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解消できるか? IT技術者不足

7月27日 18時15分

木庭尚文記者

ネット通販で買い物をしたり、スマートフォンのアプリを使って検索をする。
いまや私たちの生活になくてはならない「IT技術」。
そんな生活を裏で支えている「IT技術者」の不足が深刻化しており、企業は技術者を採りたくてもなかなか採用できない状況が続いています。こうしたなか海外から優秀なIT技術者を採用しようという動きも本格化しています。
IT技術者不足を解消するためにはどうすればいいか。経済部の木庭尚文記者が解説します。

2015年問題

IT業界の2015年問題というのをご存じでしょうか。
ここ数年、大型のシステム開発案件が重複していて、2015年にはIT技術者の人材不足が深刻になることを指します。

2014年から2017年にかけてのおもだったシステム開発、改修案件をみても、みずほ銀行のシステム改修、日本郵政グループ、電力の自由化にともなうシステム改修、そして来年1月から運用が始まるマイナンバー制度などが集中しています。

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マイナンバー制度も人材不足に拍車

マイナンバー制度は、国民一人一人に「個人番号」を割り振り、国や自治体ごとにバラバラに管理されてきた社会保障や税などの情報が番号を介して把握できるようになる制度です。

番号にいろんな情報をひもづける必要があるため、今、全国の自治体では一斉にシステム改修が行われています。大量の人員がこの分野に投入され、他の分野に技術者が行き渡らなくなっていたのです。IT企業の担当者からは「人が足りなくて、仕事を断るケースも出始めている」という声すら聞かれました。

便利なIT生活も

大規模なシステム開発だけではありません。冒頭お伝えしたとおり、今や生活になくてはならないスマートフォンのアプリ。次々と新しいアプリが登場する裏では、新しいソフトウエア開発が必要となり、IT技術者の人手がかかります。

ネット通販のサイトで、なぜか自分のよく購入しているものが画面に現れるという経験をされた方も多いと思います。これも裏で高度なソフトウエアが動いていて、IT技術者の作業なくしては成立しません。

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独立行政法人の「情報処理推進機構」がIT企業およそ900社を対象に行ったアンケートでは、技術者の不足感について尋ねたところ、「大幅に不足している」、「やや不足している」と答えた企業が合わせて87%となっていて、ほとんどの企業が人材不足に直面していることが分かりました。

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ベトナムのIT人材に活路

こうしたなか、海外のIT技術者を積極的に採用しようと、かじを切った企業も現れています。都内にある社員50人のITベンチャー企業、「ネットマイル」はネットで買い物をした際につくポイントを交換できるサイトを運営しています。

日本人の採用が年々難しくなるなか、去年、ベトナムの大学でITと日本語を学んだ2人の技術者を採用しました。入社1年目ながら即戦力として活躍していることから、この会社では、毎年、ベトナムの技術者を採用する方針を決めたのです。

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7月上旬、この会社はベトナム・ハノイで会社説明会を開きました。集まったのはITと日本語を専攻する大学生だち。説明会の後、すぐに面接を行いました。
面接に臨んだ社長の畑野仁一さんの目に1人の学生が止まりました。日本語も問題なく話せ、確かな技術も期待できる学生です。

「日本に呼んじゃおうよ。めちゃくちゃできるぞ仕事」
面接を終えた畑野社長から最初にでたひと言でした。いい人材に巡り会えたことで自然と笑みがこぼれていました。畑野社長はその場で内定を決断しました。ベトナムでも人材の獲得競争が始まっているため、迷っていると優秀な人材は他社にとられてしまうからです。

国をあげた人材育成に取り組むベトナム

なぜ、今、ベトナムが注目を浴びるのか。その理由は国をあげたIT技術者の育成にあります。大学には、実践的なコンピューターのプログラミングを学ぶコースが設けられ、即戦力となる人材を数多く輩出しています。

さらにITと日本語を同時に専攻できる大学もあり、日本語ができるIT技術者が次々と育成されているのです。実際、日本で働くベトナムのIT技術者などの数は、この2年でおよそ2倍に増えており、去年はじめて1000人を超えました。

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こうしたなかベトナムのIT企業も日本の技術者不足をビジネスチャンスと捉え、攻勢をかけています。その一つがベトナム最大手のIT企業、「FPTソフトウェア」です。
この会社の社員数は7500人。すでに200社を超える日本企業のシステム開発を請け負っていますが、さらに日本市場での売り上げを伸ばそうと、次なる一手を打ちました。

「2018年までに日本語ができるIT技術者を1万人育成する」という計画です。
すでに社内の優秀な技術者を選んで、5か月から9か月の間、業務として日本語を学ばせています。

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国内のIT人材不足 別の課題も

このように海外のIT技術者を活用する動きは、一定の成果を収めており、今後もこうした動きは広がっていくと見られます。しかし、これだけで技術者不足がすべて解消するかと言えば、そうではありません。

海外からの人材の活用を進める一方で、日本国内でIT技術者として働きたいという人を増やす必要があります。そのためには、大きく2つの改善が必要であると考えられます。

ひとつはIT業界の慣行を見直す必要があります。
実はIT業界は建設業界とよく似ていると言われています。それは、1つのプロジェクトが発注されると、それを受注したIT企業が次々と下請けの企業に発注する慣行があるからです。当然、孫請け、孫々請けと下に行けば行くほど、もうけは少なくなり、技術者に支払われる給料などの待遇も悪くなります。

システムのプログラミングの作業をしているのは、受注した企業ではなく、孫々請けの企業ということも珍しくはありません。こうした慣行に基づく待遇の悪さが、IT業界で働きたいという人材が少なくなっている原因の一つとなっていると言われているのです。

国もこうした現状には危機感を抱いており、IT業界でいわゆる「下請けいじめ」のようなことが起きないよう、取引ガイドラインを強化することにしています。

中長期的な人材育成の戦略が大事

もうひとつが国内での人材育成です。
今やIT技術者不足は世界的な状況となっています。世界中のIT企業が優秀な人材の獲得に乗り出しており、なかには優秀な人材であれば新卒であっても年収で1000万円を超える給料を出して獲得しようとする企業もあります。

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優秀なIT技術者の獲得競争は世界中で始まっており、日本企業が取り残される危険性もあります。それだけに国内で将来のIT業界を担える人材を育成することが極めて重要になっています。例えば子どものころからコンピューターなどITの仕組みを学ぶ機会を作るなど、中長期的な戦略が大切だと言えます。


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