殺しに行くために車で現場に向かおうとし、ガソリンが入っていなかったところを弟分の組員が気を利かせてガソリンを入れ、その車で兄貴分が現場に向かって人を殺しても弟分は悪くないということになる。なぜなら、組事務所と殺人現場まで距離がある、弟分の行為はガソリンを入れただけで人を殺す行為とは異質で、弟分は気を利かせただけで兄貴分に具体的に指示を受けていない、兄貴分の行為の現状は車で出向いただけだ、と言えるからだ。納得できるだろうか。

■安保法案が必要となる理由
 中谷防衛相「憲法施行から67年になる今日までにわが国を取り巻く安全保障環境は根本的に変容した。特に冷戦後四半世紀たったが、グローバルなパワーバランスの変化、技術革新の急速な進展、大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発、拡散、国際テロなどの脅威、アジア太平洋においての問題は緊張が生み出され、脅威が世界のどの地域においても発生し、わが国の安全保障に直接的な影響をおよぼし得る状況になってきている。

 近年ではさらに、海洋、宇宙、サイバー空間における自由なアクセスおよびその活用を妨げるリスクが拡散、深刻化している。

 やはりどの国も一国のみで平和を守ることはできず、国際社会も、わが国が国力にふさわしい形で一層積極的な役割を果たすことを期待している。こうした環境の変化が常に変化が起こって蓄積をされている中で、いかに日本の国を守ったらいいのかを考えた」(6月10日、特別委)
 岸田外相「憲法の施行から67年たっていますが、その間、わが国を取り巻く安全保障環境は根本的に変容し、そして近年一層厳しさを増していると認識している。

 大量破壊兵器あるいは弾道ミサイル等の軍事技術の高度化、拡散のもとで、アジアにおいては北朝鮮が日本の大部分をノドンミサイルの射程内に入れている。最近も弾道ミサイルの発射を繰り返している。核開発も続けている。

 アジアにおいても中国、インドなどの新興国の台頭により、グローバルなパワーバランスが変化している。国際テロの脅威も高まっており、海洋、宇宙、サイバー、こういったものへのアクセスを妨げるリスクも深刻化している。

 どの国も一国のみで平和を守ることができない。わが国としても、抑止力の向上、国際社会に対する貢献につきまして一層努力をしていかなければならないと認識をしている」(7月14日、衆院予算委員会)

▼倉持弁護士の総括
 衆議院審議録の発言・答弁について『サイバー パワーバランス 海洋 一国のみ 安全保障環境 グローバル アジア テロ 宇宙 ミサイル』の10語でネット検索してみると、以下の国会審議がヒットする。平成26年7月14日18号衆議院予算委員会、平成26年10月10日1号安全保障委員会、平成27年3月13日1号安全保障委員会、平成27年4月1日4号外務委員会、平成27年5月26日28号本会議、平成27年5月29日5号我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会、平成27年6月1日6号我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会、平成27年6月10日8号我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会。これだけ多数のワードで検索すると通常、複数ヒットすることはまずない。にもかかわらずヒットするのは、どんな場面で、どんな聞かれ方をしても、全く同じ答弁を繰り返しているからだ。用意された書面を読み上げるだけで、具体的にこたえることを避ける答弁を繰り返す極めて不誠実な態度。

■集団的自衛権容認と憲法改正のあり方について
 高村正彦委員(自民党副総裁)「今一国だけで国が守れる時代でなくなってきている。そういう中で必要最小限というのは、集団的自衛権の範囲でも必要最小限はあってしかるべきだと、最初からそういう解釈をすればよかったと私は思っている。

 ただ、現実の問題として、そういう解釈を政府はとってこなかった。これは何も内閣法制局がとってこなかったというだけでなく、歴代の総理大臣も、私も含めて外務大臣も防衛庁長官も、内閣そのものが集団的自衛権は駄目と言ってきた。

 これでは、日本の安全保障を守るためにまずいのではないか、と私自身思う。では、困るから、解釈改憲でいきましょうというのか。

 国民的議論を巻き起こして憲法を改正する方がはるかに大変で、トップがぱっと変えるというのはある程度簡単だが、当たり前の国であるなら、法に従ってやらなければいけない。法というのは、権力の側も拘束するわけだから。今までずっとそういう解釈をとってきたのに、必要だからぱっと変えてしまうというのは問題があると言わざるを得ない」(2002年6月6日、憲法調査会 国際社会における日本のあり方に関する調査小委員会)
 高村委員「今度の平和安全法制の中に集団的自衛権の一部認容、いわゆる限定的集団的自衛権の容認というのがあるが、これを立憲主義違反だと言う人がいる。去年の2月、3月ごろは猫もしゃくしも立憲主義、立憲主義と言っていたんですが、それは何分の一かになってきた。

 憲法の番人である最高裁が自衛権について下した唯一の判決は、砂川判決だが、その判決で、国の存立を全うするための必要な自衛の措置はとり得ると言っている。必要な自衛の措置のうち個別的自衛権はいいが集団的自衛権は駄目だとは一言も言っていない。

 中には、あのころの裁判官の頭の中には集団的自衛権なんというものはなかったと失礼なことを言う人もいるが、判決本体の中にはっきり、国連憲章は個別的自衛権と集団的自衛権を各国に与えていると書いてある。その上で一見明白に違憲でない限り安全保障法制については内閣と国会に委ねると書いてある。

 確かに、前の政府見解では砂川判決の法理を引いた上で、当時の安全保障環境に当てはめ、集団的自衛権は必要な自衛の措置に入らないと思ったのだろう。できないと書いている。

 ただ、今の安全保障環境に当てはめれば、必要な措置に当たるものがどういうものがあるか、その中に国際法的には集団的自衛権と言わざるを得ないものがある、だから集団的自衛権を一部認容しようとすることは何の立憲主義違反でもない。国会と内閣に委ねられているわけだから、内閣で意思を統一して、国会に法案を出して審議してもらうのは、最も正当、まっとうな手続きをやっているということだと思う」(15年5月27日、特別委)
 高村委員「砂川判決は、わが国の存立の基礎に極めて重大な関係を持つ高度の政治性を有するものは、一見極めて明白に違憲無効でない限り、内閣および国会の判断に従うとはっきり言っている。安全保障について、実際にどのような方針の下、どのような政策をとり、具体化していくかは、内閣と国会の責任で取り進めていくものだ。

 先日の憲法審査会で参考人の3名の憲法学者のうち、1人として砂川判決に言及した方はいなかった。砂川判決の法理を否定しているのか、この法理の枠外にあると言っているのか、判然としない。

 私たちは憲法を順守する義務があり、憲法の番人である最高裁判決で示された法理に従って国民の命と平和な暮らしを守り抜くために自衛のための必要な措置が何であるかについて考え抜く責務がある。これを行うのは、憲法学者でなく、われわれのような政治家だ。

 憲法の番人は、最高裁判所であって、憲法学者ではない。もしそれを否定する人がいるなら、憲法81条に反し、立憲主義をないがしろにするものであることを申し添えたい」(6月11日、衆院憲法審査会)

▼倉持弁護士の総括
 解釈改憲で集団的自衛権を認めるのは問題がある、と言っていたのが、今回の法制案審議に至って、それを最も正当、まっとうな手続きをやっていると言い切っており、完全に矛盾している。内閣と一体となって法律の成立を図る与党自民党の人間として無責任に過ぎる。大多数というよりは、ほぼすべての憲法学者から違憲という判断がなされているにもかかわらず、その判断をなんら顧みない姿勢は独善的であり、自らこの法制案を真理から遠ざける姿勢の表れといえる。

 この間、国会審議をすべて追いかけてきたが、政府の審議に臨む姿勢は、国会を単に議決を経るだけの形式的手続きと考えているとしか思えない。上にあげた例は、そういった姿勢のほんの一部にすぎず、このような議論と呼べない議論を、時間だけ積み重ねることで採決を強行することは、決して許されるものではない。

 くらもち・りんたろう 東京都出身。2005年慶応大卒、08年中央大法科大学院卒、12年弁護士登録、横浜弁護士会所属。14年第二東京弁護士会。7月6日に行われた衆院平和安全法制特別委員会で参考人として意見陳述。安保法案を「政府解釈がぎりぎりのところで守ってきた合憲のラインをシームレス(切れ目なく)に踏み越え、実質的な改憲が行われることになり、違憲」と指摘した。

最終更新:7月30日(木)14時16分

カナロコ by 神奈川新聞