8キロで原爆が作れるとされるプルトニウムは、国際社会がいま、最も神経をとがらせる物質の一つだ。それを日本は47・8トン(昨年末時点)保有している。前年より0・7トン増えて、原爆5975発分である。

 利用計画のないプルトニウムを取り出すことは、核不拡散の原則に反する。日本のプルトニウムは、政府が計画する「核燃料サイクル事業」で燃料として使うことになっている。これを保有する理由にしている。

■疑念を招く要因に

 ところが、核燃サイクルは、技術的に困難だったり、採算が合わなかったりと、政府の思惑通りに計画が実現できる見通しはない。計画の破綻(はたん)は内外に明らかだと言って良い。

 実際、海外からは「使う見通しのないプルトニウムを持つのは、日本が核兵器保有を考えているからではないのか」と疑念さえ招いている。国内にも「潜在的な核抑止力」との位置づけが見え隠れするが、唯一の被爆国であり平和国家を任じる日本にとって、外交上マイナスだ。

 プルトニウム保有の理由としている核燃サイクルは技術、費用、安全性、外交のどの観点から見ても合理的とはいえない。計画は白紙に戻すべきである。

 核燃サイクルは、原発の使用済み燃料を再処理してプルトニウムとウランを取り出し、再び利用する仕組みだ。

 経済産業省は昨年まとめたエネルギー基本計画で「サイクル政策の推進」を明記した。①福井県にある高速増殖原型炉「もんじゅ」での研究継続②青森県六ケ所村で日本原燃が進める再処理工場の稼働③プルトニウムを含む「MOX燃料」をふつうの原発で燃やす「プルサーマル」が主要な柱となっている。

 しかし、三つともそれぞれ困難に直面している。

■見通し欠く3本柱

 まず「もんじゅ」である。

 燃料として燃やした以上のプルトニウムが得られる「夢の原子炉」をめざした。しかし、20年前のナトリウム漏れ火災以後ほとんど止まったまま。大量の点検漏れも発覚し、運転再開はまったく見通せない。

 各国でも、水と激しく反応するナトリウムをめぐる技術開発などに手を焼き、先進国の多くはすでに撤退している。

 次に日本原燃の再処理工場。使用済み核燃料からのプルトニウムの取り出しは現在、英仏に委託している。これを国産化しようという計画で、1997年には完成しているはずだった。

 しかし、これまで20回以上、完成時期が延び、建設開始からも22年がたった。建設費は当初計画の7600億円から2兆2千億円に膨らんだ。

 来年3月の稼働をめざして原子力規制委員会の審査を受けている。稼働後40年間で、約3万トンの使用済み燃料の再処理に12兆6千億円かかると試算されているが、さらに膨らみそうだ。

 日本原燃は、原発を持つ電力会社がお金を出して運営する株式会社だ。もっと原燃への国の関与を強めて、事業を支える検討も始まっている。巨額の財政赤字を抱えて社会福祉など歳出の抑制が始まっている日本にそんな余裕があるのか。

 唯一、実用化していたプルサーマルも先行きが見通せない。

 再処理費用をかけた分、MOX燃料はウラン燃料に比べ割高になる。これまで海外に加工を依頼して輸入したMOX燃料の価格は、通常のウラン燃料の7~9倍とも推計される。

 費用がかかりすぎ、使用済み核燃料などのゴミを減らす効果もほとんど期待できない。MOX燃料を使う場合には、地元自治体の事前の了解が不可欠だ。東日本大震災前でも、実際にMOX燃料を使えるようになったのは4基で、業界の事前の計画の4分の1程度にとどまった。

■凍結こそ平和に貢献

 再処理をやめるのに約5兆円をかけたとしても、使用済み燃料を直接、地中に埋めて処分するほうが安上がりだとの試算もある。核兵器に転用できるプルトニウムの保有は、テロの標的になるなどのリスクも招く。

 米シンクタンク「核不拡散政策教育センター」のソコルスキー代表(元国防総省不拡散政策担当)らが先月、日中韓3カ国で政府高官を訪ね、「経済合理性のない再処理事業の計画や構想の停止を、日中韓、あるいは米国も含めた4カ国で同時に宣言してはどうか」と提案した。

 日本政府は来年3月、再処理工場を稼働させる考えだ。そんな状況に触れると、中国でも韓国でも色をなしたという。

 「再処理停止は東アジアの安全保障環境を改善する。特に非核保有国で先頭を行く日本の再処理停止は、韓国やイランなど他の非核保有国に対して新たな規範を示すことになり、意味は大きい」とソコルスキー氏。

 燃料増殖の見果てぬ夢は捨てて、核燃サイクルは凍結する。それこそが合理的で、核の不拡散と廃絶をめざす日本にふさわしい道ではないか。