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VRMMOの錬金術師 作者:湖上光広

第一章:ダイブイン

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第二話:決意

俺には人によっては特殊だと思われる願望があった。

それは“錬金術師になりたい”だ。

普通憧れる存在は勇者やヒーローなどであることを知っていながら、俺は錬金術師に尊敬とも言える感情を抱いていた。

子供の頃の俺は臆病で何をするにしても人の後ろに隠れていた。そのせいでいじめにあったこともあった。
そんな頃、仲良くなった努があるゲームを見せてくれた。

タイトルはもう覚えてないけど、定番の勇者が魔王を倒す内容だった。
努はよく「この勇者みたいになりてー!」と叫んでいたが、俺の関心は勇者を支える錬金術師に向けられていた。戦闘では常に後方支援で目立つ働きはしていなかったが、あらゆる素材から様々なモノを作り出し、味方を助けるその姿がなぜか俺の目にはかっこよく映った。

これをきっかけにいくつか錬金術師が出てくるゲームに挑戦した。しかしどれもうまくいかず、結局努がゲームする時にしか見れなくなり、俺の中で錬金術師はより憧れの存在となっていた。

そのことを努に話した時、努は笑っていた。

「錬金術師になりたいなんて変わってるなお前」

親すらもバカにしたことを否定されなかったことがうれしく、いつの間にかいかに錬金術師が素晴らしいかを語っていた。
今思えば、あれこそ若気の至りだったのだろうと軽く後悔している。
その文字を見た時、そんなことを思い出していた。





「【錬金術】」

「どうだ? 興味沸いてきただろ」

自分でも意識しないまま再度呟いた言葉に嬉しそうに反応する努。
確かに興味は沸いた。やってみたいという気持ちも生まれた。

それでも、俺は頷くことができなかった。

「……さすがにその反応は予想してないぞ」

思わぬ展開に努の声も勢いを無くす。

「お前ずっと憧れてただろ? なんでそこで頷かないかな?」

俺の手からスキルリストを奪い去り、鞄にしまって次の授業の準備をするため席に戻る努。

「頷きたいんだが……」

俺のつぶやきはチャイムの音にかき消された。




放課後、努は明日のために準備すると言って先に帰った。

俺は帰りにスーパーに寄ってタイムセールの時間を待つ。
両親は健在の我が高槻家だが、共働きのため家にいるのは朝か夜だけ。しかも帰ってくるのはどちらも早くて22時のため必然的に家事をしなくてはならなくなる。

そのため、いつもは仲良くさせていただいている隣の奥さんもこの時ばかりは同じ獲物を狙う敵となる。

そのため、いかにして宝物を獲得するかを考えるのだが、今俺の頭の中は努が教えてくれたことで支配されていた。

(CWOに【錬金術】か)

俺はゲームの才能が無い。いや、正確には相性がとことん悪い。だからこそ、俺の部屋にはゲームと呼べるものが少ない。あるのはチェスとか将棋とかの頭脳系ぐらいだ。

回りと比較して自分が他と異なっているのは理解しているが、やはりゲーム、特にRPGなどのゲームは苦手中の苦手だった。

そんな俺がVRMMOのことを考えている。その理由はただ一つ、錬金術だ。

俺にとっていまだに憧れの存在である錬金術師。それがもしかしたら叶うかもしれないと知った時、俺は努の言葉に頷こうとしていた。
しかし、残っていた理性が俺にささやいた。


“お前にゲームができるのか?”


その一言のせいで、俺はせっかくのチャンスを逃してしまった。
夢が叶うと思って失敗したら、俺はどうなるのか想像がつかないのだ。
それくらい、俺にとって錬金術師という存在は大きいモノだった。

もやもやしながら考え込んでいると視界にメガホンを持った店員が現れる。しかし気づいた時にはもう遅かった。

「特売! 特売! キャベツ一玉が何と50円!!」

声が聞こえてきたのは今いる肉コーナーではなく、店の反対側に位置する野菜コーナー。このスーパーは毎日18時に特売をするが、それがどこなのか全く決まっていない。
いつもならすぐに方向転換して駆け抜けるのだが、考え込んでいたせいでポジションを確保できず、戦士たちの軍勢に飛び込む隙を取れなかった。

「ック」

思わず後悔するもすでに足は野菜コーナーめがけて走り出している。例え無理だとわかっていても、退けない闘いがそこにはあるのだから。
俺は傷だらけになるのを覚悟で野菜コーナー、否戦場へとその身を突入させた。



「何とか一玉獲得か」

激戦をくりぬけ何とか戦利品が入った袋を持ちながら家にたどり着く。
ちなみに、この戦いで制服がボロボロだ。最悪の場合、新調しなくてはいけないかもしれない。

「さて、残っていたものでなにができるか……」

「おかえりお兄ちゃん♪」

家のドアを開けようやく一息つけるかと思いきや、待っていた安息の地ではなく第二の戦場だった。



さて、テーブルには獲得したキャベツと余っていたお肉を使ったロールキャベツ。なかなかの出来なのだが、全く味がしない。それは対面でおいしそうに食べている少女の存在である。

彼女の名前は高槻(たかつき)(から)。正真正銘血のつながった俺の妹だ。普段なら可愛く慕ってくれる妹なのだが、今俺は恐怖に包まれている。

それは空が俺のことを「お兄ちゃん♪」と呼んだからだ。
世間一般的には羨む人間もいると思うが、この場合の「お兄ちゃん♪」は空が俺に催促してくるときに必ず使う手だ。

まだどちらも小さい頃、空からの頼みごとをよく聞いていた経験から俺は「お兄ちゃん♪」と呼ばれると『どうしても妹の願いを聞いてあげなくてはならない』という自分でも訳のわからない義務感に襲われるのだ。
それを知った空は何かある度に「お兄ちゃん♪」と俺にねだってくるようになる。
先月も新作のバッグを買わされたばかりだ。

今月も諭吉に羽が生えるのかと内心かなり落ち込んでいると声が聞こえてきた。

「聞いてた?」

声は優しく、顔も笑顔だが絶対零度とも言えるほどの寒気が俺の全身をなでる。

「申し訳ありませんでした」

両手をテーブルに着けて頭を下げる。これ以上怒らすと冷気が怒気へと変化してしまうからである。

「もう一回言うよ。 明日兄さんはCWOを努さんから必ず受け取ること。 いい?」

「……は?」

妹のお願いしては珍しく俺に害のない要求。というかなぜそのことを知っている?

「努さんからメール来たの。 『光子郎を説得しておいてくれ』って」

腕時計と一体化した最新式のスマホを起動させる空。俺のは昔から続く片手で持ち、もう片方の手で直接タッチパネルを操作するのに対し、空の腕時計型は文字盤の中央を押すと起動し、そこからホロウインドウが表示されるというものだ。
発売したのはVR技術を産み出した会社でゲームの技術を使った現代科学の最先端品である。

「なになに、『あいつの興味心を大体引き出せた。後の説得はよろしく!』って」

「完全に詰みだよね♪」

空の満面の笑顔=お願いの前に、俺は従う以外の選択肢を与えられなかった。
……実は内心悩んでいた問題を解決してくれたことに感謝していたのは永遠に秘密だ。



翌日、せっかくだからみんなで楽しもうとのことで努の家に向かう俺たち。妹のVR機器は俺が持っている。

「というか、お前もβプレイヤーだったんだな」

「うん。 努さんほどじゃないけどそこそこの地位まではいったんだよ」

空もゲーマーだが、β版が発売された去年は受験生のためゲームは抑えていた。受験生でなかったら確実に廃人の仲間入りをしていたことは間違いない。

というか、β終了から正式版まで約半年もかかってるのか。そこまでかかると、もはや別のゲームなんじゃないのか?

そして努の家にたどり着き、部屋に案内される。

「とりあえず、光子郎はこれを使ってくれ」

努に渡されたのは最新のVR機器。しかし以前空が使っていた一昔古いタイプを持ってきているから断る。

「心配するな。もう一個あるからよ」

取り出したのは同じものだが色が違い、ステッカーも貼ってある。

「お気に入りになったやつはこっちを使ってるんだ」
「いいなあ、私ももう一個欲しいよ」

ゲーマー同士が話している間、俺は努から渡されたVR機器を調整していた。努の頭は俺よりも小さいからサイズが合わなかったからだ。

無事調整も終わり、VRを起動させる。

頭の中を電気が走り、目の前が一瞬真っ暗になる。次第に浮かんでくるいくつかのアイコン。その一つ、CWOのパッケージを選択し、起動させる。

さあ、俺の冒険が始まる。
といっても、俺は錬金術師だからあまり戦闘はしないだろうとこの時はそんなことを考えていた。

この先に待つ、俺にとっては予測不可能な騒がしい日々の連続、それでも充実した時間が待っていることを俺はまだ知らない。
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