福田昭のセミコン業界最前線
Intel-Micron連合が発表した“革新的な”不揮発性メモリ技術の中身
(2015/7/30 13:03)
NANDフラッシュメモリの共同開発などで協業しているIntelとMicron Technologyの企業連合(Intel-Micron連合)は、2015年7月28日(現地時間)に米国で記者会見を開催し「革新的な不揮発性メモリ技術を共同開発した」と発表した。両社はこのメモリ技術を「3D XPoint Technology(スリーディー・クロスポイント・テクノロジー)」と名付けている。
両社の発表内容からは、「3D XPoint Technology」がいかに素晴らしい技術であるかを強調する文章が並ぶ。例えば以下のようなものだ。
- NANDフラッシュメモリに比べて1,000倍も高速
- DRAMに比べて10倍も記憶密度が高い
- NANDフラッシュメモリに比べて書き換え寿命が1,000倍も長い
これだけ見ると、もの凄いブレークスルー技術だと錯覚しそうになるが、記者会見のビデオと発表資料を精査すると、違った側面が見えてくる。例えば以下のようなものだ。
- DRAMに比べると動作速度は遅く、読み出し速度はNANDフラッシュメモリとあまり変わらない
- NANDフラッシュメモリに比べると記憶密度は低い
- DRAMに比べると書き換え寿命は、はるかに短い
コンピュータ・システムのメモリ階層を、高速かつ小容量のトップ層から低速かつ大容量のボトム層の順に記述していくと、CPU(レジスタ)、キャッシュ、主記憶(DRAM)、外部記憶(NANDフラッシュメモリ)、外部記憶(HDD)となることが多い。3D XPoint Technologyによる不揮発性メモリ(本稿では仮に「3D XPointメモリ」と呼称する)は、主記憶(DRAM)と外部記憶(NANDフラッシュメモリ)の間を埋めるメモリとなる。言い換えると、3D XPointメモリは、DRAMあるいはNANDフラッシュメモリと競合するメモリではなく、共存するメモリだ。
この主記憶(DRAM)と外部記憶(NANDフラッシュメモリ)の間を埋めるメモリは、かねてより「ストレージ・クラス・メモリ(SCM)」、あるいは「次世代大容量不揮発性メモリ」などと呼ばれて研究開発が進められてきた。
具体的には、相変化メモリ(PCM)、磁気メモリ(MRAM)、抵抗変化メモリ(ReRAM)などのメモリ技術だが、3D XPointメモリは、これらと競合するメモリ技術と言える。
クロスポイント型メモリと積層構造を採用
IntelとMicronは記者会見で、「3D XPoint Technologyの素晴らしさ」をアピールすることに熱心であったものの、技術内容の詳細にはあまり触れようとしなかった。
それでも、メモリ技術の概略は述べており、それによれば、メモリセル・アレイには「クロスポイント型メモリ」の名称で知られる構造を採用しているという。
クロスポイント型メモリとは、ワード線とビット線が交差した微小な領域にメモリセル全体が収まるメモリのことで、NANDフラッシュメモリを除くと、最も高い密度でメモリセル・アレイを実現できる構造となる。
メモリセルの大きさを測る指標に「設計ルール(F: Feature size)の2乗」、すなわち「F2」がある。メモリセルの大きさがF2の何倍になるかで、高密度化の度合を計測できる。例えばDRAMセルは「6×F2」だ。
クロスポイント型メモリでは、配線の交差領域と隣接セル間の絶縁領域がメモリセル面積なので、「2×F」×「2×F」、即ち「4×F2」となる。
クロスポイント型メモリはさらに、メモリセル・アレイを積層できるという重要な特徴を備えている。ワード線に相当する配線層と、ビット線に相当する配線層の間にメモリセルを組み込めるからだ。
例えば、最下層をワード線層、その上にメモリセル、ビット線層、メモリセル、最上層をワード線層とすると、2階建ての積層構造となる。3D XPoint Technologyも、この2階建て構造を採用している。
東芝-SanDisk連合が同様の技術で32Gbitメモリを試作済み
実は、クロスポイント型メモリと2階建ての積層構造を採用した、大容量不揮発性メモリの開発が発表されたのは今回が初めてではなく、2013年2月に東芝-SanDisk連合が、32Gbitの大容量不揮発性メモリを国際学会ISSCCで試作発表済みである。
東芝-SanDisk連合が試作した32Gbit不揮発性メモリは、記憶素子に抵抗変化メモリ(ReRAM)技術、セル選択素子にダイオードを採用しており、設計ルールは24nm、シリコンダイ面積は130.7平方mmとかなり小さい。
また2Mbitと小容量ながら、韓国SK Hynixと米Hewlett-Packardの共同研究グループが抵抗変化メモリ(ReRAM)技術を採用したクロスポイント型不揮発性メモリを試作しており、2012年6月に国際学会VLSIシンポジウムで概要を発表済みである。
128Gbitの大容量シリコンダイをIntel-Micron連合は披露
今回のIntel-Micron連合の発表で特筆すべきは、128Gbitという大きな記憶容量のメモリを製造してみせた点だ。
128Gbitのシリコンダイは、実際の製品と試作発表(国際学会での発表)の両方を含め、NANDフラッシュメモリの最大記憶容量と同じである。これは凄いことだ。
気になるのはシリコンダイの面積である。直径300mmのウェハーを披露した記者会見の映像から、スクライブラインの数を手作業で集計した。映像からはシリコンダイの長辺方向の寸法だけを推定できたので、ウェハーのクローズアップ写真からシリコンダイの縦横比を読み取り、短辺方向の寸法を推測した。
その結果、シリコンダイの寸法は約17×12.75mm(長辺×短辺)となった。つまり、シリコンダイの面積は216.75平方mmと推定される。これは半導体メモリとしては、かなり大きな面積だ。このシリコンダイ面積の推定値が妥当であるならば、製造コストは厳しいものになるだろう。
しかし、現時点で設計ルールが公表されていないので、シリコンダイ面積をどこまで狭められるかは不透明だが、記者会見では「scalable(微細化が可能)」と述べているので、期待はできそうだ。
記憶素子とセル選択素子の技術を推測する
Intel-Micron連合は、今回の発表でメモリセルの記憶素子とセル選択素子の詳細を公表していない。ただし、いくつかの手がかりはある。
まず、記憶素子について両社は「電荷をチャージする技術ではない」と述べている。従って、フラッシュメモリ技術ではありえない。となると次世代不揮発性メモリ技術が考えられるが、その中でも、クロスポイント型には適していない、相変化メモリ技術と磁気メモリ技術は除外して良さそうだ。
残る技術は抵抗変化メモリ技術である。説明資料では、新規に開発した材料を「compounds(複数の化合物)」と述べているので、複数の酸化物層で構成された抵抗変化メモリの可能性が高そうだ。なお3D XPointメモリは1個のメモリセルに1bitのデータを記憶する形式で、多値メモリ技術は採用していない。
セル選択素子に関しては、「トランジスタではない」と述べている。最も可能性が高そうなのはダイオードである。何らかの原理に基づくスイッチという可能性はあるものの、記憶素子の動作パラメータとスイッチの動作パラメータが干渉しかねないので考えにくい。
まだ解けない、いくつかの疑問
上記のような推測は成立しそうなのだが、いくつかの疑問が残る。
まず、抵抗変化メモリ技術が3D XPoint Technologyに採用されているとすると、読み出しと書き込みの速度が速すぎる。数十ナノ秒の読み書きという速さを達成することは、抵抗変化メモリ技術にとって非常に難しい。事実、東芝-SanDisk連合などが試作した抵抗変化メモリ・チップの性能は、読み書きともにマイクロ秒台だ。
もう1つの重大な疑問は、抵抗変化メモリの開発では、ソニーとMicronが共同開発チームを組んでいることだ。両社は16Gbitの抵抗変化メモリを試作し、その技術内容を2014年2月に国際学会ISSCCで、さらに同年12月に国際学会IEDMで共同発表している。3D XPoint Technologyに同様の抵抗変化メモリ技術が採用されていると仮定すると、ソニーとMicronの共同開発体制に何らかの変化があったではとの疑問が生じる。
このほか、3D XPoint TechnologyではNANDフラッシュメモリの1,000倍の書き換え寿命を実現している、という点も気にかかる。仮にNANDフラッシュメモリの書き換え寿命を1万回とすると、3D XPoint Technologyの書き換え寿命は1,000万回になる。この長寿命は、抵抗変化メモリ技術では不可能ではないものの、相当に難しいと言える。
これらの疑問はいずれ解消されるだろう。既存の抵抗変化メモリ技術ではなく、革新的な抵抗変化メモリの可能性もある。疑問が解消される瞬間を楽しみに待ちたい。
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