発表直後からさまざまな疑義が指摘されたSTAP論文
ようやく科学的な決着がついた
STAP細胞は最初からなかった──これが結論だ
あのマウスと胎盤は何だったのだろうか。9カ月前,STAP細胞の疑惑を報じた最初の記事で,私たちはこう問うた。その結論が出た。STAP細胞に関する論文2本の不正調査を進めてきた外部識者による調査委員会(委員長・桂勲国立遺伝学研究所所長)は,2014年12月26日に最終報告をまとめ,STAP細胞も,そこから作られSTAP細胞の証拠とされたものもすべて,既存の細胞である「胚性幹細胞(ES細胞)の混入に由来する,あるいはそれで説明ができる」と結論づけた。
「STAP細胞」は最初から存在しなかった。1年にわたって日本の社会と科学界を揺るがしたSTAP論文の不正疑惑は,科学の面では決着した。
実験に使われた「STAP細胞」の大半は,10年前の2005年,理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(CDB)の若山照彦チームリーダー(現山梨大学教授)のもとで研究していた大田浩研究員が作ったES細胞だった。当時,若山研では,身体全体に加えて精子までが緑に光る,特別なマウスを飼っていた。大阪大学の岡部勝・元教授が遺伝子導入技術で作ったマウスだ。大田氏はこの岡部マウスと市販の白マウスを掛け合わせて受精卵を取り,その受精卵からES細胞を作った。だが研究には使わず,そのまま保存していた。
このES細胞が9年後,なぜかSTAP細胞として世に出てしまった。調査委員会が調べたところ,STAP細胞から作られたとされるマウス由来のDNAにも,マウスにSTAP細胞を注射して作ったテラトーマ(奇形腫)にも,STAP細胞から作ったとされる2種類の幹細胞にも,すべて精子で光る蛍光タンパク質の遺伝子が見つかった。さらに染色体の欠失などの細かい特徴がすべて大田氏が作ったES細胞株のうちの1つと一致した。
STAP細胞から作ったSTAP幹細胞は,山梨大学にある現在の若山研にも保存されており,これも大田氏のES細胞だったことが,独立の2グループによって確認されている。(「事実究明へ 科学者たちの360日」参照)
このほか,STAP細胞からSTAP幹細胞を作る実験には,若山研究室の別の研究員が,別系統のマウスからクローン技術を用いて作ったES細胞が使われていたこと,STAP細胞の系統による違いを調べる実験には,STAP実験で本来使われるはずだったマウスから若山氏が作ったES細胞が用いられていたことも判明した。
大田氏のES細胞を入れたチューブは,小保方氏の冷凍庫から見つかった。大田氏は2010年3月に他大学に転出し,その際にES細胞は「すべて持ち出したつもりだが,同じ株がCDBにあったのなら,置き忘れたかもしれない」と話している。STAP細胞の研究が始まったのは翌2011年4月からで,大田氏の細胞がなぜ使われたのか,その経緯は判明していない。
【訂正】 日経サイエンス2015年3月号37ページの左段下の段落に,FI幹細胞の名称として「CLS」が3回出てきますが,正しくは「CTS」です。