<TPP>著作権、非親告罪化 社会や文化の萎縮懸念
毎日新聞 7月25日(土)21時19分配信
28日から閣僚会合が開かれる環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉で、著作権を巡る議論に国内の専門家から反発する声が上がっている。米国は著作権侵害の処罰に告訴を必要としない「非親告罪」化、保護期間の延長、法定賠償金の導入などを日本に求めるが、これらを受け入れると社会や文化の萎縮につながりかねないと懸念している。
著作権問題に詳しい福井健策弁護士は23日、漫画家の赤松健さんらと政府のTPP対策本部を訪ね、TPP交渉から著作権に関する条項を除くよう求める3637人分の署名を提出した。報道各社の取材に「条項は、我が国の競争力や豊かな文化を弱める恐れが強い」と訴えた。
日本の著作権法は、海賊版など著作物の無断使用に対し、個人なら10年以下の懲役か1000万円以下の罰金、法人なら3億円以下の罰金と定める。ただ、起訴には著作権者の告訴が必要。米国が自国と同様の非親告罪化を要求する理由について玉井克哉・東京大教授(知的財産法)は「海賊版がテロリストや反社会勢力の資金源になっていると考えている」と説明する。
しかし、要求を受け入れれば、日本で広く行われている二次創作に影響が及ぶ可能性もある。代表例が参加者数十万人の同人誌即売会「コミックマーケット(コミケ)」。作品の大半はオリジナルを基にした二次創作で、そもそも「グレー」だが、告訴が不要になれば摘発のハードルが下がる。アマチュア時代にコミケで腕を磨いた赤松さんは「逮捕を恐れ創作が萎縮しかねない。日本漫画のパワーが落ちクールジャパンに逆行する」と話す。
田村善之・北海道大教授(知的財産法)は「著作権者があえて告訴せず、著作物が寛容に利用されることで社会や経済がうまく回っている」と指摘する。企業内での書籍のコピーなど、厳密に解釈すれば法に抵触する例は身近に多い。
また、著作権の保護期間は作者の死後50年間から、欧米の70年間に合わせるよう求められている。劇作家の平田オリザさん(52)は「得をするのはディズニーなど米国の大企業だけで、日本にメリットはない」と話す。
一方、法定賠償金は、著作権侵害による実際の損害額が確定できなくても、裁判所が制裁的要素を含めて一定の賠償額を決められる制度。日本でも導入されれば、米国のように賠償訴訟が乱発されるかもしれない。
福井弁護士は「条約として決まると後から覆せない。要求を受け入れたとしても、影響を限定的にする条項を入れるべきだ。政府は可能な限り情報公開してほしい」と指摘する。【一條優太】
◇TPP交渉の著作権を巡る論点
【処罰の非親告罪化】
・海賊版対策の強化
・コミケ販売品も摘発対象に? 創作現場の萎縮も
【保護期間延長】
・欧米などとの基準統一
・権利者側の意欲向上?
・著作権に長く縛られ、表現の停滞も?
・著作権者が不明な作品の問題が深刻化
・死蔵作品の増加
・著作権使用料の国際収支悪化
【法定賠償金】
・著作権侵害の賠償金上昇(日本は比較的低いとされる)
・高額賠償訴訟の乱発、表現の萎縮も?
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