相談員「生活保護打ち切る」 元患者証言、通院やめられず 精神疾患患者“囲い込み”
産経新聞 7月24日(金)7時55分配信
精神疾患患者の通院をめぐり、都内自治体の福祉事務所が特定医療機関の“囲い込み”の場として利用されていた疑いが23日、明らかになった。「通院をやめたら生活保護を打ち切るといわれ、続けざるをえなかった」。約6年前、福祉事務所を通じ、区が契約するクリニックを紹介された都内の20代男性が、その実態を証言した。
男性は平成21年ごろ、体調不良で職を失い、都内のある区の福祉事務所へ生活保護の相談に行った。相談員から「学校のようなところへ行ってもらう」と言われ、相談員同行のもとで連れて行かれたのが、区が契約するクリニックだった。相談員がクリニックの職員だったことは後日、分かったという。
診察後、担当者からは病名を告げられなかったが「毎日来るように」と言われた。クリニックでは午前10時過ぎから夜まで、ボードゲームやクロスワード、塗り絵などをするだけ。同じフロアの患者は20〜30代が多く、ほとんどが生活保護を受けていた。「ろくに診察もなく、スタッフは居眠りをしていて、何か相談しても『自分で考えましょう』と言うだけだった」。疑問を感じた男性は、間もなく通院を中断した。
だが、相談員から、「通わないと生活保護を打ち切るよ」と連絡が入る。「発達障害」などの病名を告げられ、再度、通院するよう念を押された。通院と生活保護受給は関連がないが、男性は「生活保護が出なくなる」と、通院を再開した。
その後、クリニックの仲介でシェアハウスに転居。ベニヤ板で仕切られた3畳ほどの部屋だった。トイレは共同。風呂はなく、有料のシャワーのみだった。「スタッフがダイヤル式の部屋の鍵番号を知っていてクリニックを休むと訪問を受ける。シェアハウスに住まわせるのは患者を管理しやすくするためではないか」と男性は推測する。
「あなたはお金を管理できない」と生活保護費を全額、封筒ごと預けさせられた時期もあった。1日千〜1500円程度の「お小遣い」を与えられたが、クリニック側から預かり証などをもらった記憶はない。
男性は最近になってクリニックを離れ、障害者就労支援施設に通いながら自立の道を模索している。「早く仕事探しをしたかったが、クリニックは自立するよう仕向けていないと感じた。いま、ようやく自分を変えられそうだと思っている。クリニックに通った6年間は無駄だった」
■精神疾患患者“囲い込み” 貧困ビジネスの新たな温床懸念
精神医療の問題に取り組む「市民の人権擁護の会」の米田倫康代表の話「福祉事務所という公的機関にいる相談員が、所属を明かさず患者の相談に乗り、自身の属する医療機関に誘導するのは問題だ。当該医療機関では不適切な治療や管理によって患者の健康や人権が損なわれている疑いがあり、利益相反の構図といえる。昨年の生活保護法改正によって貧困ビジネスへの規制や監視が厳しくなった一方、自立支援医療費の乱用にまで法規制が追いついておらず、貧困ビジネスの新たな温床として同様の手口が広がっている恐れがある」
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