2人の脳梗塞治療 スピードが命 その10

2015年07月26日 18:24

村田医師は4年目。
東京生まれ、徳島大学卒業。
過去、全国研修医実力テストで国内一桁の実力。
NHKドクターGにも出た。
「よしrt-PA投与開始!」 貫和亮太医師。
ERに戻り、rt-PAが投与されたのは病院に着陸したわずか25分後。
発症から約1時間30分。かなり早い。
へき地発症の脳梗塞に、
血栓溶解療法ができるだけでもすごいのに、
発症1時間半で実行している。
すごい。

患者の症状は変わらない。
開眼しているが、発語なくしきりに左の手を動かして
ベッドの柵をつかんでいる。
右の手足は全く動かない。
願うのは、薬剤が効いて、
麻痺がよくなること。
だが、今のところ、効果はない。
貫和医師が次の治療の段取りを進める。

「血管室の準備はまだかかる?」
「オンコールの看護師がまだ来てないです。あと少し」
「MRIを先にとってしまう?MRIの準備は?」
「MRIはすぐ行けるそうです」
「じゃ、MRIに行って拡散強調とMRAだけ撮影しよう。
終わったら、そのまま血管室へ行こう!
梅谷先生は一緒にMRI室へ入ってね」
梅谷医師は3年目。
大阪生まれ。徳島大学卒業。
梅谷、村田医師の徳島大学コンビのせいで、
毎年、徳島大学から学生が八戸を見学に来る。
(続く)

2人の脳梗塞治療 スピードが命 その9

2015年07月25日 18:23

「どうですか?」大沢医師が尋ねる。
「いま発症からちょうど1時間くらいです。
たぶんM1の心原性脳塞栓症です。」吉村医師
「そうですか。CTの結果、脳梗塞だったら、
rt-PAをまず開始。
そのまま血管室かな?時間があれば、
MRIも撮影しようか」
CTを操作する小島放射線技師の顔を見ながら大沢医師が話す。
「いいですよ。どちらも準備しておきます」
小島放射線技師が快く答えた。
今日は休日だが、ちょうど夜勤との入れ替えの時間で
技師の人手は多い

CTの画像を、たくさんの医師が固唾をのんで見守る。
一見して、頭部CTは異常がないように見えた。
白い出血はない。黒(脳梗塞)だ。

「黒だね。
ほんの少し早期虚血変化が見えているような気がするけど、
中大脳動脈も光っている。
M1で間違いない。
やるしかないね、
血栓溶解だ。」
大沢医師が決断する。
救急医も、みな頷いた。
「よし。じゃ、すぐにERに行ってrt-PA投与だ!
そろそろ採血結果が出ているかもしれない。
辰尾先生は、すぐにNIHSS。
村田先生は禁忌事項をチェックして、
薬剤の準備。
栗原先生は大沢先生と血管室の準備に行って。」
貫和医師が的確な指示を次々と出していく。
彼の頭の中にはこの後のシナリオがすでに描かれているようだ。
辰尾研修医は、弘前大学を今春卒業した1年目研修医。
地元弘前大学から、年間数人しか八戸研修医にならない。
人気がないのか、
採用試験が難しいのか、
かわりに、遠方の大学卒業生が入り込める。
栗原医師は3年目。軽米、丸橋医師と同じく
新潟大学卒業。
東京出身だけど、
八戸救命で活躍する母校の先輩にあこがれて
八戸研修医に来た。
そして、今は3年目。
(続く)

2人の脳梗塞治療 スピードが命 その8

2015年07月24日 18:22

「ダイレクトCTは手配しています。このままCTへ行きます。
患者さんの体重どれくらいですかね?」
「50kgぐらいじゃないかな?」吉村医師
「わかりました。血栓溶解薬を体重50kgで準備しておいてもらいます。
高井先生、薬局に連絡しておいて」貫和亮太医師
高井研修医は1年目。
今春東北大学を卒業し、
八戸研修医試験を勝ち抜いた。
十和田市生まれ。
貫和医師は常に1歩先のことを考えている。
高井研修医は走ってERへ戻る。

CT室へストレッチャーを押しながら打ち合わせする。
ダイレクトCTとは、ヘリポートからそのままCT室へ入室すること。
ヘリ到着から平均4分でCTが撮影できる。
時間の短縮効果は大きい。

CT室に着くと、脳神経外科の大沢医師が現れた。
今年、仙台の脳外科専門病院から転勤してきた。
脳血管障害が得意で熱心な医師だ。
脳血管内治療の経験が豊富にあり、
非常にフットワークが軽い。
(続く)

2人の脳梗塞治療 スピードが命 その7

2015年07月23日 18:22

発症から約1時間しかたっていない。
ドクターヘリは八戸市立市民病院へ到着した。
新郷村の現場から、救急車で走る時間だけで1時間半はかかる。
ドクターヘリによる搬送と治療介入への時間短縮効果は絶大だ。

貫和医師と研修医たちがヘリポートに出迎える。
病院実習に来ていたネパール地震救援帰りの山本救急救命士も一緒だ。
「採血をください」
貫和医師の手には
採血の試験管に貼って検査に提出するためのシールがあった。
「これすぐに検査部に送って」貫和亮太医師。
受け取ったピンクのスクラブのER看護師は、検査部へ走っていた。
貫和医師は患者の橈骨動脈を触れながら、患者の状態を確認する。
「どうですか?」
「中大脳動脈の脳梗塞でいいと思うんだけど。
どうかなあ、
白じゃないと思う」
吉村医師が答える。
患者とスタッフはヘリポートドアの内側で
患者をERストレッチャーに移し替える。
頭部CTで、脳梗塞の部位は黒く、脳出血の部位は白く写る。
医療者の俗語だ。「白っぽい」とは、「脳出血らしい」という意味。
の出血なら致命的。
脳梗塞でも広い範囲なら命に関わるし、
後遺障害も重い。
(続く)

2人の脳梗塞治療 スピードが命 その6

2015年07月22日 18:20

吉村医師と上舘看護師は、
走ってヘリへ駆け込んだ。
「エンジンスタートします」
緒方機長もスタンバイしていた。
ヘリのローターが音を立てて回り始める。
現場滞在時間はわずか6分だった。
速い。
離陸したドクターヘリは、八戸市民病院を一直線に目指す。
時速200kmのヘリコプターの速度に負けないくらい、
救急医の早い判断と処置が、
ドクターヘリの武器だ。

ヘリ内では、吉村医師と上舘看護師が休むまもなく治療を開始する。
心電図モニター装着、酸素投与、バイタルサインを測定する。
静脈路確保して採血し、検査用の試験管にとっておく。
病院前で採血しておくことで、
病院に着いて検査結果が出るまでの
時間が10分は早くなる。
このたった10分が重症患者には貴重だ。
突然の嘔吐に備えて制吐剤を投与する。
離陸して5分で処置は完了した。
あと10分で病院に到着だ。

「八戸ドクターヘリ1から八戸市民病院どうぞ」
「八戸市民病院です。八戸ドクターヘリ1どうぞ」
「患者情報です」
上舘看護師はそれまで書いていたドクターヘリカルテをサーと、
吉村医師に手渡した。
吉村医師が続ける。
「60台女性。約45分前発症の脳卒中。
低血糖なし。
血圧140、
心拍数は不整、
意識GCS E2V2M5、
左共同偏視、
右上下肢麻痺、
失語、
意識障害、
顔面麻痺。
左中大脳動脈領域の脳梗塞を疑います。
ルート確保、採血済みです。
ダイレクトCT、
rt-PA投与、
MRI、
血管撮影の準備、
脳神経外科コールしてください。」

「了解です」無線の向こうから、貫和亮太医師の声がした。
(続く)