100分de名著 小泉八雲 日本の面影 第3回「異文化の声に耳をすます」 2015.07.22


島根県の松江で暮らした小泉八雲は日常聞こえてくる声や音に耳を澄まし日本文化を五感の全てを使って捉えようとしていました。
それだけでは分からない不可思議な現象に八雲は出会います。
悲しいのに日本人はなぜ笑うのか?彫刻でもない自然の石をなぜ庭に飾るのか?相手の立場に立つ事で八雲は日本人を理解していきました。
「100分de名著」「日本の面影」。
異なる文化と向き合うヒントを小泉八雲から学びます。

(テーマ音楽)「100分de名著」司会の…さあ今回は小泉八雲の「日本の面影」という本を取り上げておりますけども前回八雲さんと一緒に盆踊りを体験したり出雲大社に行ったり100年前の日本を旅したような気分にもなりましたね。
この本を知るごとに自分たちが日本人の本質とかなり離れちゃってるんじゃないかなと。
…って事はここ近づくためには小泉八雲並みのもしかしたら以上の感性を僕らは磨かないとちゃんと日本人に戻れないような気がしてちょっとその辺をテーマに僕は挑んでみたいと思っております。
では今回指南役務めて下さるのは早稲田大学教授池田雅之さんです。
(一同)よろしくお願いいたします。
今日は2つをテーマにしたいと思います。
一つは八雲さんが日本に来て日本の文化を全身で五感を開いて受け止めたんですね。
そういう八雲さんの受け止め方とそれからもう一つ八雲さんに特徴的なのは相手の立場に立ってものを理解するものを受け止めるというところがあるんですね。
この2つを中心にと思います。
さあ庶民の生活から本質を見抜いていく八雲ですがどんな方法をとっていたんでしょうか。
八雲の作品は「耳の文芸」と言われるほど聴覚で捉えたものの記述が多くあり「日本の面影」においてもその特徴が表れている箇所があります。
例えばこんな感じ…。
松江に到着したばかりの八雲が宍道湖のそばにある旅館富田屋で迎えた朝の印象を記した部分です。
朝目覚めた時に聞こえる杵の音を表現する事で情景が目に浮かぶだけでなく日本の暮らしの中で大切な「米」を意識させ食文化までをも感じさせてくれるのです。
そして一日の終わりをこんな表現で締めくくっています。
八雲は音や声を通して日本文化を体感していたのです。
こんなに聞いててうっとりするというかトリップする文章も珍しいですね。
ほんとですね。
ものすごく細かくいろんな音を拾っているんですね。
そうですね。
八雲さんは目が悪かったせいもあって非常に耳が敏感というかほんとに音をうまく取り入れてるんですね。
普通の人だとなかなか言語化できないような。
だから八雲の文学を「耳の文芸」なんて呼んだりしているんですね。
徐々にもうす〜っと音から。
「まずちょっと耳澄ましたらこんな音聞こえるような気しませんか」から入られるととても入りやすいというかまんまと入っちゃうというか。
だからうっとりしちゃうんですかね。
松江に到着して第1日目寝ている時に翌朝ですねそういう米をつく音が。
最初しかし作品の中では何の音か言わないんですよね。
音が…とにかく重い音が聞こえてくる。
杵の音らしい。
米をつく音だ。
それはやはり日本人の命を養う食べ物であるし…そこが僕はすごいなあいつ読んでもこの一行はほんとに八雲さんはすごい…それは単なる食べ物だけではなくてそれは何というか非常に霊的なねもう日本の神話ではやっぱりお米の話稲の話が出てくるわけですからね。
そういうところまで恐らくつかんでいての事なんじゃないかなと思いますけど。
目で見える情報じゃなくて耳で聞こえてくる情報ってまたちょっと何か違いますね。
明らかに僕らも感じ方違ってますもんね。
普通の西洋の方日本に当時来た方は恐らく「見る」という行為を通して相手を客体化するというか客観的に見ようとする。
どうしてもその時代は欧米の文化が中心だからどうしてもこう上から見下ろすというようなね。
彼らのキリスト教文化圏の価値観だとかそういういろんな価値観をもってどうしても見てしまう。
ところが八雲さんは見る事もするけれどもむしろあの聞くというそういう行為を通して日本人の中に入っていくと。
だから見るというとね主体的な感じがしますけれども聞くというとね少し受け身的な感じがしますけれども八雲さんはただ受け身的なだけではなくて両方をやっぱり持っていてそういう立場をものすごく大事にしてた人だと思うんですね。
聞いてみて入ってく時は何かすごく内面から入っていくというか近い感じがしますね。
そうですね。
むしろ見るという行為よりも聞くという行為の方が何かこう入っていく対象の内面といいますかねそういう事があったんじゃないかなって。
だから俺たちもわくわくするという。
そうだと思う。
多分「朝ズシンズシンといったらさあ何?」というクイズのヒントが出てくるみたいに僕らもそれに僕引き込まれてる。
僕らもだって思ったもん。
朝何だろうこの音はって。
振動がする?脈拍のようなリズムで?ってなるじゃないですか。
そこのような気がするな。
さてこの異文化理解に長けていた八雲ですが見たり聞いたりしてそれを文章にするだけでなく更に型にはまらない方法で理解を深めていたといいます。
ご覧下さい。
八雲が目をつけたのは「日本人の微笑」。
私たち日本人は無意識にほほ笑んでいる事が多いですよね。
無意識なので気付かない場合もありますが…。
ほらこうやってね。
でも西洋人にとっては日本人がいつも顔に微笑を浮かべているのはとても不思議で不可解な事のようなのです。
一方で八雲は日本の友人から西洋人がいつも厳しい顔をしている理由を聞かれました。
それをきっかけに八雲は「日本人の微笑」の意味を分析し始めます。
そして八雲はこんな話をします。
子供を亡くした母親が葬式でどんなに激しく泣いたとしても彼女があなたの家の使用人であったとしたら微笑を浮かべて子供の死を報告するだろうと。
要するに不可解な「日本人の微笑」は日本的な礼儀正しさの感覚にあるのです。
目上の人に対する礼儀でありどんな場面でも軋轢なく過ごすための教養の一つでもあるのです。
ほほ笑みを浮かべずに不幸そうに見えるという事が相手に対する無礼とも言えます。
なぜなら…更に悲しみをこらえ自己を抑制し己に打ち勝った者にこそ幸せは訪れるという日本人の道徳観がこの微笑には象徴されていると八雲は分析したのです。
それを体現しているのがこの鎌倉の大仏。
日本人にとっては当たり前とも言える周りを嫌な気持ちにさせないための配慮気遣いなのですが八雲はこの事を見事に分析し気持ち悪いと思われていた微笑を理解しました。
相手の立場に立ち相手の思考を自分なりに追体験してみる事で本質にたどりつく手法を八雲は自然と身につけていたのです。
ここまで言ってもらうと自分はちゃんと常にほほ笑めてるだろうかという事を少し考えてしまいますけど。
普通はオリエンタルスマイルって不気味な笑いというふうになってしまってるのがね八雲さんはこれをすくい取ってくれてるような感じがしますけれども。
途中ねその「日本人の微笑」を研究してこんなフレーズが出てきましたね。
八雲さん子供を亡くした母親の例を出していますが…。
あの日本人の笑いというのは…実際こういう日本人の心根というか心の状態があるんだろうと。
これが一つの礼儀であり礼節であると相手に対する。
そういうふうにこの「日本人の微笑」で結論づけてるわけですよね。
何でこういう事に行き着くというか気付くんでしょうか八雲は。
それはやはり日本人の側に立ってそれを解明するという事は単なる微笑の謎を解くだけではなくてやはり日本人の価値観とか伝統とかそういう事まで欧米の人に知らしめるという事になるんじゃないかと。
そういう思いがあったと思いますよね。
しかし八雲さんの過大評価というだけではなくて…八雲さんが展開したのはイギリス人のね見方「日本人の微笑」は不気味だと。
しかし日本人から見るとイギリス人はなんと堅くてくそ真面目かというふうに思うんですね。
ただ八雲さんのいい所はこの2つを比較しながら「イギリスが良くない」とかそういう言い方はしないで非常に相対性があって…変なただの日本びいきって話じゃないですもんねこれは。
そうですね。
しかも八雲は最後には鎌倉の大仏のほほ笑みが日本人の道徳観や心の平安までを象徴していると。
八雲さんはまず大仏様の微笑あれをやっぱりほほ笑みというふうに捉えてますね。
そしてあの心の状態。
まあ平安な人々の平和を祈るそういう心根をあの大仏様の顔の中に見ている。
つまり日本人の代表をあの表情に見てるって事ですよね。
悟りを開いてるわけですから仏様たちはもう平穏そのものなわけじゃないですか。
平穏以外の何ものでもない状態がややほほ笑んでるという事。
日本人は理想とする平穏はあの大仏の顔であるとするならばフラットという状態はあの顔には恐らくならない国の方が多いでしょうね。
そうでしょうね。
やっぱり共感力というか相手の立場に立つというか八雲さんはそういう事を身についてたというか生来のものという事もあるけれどもいろんな異文化に触れながらその文化異文化の特徴良さというものをすごく味わい尽くす事ができた人なんですよね。
だから大仏様を見てもそれは「日本人の微笑」の中で心の安らぎこそ最高の幸せであるというふうに書けちゃうわけですよね。
さあその相手の立場に立って相手の思考を追体験するという手法を使って八雲は分析を続けていくわけなんですがもう一つの例を見てみたいと思います。
八雲は松江で妻のセツと一緒に庭のある武家屋敷に暮らしていました。
この庭を八雲はとても気に入り西洋とは大きく異なる日本の庭を観察し分析しています。
八雲は「花の庭」である西洋に対し日本の庭は「石の庭」であると定義しこう書いています。
日本では寺や神社などの庭園に自然に石が置かれている事から日常的に石をめでるという審美眼が養われたのだと八雲は分析しています。
更に庭に植えられている樹木についてこう言及します。
またゆずり葉は新しい葉が十分に育つまで古い葉が落ちない事から息子が一人前に成長するまで父親が死なないようにという願いを象徴していると八雲は書き記しました。
庭に置かれているもの一つ一つに意味があり背景がある。
この日本の庭という小宇宙に八雲は日本の風景が凝縮されていると感じ感動したのです。
何か八雲さんも興味を持って徹底的に調べたり尋ねたりしたんだと思うんですけど。
目のつけどころがいいんでしょうね。
教えてくれる人もいるけれどもやっぱりそこに疑問を持ってこれはどういう事だというところに突っ込んでいく。
ものすごい観察眼ですね。
八雲さんが住んでた旧居ですね。
これ武家屋敷お侍さんが昔住んでた。
そこにお庭がついてるんですけどほんのね小さい庭なんですよ。
でも作品になるとこれだけ非常に小さいものが微小なものがもう部分拡大でこれだけ広い。
自分家の庭を見ながらこれは。
ええ。
見ながら書いてる。
あれに全てが詰まってるという事。
そうそう。
あれがもう一つの宇宙になって完璧な世界として描いてるわけですね。
しかもこの石っていうところに目をつけるところが。
ここでね2つの事が僕分かると思うんですね。
一つはやっぱり西洋の庭というのは花の庭。
しかもパリの庭なんかシンメトリーで。
あれはあれでまたきれいな。
これでもかこれでもかという感じで。
それはやはり八雲さんは意識しててやはり日本は花の庭ではなくて石だよなというふうに対照的に見てて。
石もやはり自然石そういうものがいいんだよな日本の庭には適してんだよなっていう。
八雲さんを見る時にやはり好奇心とか興味という言葉じゃ足りなくてその対象人でもそうですけどね自然そういうものを賞賛ですねアドミレーションというんですかそういう目で見てますね。
この人ただ単に褒めるんじゃなくて一旦相手の立場に立ってみたらそんなにおかしい事じゃないですよっていう。
むしろここを褒めていいんじゃないかみたいなとこあるから僕はインスピレーションで見た時は何か「おい日本人って何か分かんないけど石飾ってるぞ」って友達に言っても僕おかしくないと思うしそれを何かおかしいぜというのがなかったら入ってかないじゃないですか先に感じないんなら。
偉いのはそこで止まらない事で。
もう一個ね。
そうなんですよ違和感があるからあいつらおかしいなって終わっちゃわないというのが僕はすごい気がする。
やっぱり相手の立場に立ちきるという事でしょうね。
そこに寄り添うという事でしょうね。
そこへ入っていくという事でしょうね。
それでいて2つを否定してないんですよね。
相手日本を褒めるとなると自分の国は駄目だってなったりとかしないんですよね。
僕らも多分隣国の事を認めながらも自分たちのアイデンティティーもきちんと守れる事は絶対あるはずですよね。
そういう寄り添い方って絶対ありますよね。
何かヒントがいっぱいありますね。
ありますね。
さて次回は最終回ですが庶民の生活に深く入り込んだ八雲はその土地に伝わる民話や伝説にもとても興味を示し「怪談」を書くに至りました。
八雲が怪談に心引かれたのはどうしてなのかひもといてまいります。
ではまた来週どうぞよろしくお願いいたします。
ありがとうございました。
ほほ笑んで終わっちゃおう。
2015/07/22(水) 06:00〜06:25
NHKEテレ1大阪
100分de名著 小泉八雲 日本の面影 第3回「異文化の声に耳をすます」[解][字]

日本人の微笑みの本質を見事に読み解いた小泉八雲。そこには彼ならではの資質があった。五感を駆使し、異なる声に耳をすませ続けた八雲の「異文化理解の方法」に迫る。

詳細情報
番組内容
小泉八雲は、西欧人たちには理解が困難だった日本人の特質に新たな光を当てる。悲しいときのほほ笑みを「究極の克己心にまで達した謙譲」と読み解いた八雲。なぜここまで日本人の本質に迫れたのか?そこには「五感を研ぎすませて対象に向き合う」「相手の立場になりきる」といった八雲の資質があった。第三回は、五感を駆使し、異なる声に耳をすませ続けた八雲の「異文化理解の方法」を明らかにしていく。
出演者
【講師】早稲田大学教授…池田雅之,【司会】伊集院光,武内陶子,【朗読】佐野史郎,【語り】好本惠

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
趣味/教育 – 生涯教育・資格

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
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2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
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