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ゲート・オブ・アミティリシア・オンライン 作者:翠玉鼬
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第34話:対策

2014/10/2 誤字訂正
2015/1/12 誤字訂正
 
「実は防衛戦後に、グリュンバルト家から呼び出しを受けてな」
 スウェインはそう切り出した。
「呼び出し? 救援の礼か?」
「うむ。それに合わせてドラードからアインファストまでの転移門使用料の払い戻しと報酬を与えられたのだが、それは本題ではないので置いておく」
 そういや後で知ったが、開戦してからのアインファストへの転移は、特定の手続きをしていたら無料になったらしい。じゃあ何でウェナが出費のことを言ってたのかと思ったら、どうも【シルバーブレード】と【自由戦士団】は『手続きの時間が惜しいから金を払った』みたいだ。手続き自体が転移門じゃなく役所でする必要があった上に、1人1人必要なものだったらしい。まぁ手痛い出費が帳消しになったならいいことだ。
「で、その時に相談を受けた。対魔族で今以上に有効かつ現実的な対策はないものか、と。フィストは思わなかったか? 過去に襲撃された経験があった割には、これだといった決定的な対抗策がないと」
「んー……メタなこと言えばゲームだから、で片付く話でもあるんだろうけど……」
 GAOはゲームだ。妙にリアルに拘る部分があり、つい感情移入してしまうことがあっても。だから、そういう背景があるということにした、と言えば終わる話ではある。そもそも有効な対策があり、住人達で対処可能な事案であるならば、プレイヤーの出番が不要になるわけであるし。
 が、今スウェインが言った領主の言葉は、アインファストに有効かつ現実的な対策が取れなかったが故、とも解釈できる。今以上に、と言ったならば、今に至るまでの対策はしていたと取れるし。これすらも『そういう設定にしておいた』と穿った見方もできるがキリがないからこれくらいにして。
「事前に攻めてくることが分かってたから戦闘準備ができた。魔族の特徴や行動パターン、有効な攻撃を教えてもらえてたから、それに即した対応もできた。十分だと思うぞ」
 プレイヤーとしてはその点に文句はない。ただ、ゲームとして考えるのではなく、GAO世界の時間の流れとその進歩を考えるのならば、20年の間に画期的な方法が何も発見されなかったのか、という疑問はある。とは言え、20年あれば必ず何かしらの対策ができていないとおかしい、などと言うつもりもない。金、資源、技術等の問題で『現状では当分不可能』なんてことはリアルでもあるのだから。
「私達プレイヤーにはそれで充分だが、GAOの住人達にしてみれば頭の痛い問題ではあるのだろう。そういうわけで、少し考えてみることにしたのだ。次の襲撃の時に有利になるかもしれないからな」
 そうしてスウェインは紙の1枚を指した。そこには街の名前と数字等がある。
「まず魔族の襲撃の頻度についてだ。アインファストが襲撃されたのは20年前と今回で2回。ツヴァンドは事例なし。ドラードは3年前に1回。そして王都ヌルーゼは4年前に1回、8年前に2回、31年前に1回、59年前に1回。王都より先にあるフィーフォという街が44年前に4回。記録に残る限りではファルーラ王国内での発生は以上だ」
「同じ国内でも発生回数はまちまちで、発生間隔にも周期があるようには見えんな。これが定期的なら時期に合わせての戦力増強なんてのも可能なんだが」
 ソーセージを囓りながら、レディン。腹減ったな。俺も何か頼むか。
「次に、魔族の発生場所だが、森の中だったり平原だったりと共通点が見つからない。そして兆候もない。ヌルーゼの31年前の発生時は、王都近郊の練兵場のど真ん中から湧き出たそうだ。前日、そこで訓練が行われていたのに誰も気付かなかったと。漏れ出る瘴気すらなかったとのことだ」
 それって事前に巣を見つけることは困難ってことじゃないか?
「探査系の魔術でも無理なのか?」
 挙手して質問する。魔法のある世界だ。こういう手段はお約束だと思えるんだが。
「そもそも何を探査するのか、から始めなくてはならんな。瘴気は自然に存在しないものではないし、瘴気溜まりと呼ばれる場所も普通にある。瘴気感知の魔術はあるが、少なくともそれで事前に巣を発見できた例はない。それに、瘴気溜まりから発生したという例もないようなのだ」
 瘴気溜まりというのは言葉のとおり、瘴気が留まっている場所だ。原因は定かではない。魔獣の生息地には多いと聞く。瘴気は生物に悪影響を及ぼすので、瘴気溜まりがある場所は草木の枯れた不毛の地になるのだとか。
 色々と危険な場所になり得るので、瘴気溜まりの把握をしない国はないらしい。場合によっては浄化することもあるとか。瘴気を撒き散らす魔族の湧き出しポイントとしては当たりのような気がするんだがな。
「未発見の瘴気溜まりから、という可能性は?」
 国内全ての魔力溜まりを把握できてるとは限らないだろうから聞いてみた。
 が、スウェインは首を横に振る。
「過去の例を見る限り、ないと分かっている場所からの発生ばかりだ。突然に瘴気溜まりが発生して、突然にそこから湧いた、という可能性は、ゼロではないだろうがね」
 うーん、単純に瘴気と結びつければいいって訳にもいかないのか。
「次だ。魔族の規模だが、毎回違う。地域によっても違うし、同一地域内でも差がある。今回のアインファストに関して言えば、前回の4倍以上だな」
 別の紙をスウェインが出す。時期、発生場所、狙われた街、魔族の規模等が記されている。数だけ見ると、10匹に満たない場合もあれば数百数千なんて場合もあるな。それに……
「何だ、このAとかBってのは?」
 俺と同じ疑問をレディンが口にした。
「暫定的な魔族のランクだ。過去に出現した魔族については、その種類こそ変わらないが、強さが違う。例えばフィーフォに発生した魔族だが」
 Dと書かれた箇所をスウェインがフォークでつつく。
「その内の1回は最弱と言ってもいいレベルだった。なにせ、剣や槍が通じるどころか、市民が振り回した包丁でも倒せたそうだ」
 おいおい、アインファストのとは天と地の差だな……
「で、今回のアインファストをランク付けするなら……Aだな。ここまで強力な魔族が出たのは、31年前のヌルーゼと前回のアインファストだけだそうだ」
「アインファストは外れくじを引いたってわけか、それも続けて」
 運が悪ぃ、と溜息をつくレディン。
「ただ、爪と牙の強度はどのランクも変わらなかったそうだ。差があるのは防御力だけのような感じだな。多少は身体能力も違うのだろうが」
 さて、とスウェインがここにいるメンバーを見渡す。
「これらが現時点で明らかになっている魔族についての情報だ。その上でアインファストが行った対策は、街周辺の定期的な巡回による警戒。メイス等の打撃武器の配備。部隊の配置なども含めた多対一での戦闘方法の構築だな。非戦闘員に関しては、屋外に出ずに立て籠もることが徹底指示されていたようだ。それ以外に、取りうる対策が何かないか?」
 対策、ね……魔族の発見から戦闘になった時のものまで、何がどうできるかな。
 まず巣の早期発見だが、湧き出るまで兆候が掴めないんじゃ無理だ。そのための手段を探すのはともかく、有効かつ現実的かと問われると、どうだろうな。仮にその兆候を感知できる魔術の開発に成功したとして、だ。それがどのくらいの範囲をカバーできるのか、そしてそれを実行可能な魔術師がどれだけ確保できるのかという問題もある。
 魔術での探査ができないなら目視の巡回を増やすか? 発生場所を絞れない以上、巡回範囲は国全体ということになる。人が住んでいない辺境から湧いて進撃してきた例もあるようだし、そんなところまで巡回するなんて現実的じゃない。そもそもそんな人手がいないだろうし。何より発生のメカニズムが分かっていない以上、場合によっては街のど真ん中から湧く可能性も否定できない。できることはせいぜい近場の巡回を密にすることくらいだろうか、ってこれはもうやってるのか。
 次に発生した時の対策だが、湧く度に数も質も違うという。質も量も最悪を想定して考えてみようか。ランクはAが最大。ヌルーゼの59年前が約1万だ。よってAランク魔族1万と対峙するのを最悪と仮定してみる。それを撃退できるだけの兵の数を確保し続けなければならないとして、1匹確実に仕留めるなら3~4人必要とすると、3~4万の兵? この時点でアインファストの人口並じゃないか? それだけの兵力を各街で維持し続けろと? すっごい絵空事だな……
 誰も答えを出せない。レディンは何やらぶつぶつと呟いては自分で駄目出ししてる。あ、そうだ。
「スウェイン。今回の一連の流れを知ってる範囲で教えてくれるか?」
 発見から開戦までは、最低でも一晩の時間があった。発見した人が報せに戻るまでにも時間が掛かってるはずだし。その間の魔族の動きはどうだったのかも気になる。
「魔族の発見者は近くの村に住む狩人だ。夕刻、狩りの帰途の森の中で魔族の姿を見つけた。そのまま急いでその場を立ち去り、村に帰ると駐在の兵に報告。そこから早馬でアインファストへ伝令があり、行動開始といった感じか」
「つまり、湧き出すと同時に進撃してるわけじゃないってことか?」
「巣で発生した魔族が出揃うまでは動かないようだな。出揃った時点で一斉に動き出し、最寄りの街を襲う。例外は魔族に発見されることだな。もし先の狩人が魔族に見つかっていたら、その場で追撃を受けて殺されていただろう。それが村までトレインされていれば、当然村も犠牲になっていただろうな」
 ん? ちょっと待て。
「村は無事なのか? 今の言い方だと、村まで案内しなければ襲われてない、と聞こえるぞ?」
「そのとおりだ。連中は巣からまっすぐに、街へと向かっていく。どうして村を無視するのかは分からんが、発生地から一定範囲内の、一番人口が多い場所を何らかの方法で感知して狙っているのではないかと思う。当然、巣から街への直線上に村があれば、その限りではないと思うが」
 よく分からん行動だな。人間の敵だっていうなら、近くにいる人間から襲うだろうに。優先順位としては距離より人数なんだろうか。
「てことは、街の外に大規模なシェルターとか作って避難するのも意味がないのか?」
「恐らく、そちらへ進路変更するだろうな。そして、シェルターは決定的な防衛策にはなり得ない」
 スウェインがストレージから1本の瓶を取り出した。中には黒い爪が入っている。これ、魔族の爪じゃないか? 死んだら崩れていくという話だが、これはまだ崩れる様子がないな。
「城壁の石材を貫き、金属鎧も裂く強度を誇る爪だ。これを阻むシェルターなど存在しない。岩室だろうと鉄板で覆った部屋だろうといずれは削り破られる。故に、各家の地下倉庫や壁を補強しても、僅かな時間稼ぎしかできん。その間に救援が来るなら意味もあるだろうが……どう思う?」
 その答えは今回の防衛戦の後で見た。破壊された街並みの中で、普通に頑丈と言えるであろう木の扉は簡単に破られていた。石壁を壊されていた所もあった。鉄板で補強していた扉が裂かれているのも見た。鉄の扉のすぐ横の壁から侵入されている家もあった。あれを見たら、単に補強すれば持ち堪えられるなんて言われても首を傾げざるを得ない。
 第一、救援が駆けつけなければ必ずいつかは破られるのだ。そして、救援に駆けつける兵は、必ずしも効率よく襲われている場所を特定できるわけではない。プレイヤーの感覚なら【気配察知】を修得すればいいと言えるが、住人達がそれを簡単にできるならとっくにやってるはずだ。少なくとも今回の防衛戦で【気配察知】を使ってるであろう兵は1人も見ていない。俺が見ていないだけで他の場所にはいたのかもしれないが。
 それに補強するにも先立つものは必要だ。全ての民家にとりあえずは安全と言える程の補強を施すのに、どれだけの時間と金、資材と人手が要るだろう。
 仮に地下に大規模なシェルターを作って、入口を頑丈な鉄の扉で塞いだとしても、恐らく魔族は天井を掘り進んでくるくらいのことはやるだろう。そうなると、簡単に開けることができない扉は、一転して避難を阻む障害物へと変わる。簡単に破れない程の厚さの金属製の防護壁を構築できればどうにかなるか? いや、この世界で地下に何メートルもの厚さの鉄の壁や天井で構築されたシェルターを、住人全員が収容できるだけ作るのなんて、とても現実的な案とは思えない。建築資材に防御系のエンチャントを施すとかが可能だとしても同様だ。
 探すのも効果が薄く、防ぐこともできず……それなら各村に分散して避難できればどうだ? ……いや、今回は、街に報せが届いたのは夜だ。夜間に大挙して住人が避難とか、安全面を考えると厳しいだろ。
 それに分散して逃げた場合の魔族の行動パターンが分かってるのか? 向こうも分散して襲ってきたらどうなる? そうでなくても分散して避難した中から最大の集団を順番につけ狙うんじゃないか? そこを逆手にとって各個撃破を狙うか? いや、避難途中で戦闘に突入したら、まず間違いなく一般住人の被害が拡大する。兵士を無視して弱者から狙う奴がいるわけだし。仮に村に辿り着いてからだとしても、防衛施設は街より貧弱だし、避難民を収容できるだけの建物の余裕なんてないだろう。
 それに今回は、事前に攻めてくるのが分かっていて時間があったが、発見できないまま強襲を受けていたら、街の外に避難することなんてできるのか? 避難民と迎撃の兵士達がごっちゃになってしまって、まともに戦える気がしないぞ。避難訓練とかすれば何とかなるかもしれないが限度があるだろう。だからこそ、今回の襲撃では立て籠もりを徹底するように指示してたんだろうけど。
 こうして色々考えてみても、本当にどうしようもない。逃げるのも無意味ってなら、攻撃面で光明を見出すしかないんじゃないか?
「索敵も防御も避難も、現時点で住人達の手で実現可能な案はなし、か……だったら攻撃面はどうだ? 打撃武器が有効ってのは分かってるが、それ以外の弱点とか何かないのかよ?」
 同じ事を考えたのか、レディンがスウェインを見た。うむ、と頷き、スウェインは別の紙を一番上に置いた。
「生け捕りにした魔族を相手に色々と試した結果がこれだ」
「生け捕り? お前、いつの間にそんなことしてたんだ?」
「終盤で手頃なのを何匹か、な。こちらとしても情報が欲しかったのだ」
 呆れるレディンにしれっとスウェインが答える。よくそんな余裕があったよな。
 紙に目をやると色々と書かれてるな。塩とか油とかそんな身近にある物から特殊な薬品まで幅広い。それでも有効なものはなかったが、1つだけ。
「銀? 銀は有効なのか?」
 不浄なモノへ対策としては割とメジャーではあるな。普通の武器は効かなくても銀の武器は効くというのはファンタジー系ではある種のお約束でもある。
「有効は有効なんだが……これもちと面倒でな。フィスト、レディン。ファンタジー系ではよく、銀でしか傷つけられない魔物が出てくることがあるが、それをどういうイメージで認識している?」
「そりゃー……鋼の武器じゃ傷1つつかない皮膚が、銀の武器ならズバーッといく、とか?」
「俺もそんなイメージだな。あるいは、普通の武器以上に効果があるか」
 レディンの発言に俺も同意する。要は『攻撃が通りやすくなる』ってイメージだ。うむ、とスウェインが頷いた。
「私もそういうイメージだった。が、こいつに関しては違うのだ」
 スウェインは瓶の蓋を開けた。そしてナイフを一振り取り出す。
「これは銀製のナイフだ。よく見ていてくれ」
 ナイフの刃を、瓶の入口から突き込む。爪はあっさりと刃を弾いた。あれ、効いてない? スウェインの技量と腕力だからだろうか?
 続けてスウェインは刃の先端を爪に当てた。時間にして10秒程すると、刃が触れた部分から煙が噴き始める。同時に刃は爪へと突き立っていく。
 少ししてスウェインは刃を抜き、瓶に再び蓋をした。
「銀が魔族の体組織に有効なのは事実だ。しかし見てのとおり、武器として効くというわけではない。今試したのは一番強度のある爪だが、身体でも一緒だった。銀の刃物ではAランク魔族の身体に傷はつかん」
 使い方としては接触毒みたいなもんか。まぁ、銀そのものは柔らかい金属だったはずだし、それ自体が武器として有効だと言うのもおかしな話ではあるんだが。エンチャントで強化されていたり、あるいは魔銀なら話は変わるんだろうな。魔銀の強度は鋼を超えるらしいし。
「そしてもう1つ厄介な点がある」
「何だこれ。腐食してるのか?」
 スウェインが指した銀の刃の先が崩れている。歪んだとか潰れたとかではなく、ボロボロに朽ちていた。
「魔族の身体と反応を起こした結果だろうな。つまり、有効ではあるが消耗品だ。再利用もできん」
「連中の口の中に銀の塊を突っ込んでやりゃいいか? まぁ、そんな予算があるなら、だけどな」
 レディンが唸る。この世界でも銀は貴金属だ。それを対魔族用の武器とし、全ての兵に配備するとなると、どれだけの額になるのか見当もつかない。それにしたって一定時間以上の接触を必要とするので白兵戦用武器では意味がないのだ。予算的にも効果的にも何とかなりそうなのは銀の鏃を持つ矢だろうか。それだって生産量に限度はあるだろうし、Aランクの身体には刺さりもしないだろう。Bランク以下には刺さるのかもしれないが。
「あいつらの口は相手を殺傷するためだけのものだ。喉から先が存在せんしな。一部解剖を試みたが、あいつらには内臓が存在しなかった。生殖器もない。頭の中を抉った奴がほぼ即死だというから割ってみたが、中身はドロッとした黒い液体が詰まっていただけで、何が破壊されたことで機能停止したのかも分からん。恐らく、壊されてはまずい部位が存在するのだとは思うが……現時点でそれが見つからないのだ。首を斬り飛ばしたり頭を割ったり胴を両断したりでも殺せているので、防御を抜くことができさえすれば、戦い方は特別なものである必要はないのだろうがな。確実な急所と言えるのは、脳に当たるであろう部分だけだ」
 何という謎生物……生物なのかも疑わしいけどな。
「なーんか……詰んでない?」
 ウェナが呆れ混じりに呟いた。
「Bランク以下は、普通に鉄の武器が通るみたいだし、あらためて改善が必要な部分ってないよね? 爪や牙の対策は立てようがないしさー」
 魔族の爪や牙の対策は、強いて挙げるなら爪以上の強度の素材で盾や鎧を作る、だ……そんなもん、簡単に準備できるわけがない。
「魔法の効果も術者の力量次第ですし、特に効果があるものもないですし。使い手を増やせばいいという問題でもないですね。可能性としては聖属性や浄化系の魔法ですが、精霊魔法には今のところありませんし、スウェインも使えませんよね?」
 ミリアムの問いに、うむ、とスウェインが頷く。
 特定の魔法が効くという話もなし、か。シリアの呪符魔術があっさりと魔族を倒せたのはシリアの力量あってこそってことだな。属性も今のところは望み薄か。それに、スウェインやミリアムがその手の魔法を使えたとしても、アインファストの兵士達に使えないと意味がないのだ。あくまで彼らに可能な対策でないといけない。
「よそからの応援も、人材の面からも転送限界の面からも限度があるしね。今回はわりかし有効だったけど、魔族の規模によっては焼け石に水だよ」
 お手上げとばかりにシリアが両手を挙げた。
 転移門が制限無しでいくらでも使用可能なら話は別なんだがなぁ。その辺の強化とかできないんだろうか……できないんだろうな。できるならやってるだろうし。せいぜい転移料免除の手続きの簡略化とかくらいか。それで少しは駆けつけるまでの時間短縮になるだろう。
「Aランク魔族相手でなければどうとでもなるけど、Aランクだとこれといった対抗策がない、か……本当に詰んでるな……」
 そう言わざるを得なかった。情報が少ないということもあるが、現時点ではこれが精一杯だ。もし今回の襲撃が1万の規模だったら、俺達でも全滅してただろうしな……
 これらの事実が『そういう設定にしたもの』なのか、それとも過去に遡ってGAOという世界をシミュレートした結果なのかは分からないけど、よくもまぁ運営はこんな状態にしてくれたものだ。
 誰かの溜息が聞こえた。それに釣られて俺も溜息をつく。考えが実を結ばないというのは何とも言えない気分だな……あ、そういえば。
「スウェイン。浄化系で思いついたんだが、瘴気の浄化に使える薬品とかはないのか? 個人的なイメージなんだが、魔族って瘴気があの姿を取って動き回ってる、って感じだろ? 装甲割ったら瘴気が漏れるしさ」
「ふむ……試した物の中には含まれていないな。魔獣にその手の攻撃が効くという話は聞かないが、より瘴気そのものに近い魔族になら有効かもしれんということか。フィスト、君は瘴気除去の薬品は作れるか?」
「レシピはあるけど材料がない。入手するなら調薬ギルドを当たるのが早いと思う。瘴気毒用の解毒ポーションなら持ってるけど、どうする?」
「いや、それは持ち合わせがある。後で試してみよう」
 瘴気毒用の解毒ポーションは本来、魔獣がよく持っている瘴気系の毒用だが、飲んでおくとちょっとした瘴気への耐性がしばらくつく優れものだ。防衛戦で瘴気酔いをしなかったのもこれを飲んでいたお陰である。多分。
「何だフィスト、お前、調薬もやるのか? 多芸だなぁ」
 レディンが感心したような視線を――否、勧誘者の目を向けてくる。が、何も言わない。目が口程にものを言っているが無視だ。
「とりあえず瘴気用の薬品は試すとして、銀の可能性を挙げるくらいしか現時点での案はないな。出発前に有効手段を見出せればよかったのだが……」
「出発、ってどっか行くのか?」
「ああ。巣の掃討戦に参加してくれないかと打診があってな。我々と【自由戦士団】が合同で参加する。フィストが五体満足だったなら、一緒に参加してほしかったんだが」
 残念そうにスウェインが俺の右腕を見た。あぁ、ちょっと不安が残るから誘われてもパスだな。足手纏いにはなりたくないし、自分の不調のせいで誰かに負担が掛かるのはご免だ。
「じゃ、行くとするか」
 レディンが席を立つ。ルーク達もそれに倣った。
「頑張れよ」
「ああ、フィストも養生しろよ」
 左手でルークとハイタッチする。心配するだけ無駄だろうけどな。
「あ、フィスト! 今回の件が片付いたら、フォレストリザード食べさせてよね! それまでに腕を治しておくこと!」
 思い出したようにウェナが振り向き、声を掛けてくる。ああ、今度会ったら、って約束してたっけ。
「分かった。期待してろ」
 そう言うとウェナは満面の笑みを浮かべ、皆と一緒に店を出て行った。
 さて、今日はできることもないし、ログアウトするか。明日からは、今までのスタイルに戻るぞ。
 
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