新国立競技場に関して、いま建築業界は騒然としています。当初の値段よりお金が釣り上がることは良くあることです。今までそういう時は、工期を分けたり、掛け率を下げ見かけ上の値段は安く見えるようにしたりして、なんとかまかなってきました。まことに心苦しくはありますが、それが現実です。
これからもう一度コンペを行い…という手順は、我々専門家でも”間に合うのか?”と動揺を隠しきれません。
しかし、これは積算をあまりに軽く考えている日本の建築業界が招いた結果ではないか、と厳しいようですが思います。コンペを行う前の初期段階で、建築概要(屋根の有無や、椅子の数など)とそれに基づく適正な予算を積算士によって決定していれば、こんなことにはならなかったのでは、と思います。
安藤氏の”なぜ2520億か、わたしも知りたい”という発言には、怒りしか覚えませんでした。”建築家は、お金に一切関与しない”という姿勢は、あまりに旧時代的すぎると思うからです。
積算は、地味な部署です。あってもなくても気づかれないような存在です。延び延びの設計スケジュールに振り回され、図面には名前も乗らず、メディアに取り上げられることもなく、日の目を見ることはほぼありません。
でも、積算無くして建築は立たないのです。予算のない建築はありません。お金が、設計も、建築のグレードも、構造も、デザインだって変えるのです。積算だって、設計の一要素だと僕は信じています。
積算に割り当てられる費用は、目に見えて年々少なくなってきています。オリンピックに向け建築業界は浮き足立っていますし、まだまだオリンピックに向け建てなければならない施設はごまんとあります。そこで一つ見直してほしい。初期段階で概要と予算をきちんと決め、知識と経験のある積算士にちゃんとお金を払って見積もりを作ってもらうことこそが、一番のコスト軽減になること。