2020年東京五輪・パラリンピックのメーン会場となる新国立競技場の建設計画見直し問題で、原案のデザインを手がけた女性建築家ザハ・ハディド氏(64)が、安倍晋三首相との直接対話を求める書簡を送ったことが28日、分かった。政府の反応を確認後、ザハ氏は来日し、自身で意向を伝えるための準備を進めている。英ロンドンのザハ事務所は同日、声明を発表し、建設費を抑えた上でゼロベース案をサポートする用意があると表明した。
ザハ氏本人がついに動いた。一方的な契約解除から11日。新国立競技場の「白紙撤回」を決めた安倍首相に対し、27日付で書簡を送付した。設計関係者によると、ザハ氏本人はゼロベースでの見直しに強いショックを受けており、自らの言葉で説明する準備を進めているという。日本で定着している「総工費高騰はデザインのせい」というレッテルをぬぐい去り、総工費を抑えた新案を準備していることを主張する。
新国立建設の責任者となった遠藤利明五輪相は整備計画を9月上旬に取りまとめる方針。遠藤氏の元に設置された推進室は既に、新たな国際コンペ開催へ向けた作業を進めており、直談判するには早い方がいい。そのため、ザハ氏が来日する場合、8月中が濃厚だ。
公式ホームページに発表した声明でザハ事務所は、19年ラグビーW杯を視野に入れ、予算に柔軟に対応した新国立を準備できると主張。計画を進めてきた同事務所と設計チームの経験で「コストを抑え、仕様を変えたデザインをすることが可能」と明言した。
日本スポーツ振興センター(JSC)が今月7日の有識者会議で「新国立の特殊性が高騰の要因」としたことにも抗議。実際に同会議の3日後、JSC河野一郎理事長宛に抗議文を送っていたが返信はなかった。
抗議に至った経緯として、当初からJSCにコスト削減を訴えていたことも記した。「過熱する建設市場、十分な競争がない中、施工業者(ゼネコン)を早い段階で選ぶことを警告したが提案は聞き入れられず、その結果高いコストを招くことになった」とした。
さらに「ゼネコンからの高い見積もりに対し、設計チームとJSCはいくつもの減額案を作った」と主張し、選定されたゼネコンと「チームとして作業を行うことがベストだと提案し続けたが、一緒に作業することは許されず不必要に高いコストと、完成の遅れを招いた」と痛烈に批判した。
デザインコンペをやり直すことに「根本的な解決になっていない。着工を遅らせることで、さらなる問題を引き起こす。20年まで建設コスト増は続き、ゼネコンがリードする新案は、非常に低い水準になってしまうことを危惧している」と厳しい見方を示した。
◆ザハ事務所の声明要旨
▼キールアーチ デザインの中で特にアーチのことが言及された。このアーチは標準的な橋の建設技術を使い、半透明で軽量な膜素材の屋根を支えるので、観客に質の高い光を落とすことができる。将来にわたり、国際的なイベントに使われるよう、考慮されている。この屋根構造はスタンドと屋根を並行して施工できる利点がある。これは座席の端から屋根を支える形式に比べると、一番重要な施工時間を縮める役割がある。スタンドの後ろから支える屋根は、スタンドが完成した後でないと、できない。設計チームはこのアーチ(2本)のコストを約230億円と見積もっており、承認された予算の10%以下だ。
▼総工費高騰の要因 東京五輪・パラリンピックが決まった後、東京は建設需要の増加、限られた労働力、大幅な円安による輸入原材料費の増加、東京のインフレが建設費高騰の原因。13年7月から今年7月の間、東京の建設コストは平均25%上がり、今後とも増加すると言われている。
▼ゼネコン批判 低い水準の競技場になれば、五輪後に長期的な使用に耐えるためのさらなる投資が必要となる。世界にも同じ例はある。より競争力のある調達方式や、協調性のあるゼネコンと作業を行っていれば、19年ラグビーW杯を開催できた。