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【政治】

火事と武力行使 全く違う 例え話ではぐらかし

◆柳沢協二氏の安保国会ウォッチ

 他国を武力で守る集団的自衛権の行使容認を柱とする安全保障関連法案は、二十七日から参院で審議入りする。安倍晋三首相は法案の国会審議がなかった先週、テレビ番組などに相次いで出演し、火事などの例え話も交えて法案の必要性を訴えた。だが本紙で国会論議の「ウオッチ」を続けてもらっている元内閣官房副長官補の柳沢協二氏は、首相の例え話に関し「火事と武力行使は全く違う」と批判した。

 首相は「国民の理解は進んでいない」と自ら認めながら衆院での採決を強行し、その後に国民に説明すると言ってテレビに続けて出演した。本来、国会議論を通じ国民の疑問に答え、理解を広げなければならないのに、そちらは打ち切り、テレビで言いたいことを言うのは順序が全く逆だ。

 首相は番組で、安保法案での集団的自衛権行使を「火事」の例え話で説明した。だが国民が聞きたいのは、火事のことではなく、武力行使のこと。火事と武力行使は全く違う。武力行使は反撃を受ける。法案の本質は戦闘であり戦争だ。家の戸締まりにも例えたが、集団的自衛権の行使は自分から出掛けて戦う話だ。こんな例え話で国民が法案を理解するはずがない。

 首相がこんな例え話で説明するのは、国民がこの程度のレベルでしかないと考えているのか、自身がこういうことでしか理解できないのか。本質をはぐらかそうとしているのだろう。いくら「丁寧に」と言ってもだめだ。

 首相は番組で「支持率のために政治をやるのではない」と言った。だが政策には信頼と理解が必要で、その結果が支持率に表れる。支持率が下がったということは、国民が信頼していないということ。信頼がなくてもやるというのは民主主義でなく、独裁だ。

 首相は衆院での論戦を「憲法論に終始した」と不満を漏らした。だが合憲だとの合理的な説明が全くできていないために、そこが繰り返し議論になるのは当然だ。参院では与党の質問時間を増やす考えを示したが、与党とのなれ合いの質問に時間を割いても意味がない。

 女性の反対が特に増えている。「子どもを守りたい」と、自分自身の問題として捉えているからだ。安倍政権はこの痛みを受け止めていない。血の通った政治ではなく、血を流させる政治。女性はそれを見抜いている。 (聞き手・石川智規)

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◆首相、集団的自衛権を「火事」で説明

 安倍晋三首相が集団的自衛権の行使を「火事」に例えたのは二十、二十一日の民放番組。首相は広い敷地にある「アメリカ家」と、道路をはさんで隣にある「日本家」の模型などを使い、「(アメリカ家の)母屋やはなれが燃えても日本は消火活動できないのが今の解釈」と指摘した。

 その上で、今回の安全保障関連法案により「はなれから煙や火の粉が舞い、日本家が燃える明白な危険がある場合は、道の上からはなれの火を消しにいくことができるようになる」と説明した。

 司会者から「はなれはホルムズ海峡のことか」と質問されると、首相は「はなれは、日本近海にいる米国のイージス艦。ホルムズ海峡は、この典型例とは少し違う」と述べた。 

 

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