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【社説】

参院10増10減案 違憲状態は脱せない

 参院の「十増十減」案が参院を通過した。「一票の不平等」是正が目的だが、格差は依然、三倍近い。この程度では、最高裁が断じた「違憲状態」を脱するとは言えず、より抜本的な改革が必要だ。

 なぜ、この程度の是正しかできないのか。憲法が定める「法の下の平等」はそれほど軽いのか。

 十増十減案は、維新の党、次世代の党、日本を元気にする会、新党改革の野党四党がまとめ、自民党が受け入れた案である。

 「鳥取・島根」「徳島・高知」をそれぞれ一つの選挙区に統合(合区)し、いずれも定数を二(三年ごとの改選数は一)とする。宮城、新潟、長野は定数四(同二)から二(同一)に減らし、北海道、東京、愛知、兵庫、福岡は定数を二(同一)ずつ増やす。最大格差は二・九七倍となる。

 公明、民主両党は二十県十合区で最大格差を一・九五倍とする「十二増十二減」案を提出したが、自民党は受け入れなかった。議席減につながる合区の少ない野党四党案の方が得策との判断だろう。保身以外の何ものでもない。

 憲法一四条は、法の下の平等を定める。投票価値の平等は憲法の要請であり、民主主義の基盤だ。

 最高裁は最大格差四・七七倍の二〇一三年、五倍の一〇年参院選を、いずれも「違憲状態」と判断し、都道府県単位の選挙区割りには限界があるとも指摘した。

 抜本的な是正策を講じず、次の選挙が行われれば、違憲、無効判断もあり得るとの警告でもある。

 自民党は最高裁の要請に真剣に応えようとせず、ブロック制導入などの抜本改革案を葬り去ってきた。安全保障法制関連法案と同様の憲法軽視体質は見過ごせない。

 自民・野党四党案は、今年一月一日現在の住民基本台帳人口に基づく計算では格差がすでに三倍を超えている。投票価値の平等を満たしているとはとても言えない。

 来年夏の参院選まで約一年。周知期間を考慮すれば、早急に是正案を成立させる必要はあるが、格差三倍の案では憲法無視とのそしりは免れまい。

 次の参院選はせめて、格差二倍未満の公明・民主両党案で行うべきではないか。その後速やかに、衆参両院の役割分担や選挙方法の見直しも含む選挙制度の抜本改革に着手すべきだ。

 その際、最も重視すべきは、投票価値の平等と、国会議員は全国民を代表するという憲法の要請である。党内の異論を理由にした怠慢はもはや許されない。

 

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