ラッセル米国務次官補は今月21日、「南シナ海における国際法遵守にまつわる問題に関し、米国は中立を守ることはない」と明言しました。
中国が東シナ海や南シナ海で示しているような一国主義的姿勢に対して中立でいるというのは、それこそが国際秩序を乱す行為といえるでしょう。中国が東シナ海上空に防空識別圏(ADIZ)を設定した際にも触れましたが、米国は「航行の自由確保」と「武力による現状変更の拒否」については譲らない一線としています。
南シナ海では米国はあまり深く関与せず、中立的立場でオフショア・バランシングするのではないかという見方もありますが、「それは誤解である」とラッセル国務次官補が米国の立場を鮮明にしました。
中立を捨て、国際法を順守する側につき、秩序を維持するためにはどうすればいいのか、という点について、ちょうど中国海軍の専門家であるアンドリュー・エリクソン海軍大学准教授が米下院外交委員会アジア・太平洋小委員会にて「南シナ海における米国の安全保障上の役割」というテーマで語っています。
エリクソン氏にしては珍しく、軍事戦略よりも上の階層について提言しています。その一部には個人的に首をかしげるところもありますが、大変示唆に富む内容ですし、中国によって南シナ海の「航行の自由」が脅かされ、「武力による現状変更」が行われている現状を端的に説明している優れた資料です。もうちょっとハードウェアの話も聞きたかったところですが、それは別の場所で普段からやっていることですしね。とりあえずメモ代わりの更新。
大規模人工島
防空識別圏(ADIZ)
転換点
パラダイム・シフトの必要性
抑制的な衝突を受け入れる
競争的共存(competitive coexistence)
トゥキディデスの虚喝
政策提言
ミサイルギャップ
航行の自由の維持
【東シナ海ADIZに関する過去記事】
美高官声称在南海“不中立” 为日菲抗衡中国撑腰(2015/7/23 環球時報)
“关于南海,当涉及国际法的遵守问题时,美国非但绝不会‘恪守中立’,相反还会立场鲜明地站在(国际)制度的一边。”美国助理国务卿拉塞尔21日在华盛顿一个智库研讨会上回答中国学者提问时明确表示,认为美国在南海问题上“恪守中立”立场只是“中国的误解”。
中国が東シナ海や南シナ海で示しているような一国主義的姿勢に対して中立でいるというのは、それこそが国際秩序を乱す行為といえるでしょう。中国が東シナ海上空に防空識別圏(ADIZ)を設定した際にも触れましたが、米国は「航行の自由確保」と「武力による現状変更の拒否」については譲らない一線としています。
南シナ海では米国はあまり深く関与せず、中立的立場でオフショア・バランシングするのではないかという見方もありますが、「それは誤解である」とラッセル国務次官補が米国の立場を鮮明にしました。
中立を捨て、国際法を順守する側につき、秩序を維持するためにはどうすればいいのか、という点について、ちょうど中国海軍の専門家であるアンドリュー・エリクソン海軍大学准教授が米下院外交委員会アジア・太平洋小委員会にて「南シナ海における米国の安全保障上の役割」というテーマで語っています。
Andrew S. Erickson, Testimony before the House Committee on Foreign Affairs Subcommittee on Asia and the Pacific, Hearing on “America’s Security Role in the South China Sea,” Rayburn House Office Building, Washington, DC, 23 July 2015.
エリクソン氏にしては珍しく、軍事戦略よりも上の階層について提言しています。その一部には個人的に首をかしげるところもありますが、大変示唆に富む内容ですし、中国によって南シナ海の「航行の自由」が脅かされ、「武力による現状変更」が行われている現状を端的に説明している優れた資料です。もうちょっとハードウェアの話も聞きたかったところですが、それは別の場所で普段からやっていることですしね。とりあえずメモ代わりの更新。
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大規模人工島
- 南シナ海でキーワードとなっている礁は、国際法上、“島”の要件を満たさない(筆者注:ここでいう礁(feature)は満潮時に水面上に出ないものを指しているとみられる。国連海洋法条約121条)。
- 中国は世界最大級の浚渫船を動員し、珊瑚礁の上に大量の砂とコンクリートを流し込み、何もなかった海の上に2,000エーカー以上の陸地を造った。
- ハリス米太平洋軍司令官はこれを“砂の長城”と呼ぶ。
- この人口造成地には、軍事関連施設(軍用機を運用可能な2本のランウェイ)がある。
- 中国政府は、人工島を軍事利用することを公式に発表している。
- 中国の軍事筋はさらに具体的な利用についても触れている;
- 人員が駐留できる施設の充実
- 補給や海上民兵、沿岸警備隊、海軍艦艇のための港湾施設の充実
- 監視のためのレーダー設備配備
- 防空ミサイルの配備
- 軍民の航空機用滑走路の充実
防空識別圏(ADIZ)
- 人工島の滑走路は、長さが問題となる。ターボプロップやその他の民間機を用いるような人員退避や災害救援活動に3,000mの滑走路は必要ない。人工島の滑走路は軍用機のためのものである。
- ファイアリークロス礁にはすでに誘導路も建設済み。
- 南シナ海で領有権を主張する中国以外の国で、3,000m級の軍用滑走路を持っている国は無い。
- 人工島上のレーダー群は海空域の警戒監視を行い、中国にとって不快な行動をとった外国の航空機にスクランブルをかけたり迎撃する情報を与える。
- すべての沿岸国はADIZを設置する資格を持つが、中国が東シナ海で行ったやり方を見ると心配である。
- 中国はADIZを飛行する外国航空機に対して国内規則を強制し、これに従わない場合には中国軍による防御的緊急措置(defensive emergency measures)をとると宣言した。
- しかし、防御的緊急措置についての詳細は依然として不明である。
- 中国が12海里の領空を超え、国際空域をも自国空域として扱おうとしていることが重要なポイントである。
- こうした懸念は、中国の海洋主権に関する過去の行動からくるものだ。
- 多くの国が国連海洋法条約(UNCLOS)を遵守し、12〜200海里までを排他的経済水域(EEZ)としている。隣接国と400海里離れていなければ、EEZは200海里以下となることもある。
- 中国はEEZ内での外国の軍事行動を制限する権利を有すると主張し(筆者注:UNCLOSにはEEZ内における軍事活動に関する規定はないが、自由に行えると解釈されている)、ADIZにも同じやり方を適用している。
- 中国は現在、P-3やP-8のような長距離対潜戦(ASW)アセットが不足している。
- ヘリパッドのある人工島が増えれば増えるほど、ヘリによるASWカバー範囲が増える。
- 人工島の分散は、ヘリの足の短さを補うことになる。
転換点
- 米海軍大学・中国海洋研究所(CMSI)のピーター・ダットン所長は、「中国の活動が“転換点(tipping point)”にある」としている。
- ダットン「人工島の軍事基地化は戦略的安定と地域のパワーバランスを変更するだろう。」
- 人工島を軍事基地化し、仲裁を拒み、多国間協議を嫌い、二国間交渉をも断る姿勢は、地域の安定と国際秩序を損ねている。
- 中国の南シナ海における恫喝的行為を抑えようとする時、米国は中国の三叉の矛(three-pronged trident)に直面するだろう;すなわち、海上民兵、沿岸警備隊、海軍。
- この三者によって多層的に構成される戦略を“キャベツ戦略(Cabbage Strategy)”という。
- 中国の沿岸警備隊(筆者注:海警など海上法執行機関)は、隣接国すべての沿岸警備隊を合わせた数よりも多く、さらに増加中である。
パラダイム・シフトの必要性
- 中国がどれほど成長しようとも、米国の態度は明確だ;我々は撤退しない。
- 南シナ海、東シナ海、黄海において我々の意志と戦力を維持し、それらの地域を国際公共財の一部として平和に保たなければならない。
抑制的な衝突を受け入れる
- 我々は制限的な衝突や競争を受け入れなければならない。
- 米中は同じ戦略環境に住み、死活的な国益が重なっている。
- 世界は真の多極システムにほど遠く、米国は依然として世界の主導的国家として強力ではあるが、一極システムの時代は終わった。
競争的共存(competitive coexistence)
- 競争的共存という考え方が、大国関係を形成する。
- 冷戦期における米ソのようなライバル関係とは異なるため、冷戦思考による「封じ込め戦略」という非難は不正確だ。
- 一定程度の衝突と緊張を受け入れつつ、「トゥキディデスの罠」や「新型大国関係」といった用語を葬らなければならない(筆者注:極端な対立や協調ではなく、トムとジェリー的に揉めながらも共存せよということらしい)。
トゥキディデスの虚喝
- 「強きがいかに大をなし得、弱きがいかに小なる譲歩をもって脱し得るか」(トゥキディデス)というのは、米国が推し進める世界ではない。
- 核兵器、国際制度、グローバル化、金融市場などの発達は、第一次世界大戦当時とは異なる世界を生んでいる。
- 上記のようなポジティブ・ネガティブ両方からの強力なインセンティブによって米中は制約を受ける。
- ワシントンと北京は軋轢と緊張に面しているが、利益を共有してもいるため、戦争を回避し得る。
- ゼーリックの“責任あるステークホルダー”に代わり、“戦略的ステークホルダー(strategic stakeholder)”という表現がより適切かもしれない。
政策提言
- 軍事的なハードウェアがカギとなる。
- 潜水艦戦力は米国の優位な分野であるため、これを維持するために攻撃原潜(SSN)と攻勢的機雷に重点を置くべきだ。
- 対艦巡航ミサイル(ASCM)を主力にした中国のA2AD戦略も米国の手本となる。
ミサイルギャップ
- 我々は米国のASCM開発がここまで衰えてしまうのを看過すべきでなかった。
- 中国経済の行方がどうであれ、中国海軍は地域において米国のシー・コントロール能力と肩を並べることになるだろう。
- ギャップを適切に埋めていかない限り、2020年までに米国を押し出すほどのミサイルを配備しようとしている。
- 米海軍の優位維持は、次世代長距離ASCMによって決まる。
- 私は米中が戦争を回避できると確信しているが、平時及び危機時に強力な抑止力を維持することが必要だ。
航行の自由の維持
- これまで述べてきた事柄は、国際法に裏付けられたすべての重要なエリアへの自由なアクセスを支援する。
- 航行の自由は国際法に従って実施されるべきであり、その国際法によると、島と岩は領海と領空を12海里内に形成するが、礁(高潮時に水面下に沈むもの)は領海・領空を形成しない(筆者注:南シナ海における中国の人工島造成が国際法に反していることを指している)。
- 米国はUNCLOSを批准すべきである(筆者注:米国はUNCLOSを実質的に遵守しているものの、条約そのものの批准はしていない)。
【東シナ海ADIZに関する過去記事】