日経サイエンス  2014年12月号

国内NewsScan

STAP細胞 見えてきた実態 

古田彩(編集部) 詫摩雅子(科学ライター)

記者の質問に答える遠藤高帆上級研究員。東京・千代田区の理研東京連絡事務所で。写真:高井潤

遺伝子解析が示した,名が体を表さないSTAP実験の杜撰さ

 

 理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(CDB)の小保方晴子研究ユニットリーダーらが作ったとされる「STAP細胞」の中身が明らかになってきた。早くから論文への疑義を指摘していた理研統合生命医科学研究センター(IMS)の遠藤高帆上級研究員は9月22日,STAP細胞などの遺伝子配列データを解析した結果を,日本分子生物学会の欧文誌Genes to Cellsに発表した。また10月1日,報道陣の合同取材に応じた。

 

 遠藤氏の解析によれば,遺伝子解析実験に用いられた細胞は,同じ名前で論文に出てきても,その中身は実験によってまちまちだ。ある実験に使われた「STAP細胞」は多能性を持つ培養細胞だが,別の実験に用いられた「STAP細胞」には多能性がほとんどない。またある実験の「FI幹細胞」は2種類の細胞の混合で,別の実験の「FI幹細胞」は1種類だが染色体異常が生じている。「STAP幹細胞」と「FI幹細胞」の一部には精子を緑色に光らせる遺伝子が入っている。いずれも論文の説明とは合わない。

 

 「データの中に,論文の文章の記述,図,図の説明,作成した方法のすべてが合っているものは1つもなかった」(遠藤氏)。「STAP細胞」や「STAP幹細胞」が何だったのかはいまだ不明だが,実験の実態は徐々に見えてきた。

 

 


STAP 関連細胞の遺伝子データの解析結果  上段(水色)は論文および若山氏の実験ノートに記されていた実験計画。下段(黄色)は遠藤氏による遺伝子データの解析結果。青字は今回論文発表したもの。同じ名前で呼ばれていても,中身はバラバラだ。

 

 

 STAP細胞論文では,①マウスの脾臓から採った,CD45というタンパク質を持つ細胞 ②CD45を持つ細胞を酸に浸けて作ったSTAP細胞 ③STAP細胞を培養して作ったSTAP幹細胞 ④STAP細胞を別の方法で培養して作ったFI幹細胞──の4種類の細胞それぞれについて,3つの異なる実験方法で遺伝子配列を読んでいる。論文は撤回されたが,遺伝子配列のデータ(RNA-seqデータとChIP-seqデータ)は誰でも利用・検証できるよう公開されている。

 

 遠藤氏がこれらの遺伝子配列データを再解析した結果を上の表に示す。①のCD45陽性細胞は概ね論文に書かれた通り脾臓の細胞とみられるが,新たに作成した②STAP細胞 ③STAP幹細胞 ④FI幹細胞については,同じ細胞についてのデータ同士がまったく一致しない。同じように「STAP細胞」と書かれていても,中身は別々の細胞だ。論文発表以後に新たに判明した点も含め,遠藤氏による解析の全体を解説する。

 

 また早稲田大学が小保方晴子の学位を当面維持し,1年をめどに論文を再提出すれば再度審査すると決定したことについて,先に調査報告書を批判する所見を表明した同大の岩崎秀雄先進理工学研究科教授の話を聞いた。

 

詳しくは現在発売中の12月号で。

 

*上の表(12月号35ページに掲載)において,FI幹細胞のChIP-seqデータの欄に誤りがあり,訂正しました。
 誤:精子で光るAcr-CAG遺伝子
 正:精子で光るAcr-GFP遺伝子

サイト内の関連記事を読む

キーワードをGoogleで検索する

NGS解析STAP細胞STAP幹細胞FI幹細胞RNA-seqChIP-seqトリソミーTruSeqSMARTerTCR再構成