(1)行列式の基本性質と定義
- 行列式
- 行列式。行列と似た名前なので混同されやすいですが、行列(Matrix)と行列式(Determinant)は違うものです。行列は始めに説明したとおりのものですが、行列式というのは行列を数式とみなして、法則に従い一つの解を求めるものです。ここでは行列式の性質や定義を見ていきましょう。
正方行列に対して1つの値を対応させる関数で、以下の基本性質を満たすものを行列式として定義します。Aの行列式であれば|A|またはdet(A)と表記します。
- 行列式の基本性質
- 基本性質1 単位行列 I の行列式は1である。:|I |=1
- 基本性質2(線形性) 各行ベクトルにおいて線形である。これはつまり以下の性質が成り立つことを言う。
- 基本性質3 Aの行ベクトルaiのどれか2つが等しいなら|A|=0
- 行列式の性質
- 性質4 行列Aの任意の行に任意の数cをかけて他の行に加えても、行列式の値は変わらない。
- 性質5(行列式の交代性) 行列式の任意の2つの行を交換すると、−1がかけられる。
さて、いろいろ性質を並べてみましたが、意味がわからないという人もいるでしょう。一言で言ってしまえば、つまり以下の式が成り立つことがいえる、ということになります。
この2式は重要なので覚えて欲しいのですが、下の3×3の式は特にサラスの方法と呼ばれる覚え方が存在します。
ただし、この方法は2次、3次の場合にしか使えないので注意が必要です。
- 行列式の性質
- 性質6(転置行列の行列式) 正方行列Aについて
- 性質7(積の行列式) 同じ次数の正方行列A,Bに対して
|AB|=|A||B|
(2)余因子展開、行列式の計算
次は3次以上の行列式の計算方法を見ていきます。基本的な方針としては次数が高くて解けないなら、分解して2次や3次の解ける形にしてしまおうというものです。
余因子 n次の正方行列
において、Aの第@行と第j列を取り除いたn−1次の正方行列をA(i|j)で表します。この時、
をAの成分に関する余因子といいます。
- 余因子展開 n次行列 A=[
]について次式が成り立つ。
- 第@行に関する余因子展開
- 第 j 行に関する余因子展開
たとえば第@行(@=1,2,3)に関する余因子展開を順に見ていくとこうなります。※ 偶数番目の時は係数が負になります。 最後に得た値を全て足して解を得ます。これは次数がいくつになっても変わりません。 a を選び a の属する行、列を除いたものが余因子 α となります。α が大きすぎて計算できない場合はその α を行列式とみてさらに余因子展開します。また各種基本変形も有効なのでより簡単な形にすることも可能です。具体的には例題で見ていきましょう。
例題1 次の行列式
の値を第1列と第3行に関して余因子展開して求める。
(@)第1列に関する余因子展開
(A)第3行に関する余因子展開
見ての通りどの求め方でも解は一緒なので、一番計算の楽になるように選ぶと便利です。この計算方法は線形代数を理解するうえで必須なので覚えてください。
例題2 次の行列式
の値を求めよ。
2,3,4行を1行に加え、42をくくりだす。
1列×(-1)を2,3,4列に加え、1行に関して余因子展開。
1行×3を2行に、1列×(-1)を3行に加える。そして4、−4をくくりだす。