芥川賞:異色の作家誕生 お笑い芸人の又吉直樹さん

毎日新聞 2015年07月16日 20時40分(最終更新 07月17日 11時50分)

芥川賞を受賞し、記者会見で笑顔を見せる又吉直樹さん=東京都千代田区で2015年7月16日午後8時49分、喜屋武真之介撮影
芥川賞を受賞し、記者会見で笑顔を見せる又吉直樹さん=東京都千代田区で2015年7月16日午後8時49分、喜屋武真之介撮影

 異色の芥川賞作家が誕生した。「僕の本から本好きが増えてくれたら楽しくなる」。又吉直樹さん(35)は、無類の読書好きらしく、記者会見でそう話した。

 午後9時前、通常の1.5倍、300人以上の取材陣が詰めかけた東京都内の会見場に姿を見せた又吉さんは、やや緊張した面持ちで話し出した。「とにかくうれしい。僕の小説を読んで面白くなくても、100冊読んだら絶対に本を好きになる」と力強く語った。

 大阪府生まれ。2003年、お笑いコンビ「ピース」を結成、ボケ担当として活動中。「火花」は今年の三島由紀夫賞候補にもなった。伝統ある文学賞を射止め、文学史に名前を刻んだ。

 芸人と作家との比重を問われると「芸人100でやってきて、それ以外で小説を書いてきた。その姿勢は崩さないようにしたい」と、今後も「二足のわらじ」を続ける意志を示した。

 羽田圭介さん(29)は第一声で「何が起こっているのか、よく分からない。予想外の高揚感に驚いています」と語った。

 東京都生まれ。高校在学中の03年、「黒冷水」で文芸賞。明治大商学部卒。「走ル」「ミート・ザ・ビート」「メタモルフォシス」で芥川賞候補3回。他の作品に「不思議の国のペニス」「盗まれた顔」など。

 羽田作品は、同居する祖父を介護する20代後半の男性の孫が主人公。会社を辞めて自信喪失気味の孫は、「死にたい」と繰り返して甘える祖父に殺意すら抱く。しかし、その祖父のおかげで孫が再就職を果たしていく道のりに鋭い現代批判が宿る。

 羽田さんは「今の社会には憎んでいる相手が見えないという焦燥感があると思う。不満を覚える相手にも接近し、感情を理解した上でどんなことが言えるか。相手を知ることに尽きるのでは」と語った。【内藤麻里子、鶴谷真】

 <大きな話題となった芥川賞受賞者>

1955年下期 石原慎太郎「太陽の季節」 当時最年少の23歳。端正な容姿や映画化も相まって大ブームに

76年上期 村上龍「限りなく透明に近いブルー」 ドラッグやセックス描写に賛否が分かれて世間の関心が沸騰

98年下期 平野啓一郎「日蝕」 「三島由紀夫の再来」と騒がれ、茶髪にピアスの京大生としてメディア露出多数

2003年下期 金原ひとみ「蛇にピアス」・綿矢りさ「蹴りたい背中」 20歳と19歳の若き女性は文壇のアイドルに

10年下期 西村賢太「苦役列車」 会見で「(受賞の連絡がないので)そろそろ風俗に行こうかなと思っていた」

11年下期 田中慎弥「共喰い」 当時の選考委員で東京都知事の石原慎太郎氏をやゆして「もらっといてやる」(敬称略)

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