米国の中東政策を方向付ける必要性
今回の辞退声明は米国に関して言及していなかったが、サウディアラビアが辞退した理由として報道で数多く指摘されたのは、サウディアラビアの抱く米国への不満であった。サウディアラビアは、とくに2011年以降にシリア危機に関して拒否権を行使してきたロシアと中国にも不満を持ってきた。だが、今回の辞退表明が、米国に対する抗議の意味が強いという見方は妥当であろう。
なぜなら、サウディアラビアが辞退表明で指摘した三つの問題、パレスチナ問題、中東における大量破壊兵器拡散の問題、シリアでの殺戮の解決では、米国が鍵を握る国となっているからである。そして、以前からサウディアラビアは、それらの問題での米国の取り組みに関して不満を持っているのが明らかであった。
辞退表明の後、サウディアラビアは、米国宛のメッセージを明確にした。10月21日にケリー米国務長官は、パリでサウード外相と会談する機会をもった。だが翌22日にサウディアラビアのバンダル総合情報庁長官は、ヨーロッパ諸国の外交官と会談し、米国が中東政策でサウディアラビアが望む成果をあげないのなら、「米国との関係で大転換」があり得ると発言したと報じられた。サウディアラビアは、米国の代わりとなる国がヨーロッパにある、とのメッセージを発したことになる。
サウディアラビアは、以前にも同様の外交的圧力を米国に対して行使したことがある。2011年3月、湾岸協力会議(GCC)の数カ国がバーレーンでのデモを暴力によって制圧したとき、オバマ米国大統領はアブドゥッラー国王に自制を要請したが、するとサウディアラビアはすぐにバンダル王子(当時は国家安全保障問題国王顧問)を中国に派遣し、サウディアラビアのパトロン候補は米国以外にもいるという外交上のサインを発した。なぜそこまで強硬にサウディアラビアは米国に圧力をかけるのか。
それは、サウディアラビアの焦りのためである。焦りの原因の一つは、中東の紛争解決に関与する残り時間の少なさである。もしも米国が中東産石油への輸入に依存しなくなれば、中東の紛争への選択的関与政策を強化することとなる。米国は、すでにイラクから撤退し、さらにアフガニスタンからの撤退を2014年に予定し、シリアについては限定的な関与政策に留めている。今後、米国の財政危機は、米国の中東離れをさらに加速する危険がある。
サウディアラビアと米国の脅威認識のズレ
米国は、火急の際には、湾岸(ペルシア湾ないしアラビア湾)の安全のために部隊を派兵し、戦うであろう。だがサウディアラビアにとっての死活的関心事項は、湾岸で武力紛争が発生する場面だけではない。このような両国間の温度差が、両国間の摩擦を生む要因である。
サウディアラビアの生存にとって、パレスチナ問題やシリア問題は死活的な関心事項である。また、ロシアやイランが国家間戦争という直接的な手段を用いずに、つまり絶対的優位に立つ米国の軍事力を使わせないようにしながら、次第に中東で影響力を高めてきていることがサウディアラビアにとってのリスクを高めている。2013年9月に米国は、アサド政権による化学兵器使用に対する対応としての軍事攻撃を中止したが、ロシア外交の巧みさは際だっていた。米国の関与なしで、中東における諸紛争がサウディアラビアにとって適切な解決に向かう見込みはない。
サウディアラビアは、米国の問題は、米国のパワーの低下のためでは必ずしもなく、米国による中東戦略の立案が失敗してきたと見なしている。ブッシュ政権のイラク侵攻は、サウディアラビアにとっては、イランのイラクへの影響力を拡大させた点で大失敗であった。つまり米国は、圧倒的な軍事力を要しているが、域内政治の力学は理解し切れていないために、戦略を間違えたのである。サウディアラビアは、米国の中東政策が一貫性を欠いていることに不満であると解釈することもできる。サウディアラビアにとっては、米国がサウディアラビアにとって適切な政策へ向かうよう、強く働きかけ続けることが肝要となっているのである。
米・サウディアラビア関係は総合的には極めて良好
2011年以降、サウディアラビア政府は、米国の中東政策に関して一段と憂慮を深めてきた。とはいえ、現在の米サ二国間関係は、貿易、金融、教育交流、医療、査証協定などを鑑み見ると総合的には非常に良い。そして米国政府もサウディアラビア政府も良好な関係が持続することを願っている。
米国の広報官は、サウディアラビアによる辞退表明の後、サウディアラビアと米国の良好な関係を強調し、さらに各国には異なる見解があると付け加えて、サウディアラビアの辞退表明の衝撃を和らげようとする立場を示した。21日のケリー・サウード会談と22日のバンダル発言の後、11月4日にケリー国務長官は、辞退表明後に初めてリヤドを訪問し、アブドゥッラー国王と会見した。
会見後、同長官とサウード外相は共同記者会見を開催し、両国関係の「特別な関係」を演出して見せた。両国関係は、75年という長期にわたっており、この間に幾度もの危機を乗り越えてきた。たとえ両国関係が新たに危機に陥ったとしても、関係回復のために想起できる過去の逸話のリストが、強固な関係を演出してみせるための「雛形」として確立している強みがある。サウード外相は、両国間の相違について「戦術に関わること」と発言した。
だが合同記者会見でのサウード外相による発言の後半は、手厳しいものでもあった。同外相は、国連批判を展開し、パレスチナ問題、中東の大量破壊兵器拡散の問題、シリアでの殺戮の解決を訴えた。