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ゲート・オブ・アミティリシア・オンライン 作者:翠玉鼬
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第46話:旅路~3日目深夜2~

5/18 一部加筆修正
 
 攻撃は【自由戦士団】による射撃から始まった。弓や弩を持っている団員が、川を渡ろうとして速度を落とした一つ目熊とウルフに狙いを定め、矢を放つ。何頭かのウルフが矢を受けて砕け散ったのを見て一瞬驚いてしまったが、それがGAOの普通だったっけと思い直す。【解体】スキルを得てから、倒した獲物はずっと残ってたからすっかり忘れてた。
 一方、一つ目熊はそのほとんどの矢を受け付けなかった。刺さっているのは2本程。それも表皮に浅く刺さっただけで、ダメージを与えているようには見えない。
「長柄持ち、前へ!」
 レディンが前に出ながら次の指示を出す。槍やハルバードを持った団員が前に出て、川から上がる前のウルフに対して突きを繰り出す。地上なら軽やかに動けるであろうウルフも、脚が完全に水の中ではろくに避けることもできずに次々と身体を貫かれては消えていった。
「まずは一撃っ!」
 接近しながらレディンが剣を振るった。その軌跡が光となり、一つ目熊へと突き進む。確か刃物系の遠距離攻撃アーツ【リープスラッシュ】だったか。魔力刃による飛ぶ斬撃だ。アオリーンも同じアーツを一つ目熊に放った。
 どちらも命中し、皮膚を裂く。しかし一つ目熊を怯ませるには至らない。咆哮を上げて魔獣はこちらへと進み、上陸した。
 側にいた団員達が慌てて退避する。近くにいた団員に魔獣は敵意を向けようとするが、レディンとアオリーンが攻撃している間にも俺は間合いを詰めていた。
 【魔力撃】を両足に発動。【跳躍】も併用して跳び、一つ目熊の横っ面に思い切り蹴りをぶち込んだ。一瞬その巨躯が揺らいだが、一つ目熊がその豪腕を俺に向けてくる。ダメージ入ってないのかよっ!?
 反撃が来る前に、俺は熊の顔を踏みしめて跳んだ。急いでいたために力加減はできなかった。思った以上に俺の身体は高く遠く跳ぶこととなる。
「跳びすぎたっ!?」
 数秒の空中浮遊の後で着地する。【跳躍】スキルがなかったら着地時にダメージ受けてたかもな。次から気をつけよう。
 俺が着地する間にもレディンとアオリーンが直接一つ目熊を斬りつけている。2人の剣が閃く度に鮮血が飛ぶ。2人には出血は見えてないんだろうけど。
 しかし、あの2人の攻撃があんまり効いてないように見えるのが恐ろしい。ダメージは入ってるはずなんだけどな。倒しきるまでにどれだけの攻撃を加えればいいんだろうか。そう考えたら、装備用に一つ目熊を狩りまくってたルーク達が異常なのか。でもルーク達にはウェナがいるからな。急所攻撃で仕留めたのかもしれんし、魔法職が3人もいるわけだからそっちメインで倒したのかもしれん。
 実はGAO、急所攻撃がとても有効だったりする。どんなに表皮が頑丈でも脳を抉れば死ぬし、心臓を破壊すれば死ぬ。当然、狙うのはハイリスクだし、そう簡単にはいかないんだが。いや、ウェナは簡単に魔族相手にそれやってましたけどね? アレを普通だと思ってはいけない。
 で、一つ目熊の場合、急所と言えるのはやはりその目玉だろう。あそこを潰せば一撃で仕留められなくても視覚を奪うことができる。ただ、後ろ足で立ち上がっているために剣の間合いからはやや遠い。肉薄すれば届きはするが、それは一つ目熊の間合いに入るということでもある。
 だったら、間合いの外からでも届く攻撃をすればいい。
 俺はダガーを1本抜き、狙いを定める。熊がレディン達に意識を向けた瞬間を――今!
 魔力を纏ったダガーを投擲する。その一撃は狙いどおりに一つ目熊の目に突き刺さった、なんてことにはならず、叩き落とされた。
「うっそ……」
 思わずそう呟いて、動きを止めてしまった。避けられるとか、狙いが外れるとかは想像の範囲内だが、叩き落とすってのはどうなのよ!? 本当に熊かこいつ!?
「くっそ! 以前の奴よりプレッシャーは小さいが、手強さは大差ないんじゃねぇかこいつっ!?」
 振り下ろされる爪をかいくぐり、レディンが一つ目熊の横を抜けた。手にした剣に魔力の光が宿る。多分、【強化魔力撃】だ。
「どりゃあっ!」
 レディンの一撃が一つ目熊の右後ろ脚に叩きつけられた。刃が深々と足首に埋もれ、魔力が閃光となって弾けると共に鮮血がほとばしる。足首を半分以上断たれた一つ目熊は、巨躯を支えきれずに体勢を崩した。
「ふっ!」
 その隙を衝いてアオリーンが長剣を繰り出す。狙いは完全に無防備になっている一つ目熊の目だ。剣先が真っ直ぐに大きな一つ目に吸い込まれた。
「もう一押し……っ!」
 一つ目熊の咆哮が響き渡る。視覚を奪うことには成功したが致命傷には至っていない。そのままとどめを刺そうとしたのだろう。盾を捨てて長剣を両手で持ち、更に剣先を押し込もうとするアオリーン。
 しかしその時には、一つ目熊の腕がアオリーンに迫っていた。
「アオリーンっ!」
 その間に割り込むものがあった。それはレディンの身体だ。愛剣を手放し、足に溜めた魔力を地に叩きつけて一気に加速した彼はアオリーンを突き飛ばす。アオリーンは一つ目熊の間合いから離れたが、その代償がレディンを襲った。
 プレートメイルを装備しているレディンの身体が、真横に吹っ飛んでいく。数メートル先で地面に落ち、しばらく転がってようやくレディンは止まった。
「レディンっ!?」
 悲鳴に近い声で名を呼ぶアオリーン。
「アオリーン! レディンの保護!」
 一応この場の指揮権はレディン達にあるんだが、そんなことを言っていられる場合でもない。アオリーンは一瞬迷ったようだったが、無言で頷いてレディンに駆け寄っていく。
 さて、唯一の目を失った一つ目熊は俺達を見失ってる。今が好機と俺は一気に間合いを詰めて――って、何でだっ!?
 俺を狙って振り下ろされた爪を、横に跳んで回避する。何だ今のは? 偶然振り回した腕が俺に迫ったって感じじゃなかったぞ?
 死角に回るように動くが、一つ目熊は若干の遅れを見せたものの俺を追尾してる。目は見えてないはずだ。だとしたら、嗅覚か? そういやリアル熊さんの嗅覚は犬以上なんだって爺さんが昔教えてくれたっけ。GAOの熊類も同じってことか。
 だったら嗅覚を潰せばいいか。その手段を持ってはいるが……後でクインに怒られそうだ。熊の嗅覚を潰す程の匂いってことは、それより弱い嗅覚の狼にもそれなりにダメージいきそうだからな。というか、人間の俺にも結構キツイからなるべく使いたくない。
 仕方ない、正攻法でいこう。右腕に【強化魔力撃】を3重掛けし、獲物の右側へ回り込む。右後ろ脚が使い物にならない上に目も潰れてる以上、いくら匂いで追えると言っても動きが鈍るのは避けられない。その隙を狙って、打つ!
 右脇腹に叩きつけた拳の一撃は、一つ目熊の口から絶叫と血を吐き出させた。手応えあり、だ。打撃そのものは毛皮やら皮下脂肪やらに吸収されて威力が落ちたみたいだが、その後の魔力爆発は結構効いたと見える。
 俺は即座にその場から離れる。苦痛にうめきながら、一つ目熊はその場から動こうとしない。いや、動けないのか。さて、ここからどうするか。
 すると後方から悲鳴が聞こえてきた。敵の増援に襲われたのかと思ったがどうも違う。悲鳴というか声は次第にこちらに近付いてくる。一体何だろうと思っていたら、その主が俺のすぐ傍に転がってきた。
 そいつはボロ雑巾のようになった男だった。引きずられたのか全身土だらけの傷だらけだ。誰だこいつ?
「たっ、助けて……ぶぎゃっ?!」
 何やら命乞いをする男の顔を、翠玉色の閃光が叩いた。あぁ、クインか。ってことは、こいつがあっちにいたテイマーか。無事に確保してきたんだな。
「よくやってくれた、クイン。まずは鹿1頭だな」
 頭を撫でてやると、嬉しそうにクインが尻尾を振った。特に負傷した様子もないな。
 とりあえずクインを待機させ、俺は男の胸ぐらを掴んで吊し上げる。
「正直に話せば命は助けてやる。ここを襲撃してる他のテイマーはあと何人いる?」
「あっ! あと2人ですっ!」
 散々クインに痛めつけられたのか、男はあっさりと吐いた。
「次だ。あの一つ目熊はお前の使役獣か?」
「ち、違います……違います! 本当に俺の使役獣じゃありませんっ!」
 嘘を言ってる可能性もあるので指を男の右瞼に添えてみたが、恐怖に顔を歪ませた男は必死に否定する。こいつに止めさせるのは無理、って事か。使えない奴だな。
「ここの襲撃に参加した人間の数は? お前以外は何人いる?」
 指に少しだけ力を加えながら、聞く。
「俺以外には2人だけですっ!」
「次。そいつらの使役獣の戦力は?」
「一つ目熊1頭にブラウンベア1頭! 後はブラックウルフが1頭にウルフが30頭! それから馬が2頭! 本当です! 本当ですから抉らないでっ!」
 ん、ブラウンベア1頭だけか? じゃあこの辺に出るブラウンベアって別口か。まぁいい、それだけ分かれば今は十分だろう。
「誰かこいつを拘束しておいてくれ! 後で聞きたいことがあるから、ソフトにな?」
 男を団員の1人に引き渡し、レディンの方を見る。アオリーンが回復措置をとったんだろう、身体を起こしていた。
「レディン、大丈夫か?」
「おお、何とかな。しっかし強烈だったが、即死してないって事は、やっぱあいつ、小熊なんだなぁ」
 その言い方だと、以前は一撃で殺されたのか。大人の一つ目熊に会うのが怖くなってきたな……
「アオリーン、剣を貸せ」
 副官から長剣を受け取り、レディンが一つ目熊へと向かう。一つ目熊は俺が与えたダメージからようやく動けるくらいにはなったようだ。とは言え、さっきみたいに戦える感じじゃないけどな。ふむ、さっき攻撃した位置、急所的な部分なのかもしれないな。覚えておこう。
 近付くレディンの匂いを嗅ぎ取ったのか、一つ目熊がそちらに顔を向ける。そして跳びかかった。おいおい、まだあんな動きができるのかっ!?
 しかしレディンは冷静だった。自分から懐へ跳び込み、長剣を一つ目熊の喉へ突き立てる。そして反撃が来る前に剣を離して即離脱。その際に自分のバスタードソードを回収するのも忘れない。一つ目熊はその場に崩れ落ちた。今のが致命傷みたいだな。
 やっぱり強いよなぁ。さっきあれだけダメージ受けて、過去には殺られたこともあるっていう相手にあの思い切りのよさは見事だ。
「ふむ、機動力を殺した後は、失血で弱るまで時間掛けて、鈍ったところで一斉攻撃すりゃ安全に倒せそうだな。俺らにゃ血は見えんが、失血による弱体化はあるようだし。それに鼻があると言っても目を潰すのは有効か」
 油断せず一つ目熊に注意を向けたまま、そう分析するレディン。
「失血ってそんなバッドステータスがあるのか?」
「ああ。倫理コードのせいで出血が見えねぇから、相手の怪我だけ見ての判断が難しいのが難点だがな」
 あー、普通の人なら分からんわな。今の一つ目熊がその状態なのかは分からんけど、俺の目には結構な出血が見えている。ん、てことは出血多量で死亡とか、そういうのもあるのかもしれないな。
「さーて、そんじゃフィスト先生、とどめをお願いしやす。これで熊肉ゲットだな!」
 言いながらレディンがその場を移動する。おいおい、まだ戦闘中だろうに。と思いながら周囲を見ると、既にウルフの姿はない。あれ、攻めてきてた奴は全滅か?
「みんな、何頭倒したか覚えてるか?」
 確認してみると団員達がとどめを刺した数を申告してくる。数は20ちょい、か。森の方を見てみるが、まだ潜んでるウルフがいるな。
「レディン、他のテイマーどうする?」
「できれば全員捕まえときたいところだが、いけるか?」
「深夜の森の中で活動可能な団員が何人いる?」
 川を越えて森へ追撃するにしても、連中を逃がさないようにするのは難しいだろう。捕虜の言葉が事実なら、まだブラウンベアとブラックウルフもいるようだし。そいつらを捨て駒にすればテイマー2人は馬で逃げ出せるだろうし。人数を繰り出しても厳しいな、多分。
「……クイン、どうにかなるか? 条件はさっきと同じだ」
 クインは俺を見上げたまま。何だ、できるのかできないのかどっちだ?
「できない、んじゃないよな?」
 そう言うと首を縦に振る。
「じゃあ、頼めるか?」
 今度は動きがない……まさかのストライキか? 今回は敵戦力が多いからそのせいか? 確かにさっきは、邪魔する使役獣もいなかったしな。
「……条件は同じだが、人間2人を生け捕りにできたら鹿1頭追加だ。ついでに、使役獣も倒した数と質に応じて肉追加。どうだ?」
 条件を追加してやると、頷いてクインが川へと向かう。交渉成立、だな。
「クインに任せよう」
 レディン達に言って、とりあえず俺は一つ目熊にとどめを刺すことにした。念のために四肢を土の精霊魔法で拘束する。
「おい、フィスト。狼ちゃん、川の上を歩いてるように見えるんだが」
「ああ、風の精霊魔法でも同じ事ができるけど、瞬間的に風で足場を作ってるだけだから。実際には水の上を歩いてるわけじゃないぞ」
 レディンの声にそう答えて、作業を続ける。今回は魔獣の解体だからな。そういや血も売り物になるんだったか。抜けるだけ集めてみるか。
 クインの咆哮が聞こえた。それからウルフたちの悲鳴も聞こえた。出てきたところを【暴風の咆哮】で一掃したんだろうな。効率が良くて結構なことだ。
 金属杭をストレージから出して、動けなくなった一つ目熊に近付く。以前ロックリザードにやったようにそれを眼窩に突っ込み、【魔力撃】込みの一撃で打ち込んだ。びくんと震えた一つ目熊はそれで動かなくなった。
 再び土を操作し、一つ目熊を腹の下から持ち上げると、レディンが断ち斬った右後ろ脚の部分と、喉の下に空の樽と桶を置いて流れる血を受け止める。うーん、既に結構多くの血を流してるから、そんなに回収できんかもなぁ。
 ぎゃん、と一際大きい鳴き声が聞こえた。頭を上げてみると、ブラックウルフがクインの爪で首を裂かれたようだ。犬系なのに爪攻撃が鋭いってのもすごいよな。
 森からはブラウンベアも出てきたようだ。さて、クインはどう攻めるんだろうなどと思っていたら、一気に跳躍してブラウンベアの背後へ着地。跳びかかって首の後ろに噛み付いて、そのまま捻るように身体を回転させる。まるで小さな竜巻みたいだ。
 そのうち限界がきたのか、ブラウンベアの首の肉が千切れた。ブラウンベアはしばらくその場でもがいていたが、やがて倒れる。何とも豪快な倒し方だ。そのうちどこかの熊犬のように、縦に回転しながら相手を斬り裂いたりするんじゃなかろうか。
 クインはとどめとばかりに首の同じ箇所を噛み砕いてから森の奥へと消えた。
 しかし使役獣を殲滅か。報酬、どうするかなぁ。
 森から響いた悲鳴を聞きながら、俺は【解体】の作業を続けるのだった。
 
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