逃げたい、死にたい、けど居場所がほしい。セックスと心の闇を描くマンガ7選 誰もがのぞきたくない心の闇ってありますよね。そんなマンガたちです。

マンガHONZ編集部2015年07月24日 印刷向け表示
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 ワクワクすることって別にないんです。もうあからさまに自分が今ワクワクしてるなー!みたいな瞬間ってあんまりなくて、なにか自分が発したひとことが、場の笑いをとったりしたときに心が通じた感じがして嬉しいと思う。そんな一瞬のチリを積み重ねて、どうにか自分をたもって日々を過ごしている。それも消化しているという感じ。だから、マンガの主人公が仲間を増やしていったり、スポーツ頑張ったりするのに興味がわかない。ちゃんと横断歩道が描かれてて、主人公がセブンイレブンを利用してそうなマンガのほうが惹かれるんです。

「今から産婦人科行って堕ろしてくる~」

『透明なゆりかご』

昔のバイト先のパート主婦さんが、結婚して仕事をやめて妊娠する前に、時間があいたからと医療事務の資格をとって働きに出たそうです。勤務先は中規模の病院。そこの医療事務の女性スタッフと医者が不倫関係にあることは病院内で有名な話で、そのスタッフがお昼休みに「今から産婦人科行って堕ろしてくる~」と発言したことにびっくりして、「今でも忘れられない」とパート主婦さんは言っていました。「まるで旅行にでも行くかのようなノリだった。」と。

意外と知らない日本の死因第一位って?元看護師で元風俗嬢の異色漫画家がその目で見た妊娠・出産のリアル『透明なゆりかご』(小禄 卓也)

このマンガを読んではじめて知ったのだが、「90年代の日本の死因第一位は、アウス(人工妊娠中絶)」だったという。調べてみると、たしかに1995年から1999年にかけての人工妊娠中絶件数は約33万件ほどで、90年代後半の死因第一位と言われていたがんの約27万件よりも6万件ほど高い。

このマンガには、沖田さんが看護師見習い時代に立ち会ったさまざまな「妊娠・中絶・出産」のあり方を描くことで、ドラマやテレビで流れる『妊娠・出産=幸せ』というステレオタイプな物語に物申したいというメッセージが込められている。

 

 

透明なゆりかご(1) (KC KISS)
作者:沖田 ×華
出版社:講談社
発売日:2015-05-13
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若くて綺麗なお母さんがいる歪んだ童貞少年

『水色の部屋』

思春期は自分の価値観が形成されつつあるけれど、ちょっとくらい歪んでいるのが普通なのかもしれません。「マスクをつけているのがカッコイイ」とか、「俺幽霊が見える」と見えないのにクラスメイトの興味を惹くために言っちゃったり、ニッセンの下着ページの外人さんに勃起したり。とにかく最も身近な未知の世界に興味津々で感受性が豊かなのが思春期だとしたら・・・最も身近な異性の母親という存在に愛とも恋とも違う感情を抱くのはおかしいことではありません。

少年期の性の暴走、元少年A「酒鬼薔薇聖斗」との共通点とは『水色の部屋』(堀江貴文)

若くて綺麗なお母さんがいる童貞少年というシチュエーション。主人公はそのお母さんがDVを受け、そしてレイプされるのをみて欲情している歪んだ性の持ち主だ。正直いって世の中の童貞男子なんてものはそういう歪んだ性の持ち主であることがほとんどだ。もちろん、ソッチのほうが普通なのかもしれない。

 

 

言葉にできなかった過去の感情が思い起こされるかもしれません。上下巻モノに思春期の歪みが上手にパックされています。

水色の部屋<上>
作者:ゴトウ ユキコ
出版社:太田出版
発売日:2014-12-04
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彼女を強姦で寝取られ

『ちさ×ポン』

恋愛指南マンガの『ラブホの上野さん』は「セックスにおいて失うものが大きいのは女性」と書いています。女性は純潔を守ろうという思いが強いために、恋愛で苦しみやすいのかもしれません。

【僕だったら立ち直れない】寝取られ系童貞男子・ポン太と千紗の純愛物語を描く『ちさ×ポン』 小禄 卓也

ラブラブカップルのポン太と千砂ちゃんに、突然大きな事件が起きます。ポン太に捧げるはずだった千砂ちゃんの初体験が、ポン太の高校の後輩で、スケコマシのイケメン滝川に奪われてしまうのです。

はじめて付き合った彼女と、一緒に初体験をすると信じて疑わなかったのに、あっけなく他の男に奪われてしまう。僕が17やそこらの年齢だったら、彼女のつらい体験を支えきれず別れる選択をしてしまいそうだなぁと、冷静に考えてしまいます。きっと自分一人で支えようと努力するものの、抱えきれずに心が折れてしまいそうです。

 

 

強姦された彼女と、壊さないように支えようとしながらも性の暴走を抑えられない彼氏。ふたりは傷つきながら大人になっていきます。強姦された彼女が現実に重くのかかってきて、問い直されるのです。「お前にとって恋人とは何か。」

ちさ×ポン 1 (ヤングジャンプコミックス)
作者:中野 純子
出版社:集英社
発売日:2002-05-17
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 恋愛指南マンガのラブホの上野さん。ナンパ術の指導もあります。

ラブホの上野さん 1 (MFコミックス フラッパーシリーズ)
作者:博士
出版社:KADOKAWA/メディアファクトリー
発売日:2015-01-23
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都会の独居老人の寂しさ・ひとこいしさ

『最強伝説黒沢』『新黒沢 最強伝説』

居酒屋で注文しても声が通らない。授業中に手を上げても気づかれない。あの時の消えてなくなりたい感覚。誰にでもある体験だと思います。誰も気づいてくれない。誰もわかってくれない。たとえ周りに100人いる会場でも、なぜかひとり暮らしの家よりも感じる寂しさ。

最強伝説黒沢 1 (ビッグコミックス)
作者:福本 伸行
出版社:小学館
発売日:2003-06-30
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 それが最強伝説黒沢であり、不遇な男が持つコンプレックスが痛いほど描かれています。素人童貞。アラフォー。人望がない。地位もない。

これは、オレのもう1つの人生だ! 『新黒沢 最強伝説』
オレが人に見せない悩みがここに書いてある!!(堀江 貴文)

有名な「アジフライ」のエピソードは特に心を揺さぶられる。建設現場で働く黒沢は相変わらず現場監督にすらなれず若者と一緒に働いている。そんな彼らから少しでも人望を得ようと仕出しのとんかつ弁当にアジフライをこっそり入れるのだが、当然の如く誰にも気づかれない。それにショックを受ける黒沢。。。。みたいな終始すれ違いの、浅はかな黒沢はどんどん暴走して最後は植物状態に至るのだが。。。

 

新黒沢 最強伝説 1 (ビッグコミックス)
作者:福本 伸行
出版社:小学館
発売日:2013-11-29
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新幹線で焼身自殺した老人の気持ち

『空也上人がいた』

6月30日、東海道新幹線で男性(71)が焼身自殺を謀りました。ワイドショーではそれぞれの考察を立てていましたが、この『空也上人がいた』を読むと老人がひとりで抱え込んでいた寂しさを理解できる気がするのです。「いい人と記憶にとどめておいてほしい」そんな想いを感じるのです。

現代社会への絶望の最果て。あなたの最大の後悔は何ですか?『空也上人がいた』(兎来 栄寿

今作はノンフィクションの介護小説としてでなく、老人が後悔に苛まれる傷付いた青年を救う物語として描かれたことで、介護というテーマは勿論ですが、それに留まらない普遍性を獲得しています。その軸となっているのは、「後悔」。きっと、誰しも人生の中での最大の後悔というものがあるはずです。その後悔と、人はどう付き合い、どう向き合っていけば良いのか……。

 日々、心身を傷付け抉られながら、一方で命を預かっているという緊張感。その状態が何年、何十年と続くのか全く先の見えない状態。その抑圧を、原作者の山田太一先生は「キレないはずがないというのもちょっとひどい言い方だけれども、キレても不思議はない」と実際の取材で感じた体験を元に、この作品を著したそうです。今後の社会で重要なテーマであるにも関わらず、こういったことを描いてくれている作品は寡少なので、私はよくぞ描いてくれたものだと思います。

 

空也上人がいた (IKKI COMIX)
作者:新井 英樹
出版社:小学館
発売日:2014-09-30
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 生きる気力をなくしてしまった人間

『死んで生き返りましたレポ』

自分を追い込み、人に頼らず、不摂生に不摂生を繰り返すとどうなるのか。淡々と事実がつづられていくエッセイは死にたいと思ったことがある人にはくるものがあります。

テクニックより作家のパッションがマンガを面白くする!『死んで生き返りましたれぽ』(佐渡島 庸平)

『死んで生き返りましたれぽ』は、拙いマンガだ。敢えてでもある。死の淵にいる人間に見えた世界を描いていて、ほとんどが認識不可能だったため、その拙さが、作者のいた状況を雄弁に語っている。

若くして大病を患い、死にかけた作者の、ドキュメンタリーマンガである。

 

 

 

死んで生き返りましたれぽ
作者:村上 竹尾
出版社:双葉社
発売日:2014-11-12
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生きる苦しさにもがいている全ての人へ


『電波オデッセイ』

最後に救いの話を紹介します。これはレビュアーの兎来の言葉が本当に素晴らしいと思ったので、引用で締めさせていただきます。

自殺する前に読んで下さい。傷ついた魂に寄り添う『電波オデッセイ』(兎来 栄寿)

死にたい人、いますか?
もしいるのであれば、聞いて下さい。
今あなたがどんな状況に置かれているのか、私は知りません。
先の見えない人生に絶望しているかもしれない。
いじめを受けて苦しい思いをしているかもしれない。
あるいは、死の直前であるかもしれない。
そんな、全部の人に、私は言います。
生きて下さい。そして、『電波オデッセイ』を、読んで下さい。

 

「いじめられる方にも原因がある」「鬱は甘え」「どんな親でも親は親なので敬うべき」といった無思慮な言葉が、どれだけの人を苦しめて来たことか。人はそれぞれ千差万別の事情を抱えています。「俺は大丈夫だったからお前も大丈夫な筈だ」などという、たまたま運が良かった強者の論理に付き合う義理はありません。逃げても良い。少しくらい誰かに迷惑を掛けてもいい。だから、自分から命を断つという選択だけは、その選択肢ごとなくしておいて欲しいです。(兎来)

 

電波オデッセイ(1) (fukkan.com)
作者:永野のりこ
出版社:復刊ドットコム
発売日:2011-02-28
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ここには読んだあとからモリモリやる気が湧いてくる自己啓発本のようなものはおいてありません。電車のホームに立ったときに突然おそってくる虚しさのようなものは、どんな人でも感じるときがあります。今回は、そんなときに、あなたにまた歩き出す元気をあたえてくれるような作品を集めてきました。願わくば、ここにあげられているマンガたちが、あなたにとって、雨雲からほんのちょっと顔を出す太陽の光のようであればと願っています。

 

 マンガと共に良い週末をお過ごしください。

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