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07:00
佐野研二郎さん、今から助けに行きますよ!

2020年東京五輪をめぐって、またもや悶着が始まりました。今回のターゲットはエンブレム。先日発表されたばかりの東京五輪のエンブレムが、ベルギーの劇場のロゴと似ているという指摘が上がり、パクりだのパクりでないのと議論の火の手があがっているというのです。

うむ、これは助けねば。事情はわからないが、炎上しているのであれば救助に向かう援軍が必要だ。今や東京五輪は政争のネタとして「とにかく何でも非難する」連中のターゲットにされています。五輪をよりよくしようという気持ちではなく、ただただ難癖つけてやろうとする連中が、難癖ポイントを日々荒探ししているのです。黙っていれば難癖派の思うがままです。僕も森元首相派のおっとり刀を自認し、難癖派とは正反対の位置から「何でも擁護する」ことで知られた男です。とりあえず助けにいきましょう。

↓何でも、こんな感じで似たようなマークがあり、パクリだパクリでないという話になっているとのこと!

左が東京五輪のエンブレムで、右がベルギーにあるTheatre de Liegeとかいう劇場のロゴ!

なるほど、そうきたか!

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「T+L」と「T+O」はまったく異なるアプローチ

似ているか似ていないかで言えば、「似ている部分はある」と思います。ただ、それはパクったとかパクっていないという話ではなく、丸と四角の組み合わせで「T」を作れば、こんなこともあるだろうなという話。シンプルな図版だけに、そりゃあ当然似たものもあるでしょう。「T」をいじくり倒してロゴマークにすることなんて、世界中で数限りなく行なわれている作業です。日本の国旗とバングラディシュの国旗が似ていたとしても、「四角に丸を置いたらそうなるでしょうなぁ」としか言えないのと同じことです。

そして似ていない部分も多々あります。まず右肩についている赤い丸。この丸をもって「T」を完成させているのですから、これはまったく異なるものです。「大」と「犬」くらい違います。そしてマーク内に書かれているテキストも「TOKYO 2020」と「THEATRE DE LIEGE」でまったく異なります。このふたつを並べたとしても、誤認することは1000%ないでしょう。書いてありますから。

この形に至った思考の流れもまったく異なります。

ベルギーの劇場のほうはTheatre de Liegeの頭文字「T」と「L」を組み合わせたものでしょう。一方、東京五輪のほうは1964年大会のエンブレムへのオマージュとして、日の丸デザインを反転させ「四角の中から丸を抜く」ことを意図したものでしょう。全体の形状としても、円をベースとしたベルギーの劇場と、方形をベースとした東京五輪とでは正反対です。

「何故あるのかわからない」と言われる右下の銀色パーツ部分は、全体としては1964年大会とはまったく異なる四角をかたどりつつ、その内部に「1964年大会エンブレムのモチーフである丸」を表現するために、そのパーツが必要だったからでしょう。この銀色パーツがなければ、そこに四角も丸も見えてこないでしょう。それがたまたま「L」の表現のために同じようなパーツを求めたマークと被ったというだけのこと。異なる方向からアプローチした結果、同じようなものが生まれただけでしょう。

東京五輪エンブレムのほうには、五輪マークの黒輪、「TOKYO 2020」の2つめの「O」の字、そしてTの縦線にあたる黒い帯、この3つのパーツに縦1本のセンターラインが貫かれており、左肩の金色パーツと右下の銀色パーツは互いにバランスをとっています。それらのバランスをあえて右肩の赤丸で崩すことで、日の丸に視線を呼び込む効果を狙っていることも感じます。

1964年大会と異なる形状(1964年が丸、2020年が四角)でありながら、総体としての印象を1964年大会と同じくした(日の丸)、2大会の連続性を感じさせるデザインであり、これは単に「このロゴ、カッコええな」でヨソから持ってきただけの仕事ではないでしょう。組織委員会によれば、すでにベルギーを含む各国の国際商標確認も済んでいるとのことですので、難癖は難癖として突っぱねるべきです。

<劇場側のデザイナー氏がGIF動画を作って比較中>

線の太さ変えたり、配置を変えたりしたら、何でもそこそこ似てくるのは?

マーク下の文字のフォントだって系統が同じなだけで、全然違うものだろ!

これをさも同じフォントかのように見せかけるGIF画像を作っている時点で、ベルギー側の御郷も知れるというもの!

こういう輩は、トイレのTOTOの「TO」も同じフォントに見えるんだろうな!

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配色は「日本らしい」定番の組み合わせ

難癖派はどこか狭いところから似たようなものを探してきて、「この配色はバルセロナのデザイン事務所が、日本の震災復興を支援するために作った壁紙のデザインと酷似している!」とか言っているようですが、赤と黒と白と金と銀を組み合わせることにパクりもパクられもありません。

赤と白は日の丸にも使われる日本を示すカラーです。そこに黒の文字が入れば、基本的に同じ配色になるのです。蒔絵の重箱などを想像してみても、赤+黒の器に金+銀の装飾を施すことはごく当たり前の配色です。伝統美です。むしろ何か似たようなものがあったとしても、それは「日本らしい色ってどんなのだろう?」という問題に、同じような回答を出したというだけのこと。

東京五輪のエンブレムが発表された当日には「Jリーグのロゴと似ている」という声も多く聞かれましたが、「J」と「T」の違いこそあれど、「日本」を示すように考えて出した答えなのですから、同じような印象を受けもするでしょう。ほかのナントカジャパン系のロゴもえてしてこんな印象のものです。「日本らしい色」を選べば似たようなことになるのです。

<Jリーグのロゴも同じような色の組み合わせ>


<侍ジャパンのロゴも同じような色の組み合わせ>


<体操日本代表のユニフォームも同じような色の組み合わせ>

バレーボールだって、ラグビーだって、似たような感じじゃない!

「日本の色はサムライブルーだな」って言ってるサッカーこそが珍しい事例!


難癖を避けるには「伝統」のチカラに頼るのが一番

とはいえ、このようないらぬ難癖を呼び込んだのは、デザイン制作側と選考委員の失着でもあります。こんなシンプルなものを選べば、どこかしらで似たような先行事例があっても不思議はありません。そのすべてを事前に確かめることなどできるはずもないのですから、ある程度の複雑さをもったものを選ぶことで、無用なリスクを回避すべきでした。

そして「T」というモチーフを選んでしまったことも無用なリスクを生む要素でした。「T」は日本の文字ではありませんから、1000年前・2000年前にまでさかのぼって、我々のルーツであると言い張るのは無理があります。いじくった回数も圧倒的にコッチは少ないのですから、誰もがやりそうないじくり方にウッカリ手を出してしまいがちでしょう。

「ずっと前から東京といったらコレなんです」というものをモチーフとしていれば、似ていようが似ていまいがソレが東京だから仕方ないという話にもなったはず。「江戸切子の伝統的な文様のひとつで、日本を象徴する花である菊を描いた菊籠目文を…」とか「江戸文字で江戸と記したタイポグラフィを中心に…」とか「江戸幕府の開祖である徳川将軍家の家紋をモチーフに…」的な物語を用意しておけば、パクりもパクられもないのです。「伝統」ですから。「伝統」という有無を言わせぬ説得力で武装せず、フワッと「T」を出せば難癖のひとつやふたつはつくというもの。残念な話ですが。

<世界のどこにでもありそうな模様だが、これが伝統ならそういうもんかなと思うしかない>

1000年前にルーツがあるものを出せば、何とでもなるんだよ!

「似てますけどぉ、1000年前のデザインなんでぇ、そっちがパクったんじゃないですか?」とでも言えば!

いっそ縄文式土器の模様とかなら、そもそもパクり疑惑すら出ない!


素人に「コレいいね」と思わせられなかったことは反省点

そもそもデザインを批評できるほど、その筋に明るい者がどれだけいるものか。何の予備知識もなくゴッホの絵を見せられたら、「下手糞な花の絵」としか思わない程度の僕ら素人が、あーだこーだとデザインに難癖をつけるとは、本職の芸術家からすれば片腹痛い話でしょう。

しかし、残念ながらデザインは難癖をつけやすいのです。正解がないものには、いくらでも難癖をつけられます。「何か違う」「ダサい」「微妙」などとフワッとした文句とともに、とにかくあーだこーだ言いつづけることができる。もちろん素人から対案など出るはずもありません。

そして、新国立競技場で計画がひっくり返ったという手応えもあり、難癖派は意気揚々です。難癖大喜利大会でも始めるかのように、難癖をつけやすい場所にガブッと食いついてきます。メダルのデザイン、トーチのデザイン、マスコットのデザイン、チケットのデザイン、ジャージのデザイン…あらゆるところに難癖をつけようと待っていることでしょう。

こうしたフワッとした難癖を黙らせるのは、フワッとした「コレいいね」という気持ちしかないのです。難癖に勢いがつくのは、「あんまりよくないな」という感情があればこそ。難癖に対応……つまりパクリではないことを証明したとして、根っこにある「あんまりよくないな」と言う気持ちが解消されない以上、新たに別の難癖をひねり出してくるだけ。

「いっそ招致ロゴを使おう」なんて意見も散見しますが、アレだって「花輪」というどこにでもあるモチーフです。複雑な形なので、完全に一致する先行事例はないかもしれませんが、似たようなものは探せばどこかにあるでしょう。ただ、フワッとした「コレいいね」の気持ちがあるから、難癖がつかないだけです。

多くの人が「コレいいね」と思っているものなら、「ベルギーから難癖がきた」「売名行為か」「こんなもんどこにでもあるがウチのがセンスがいい」と一笑に付したことでしょう。色の白いは七難隠すじゃありませんが、「コレいいね」という気持ちがあれば何でも許せるし、「よくないな」という気持ちがあれば何もかも許せなくなる。そんなものです。

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以上のように、佐野研二郎さんはまったく悪くないのです。佐野さん、堂々としていてください。アレはパクりとは言えないものですし、色も誰がやっても選びそうな組み合わせです。何の問題もないものです。悪いのは佐野さんではなく「T」です。多くの人に「コレいいね」とフワッと思わせることができず、難癖に対する反駁材料もなく、とってつけたような意味づけしか持たない「T」が悪いのです。Tを憎んで人を憎まず。どうぞみなさん、佐野さんへの難癖はお止めください。文句はすべて「T」そのものと、それを選んだ選考委員へお願いいたします。

それでは最後に一言だけ申し上げて、本日の弁護活動を終わりたく思います。

「ちなみに、僕はこのエンブレム嫌いです!」

ご清聴ありがとうございました。


擁護することと、僕の中の「よくないね」という気持ちとは別問題です!