挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ゲート・オブ・アミティリシア・オンライン 作者:翠玉鼬
17/107

第15話:採掘護衛

 
 レイアス工房。アインファストの武具通りにある武具屋だ。俺はそこで店主のレイアスさんに、自分が使っているガントレットを見せていた。
「ふむ、これは見事に貫かれたものだな……」
 先日のポーション事件でバスタードソードに抜かれたガントレットを見ながらレイアスさんが難しい顔で呟く。元々このガントレットは練習用としてレイアスさんが作った物を売ってもらったものだ。品質的にはたいしたことがない物であったとはいえ、自分の作品がこうなったことに思うところがあるのだろう。
「で、修理はできますか?」
 ゲームで言うところの耐久値的にはまだ全損に至っていない。現状でも使えないわけじゃないんだが、やはり損傷がある状態というのは見栄えが悪いし要らぬ視線も集める。
「修理はできるが……この質では、いつまたこうなるか分からんな……」
「結構馴染んできたので、できることならまだ使いたいんですけどね」
 素手で戦う俺にとって、このガントレットは使い勝手がいいものだ。【魔力撃】と併用することを前提としても、かなり役に立っている。先日だってこれのお陰で死なずに済んだのだから。
「ふむ……フィスト、よければ依頼を1つ引き受けてくれないだろうか?」
「依頼ですか? 俺で役に立てることがあるんでしょうか?」
 後で調べたことだが、レイアスさんは生産系プレイヤーの中ではそこそこ名が売れた存在だった。トップクラスとまではいかないが、鍛冶職としては割と上位に名を連ねているようだ。そんな人が俺に依頼?
「内容は鉱石採取の護衛だ」
「護衛、ですか……俺、そんなに強くないですけど?」
 戦闘系メインスキルがレベル20にも届かない初心者だ。実力という意味ではたいしたことはない。というか、現時点で一端のプレイヤーだと言える程自惚れてもいないのだ。
「あぁ、心配は要らない。それ程凶悪な敵が出る場所へ行くわけではないからな。私が採掘している間、不意打ち等を受けないように警戒してくれる役目を頼みたいのだ」
 ああ、護衛と言うよりは見張り役か。それなら何とかなるかな。
「そろそろ素材も心許ないのでな。そこで手に入れられた鉱石を使って、君用の新しいガントレットを作ろうと思うのだ。このような損傷を与えられる相手に出会う機会があるというのなら、装備のランクアップはしておいた方がいいだろう」
 あの手の高レベルな使い手と敵対する機会がそうそうあるとは思えないが、良い武具が欲しいのは正直なところだ。
「分かりました、引き受けます。それで、ガントレットのお値段はどれくらいになりますか?」
「材料と出来にもよるが、3万もあれば十分だろう。ああ、下地に使える革素材など持っていれば、その分を割り引かせてもらう。あと、護衛の報酬は1万でどうだろうか?」
 護衛だけで1万ならそこそこの収入だろう。日給10万円は破格だと思う。30万円のガントレットがどれ程の物になるかは分からないが、今から楽しみだ。
 出発は明後日ということで契約は成立した。ん、これってプレイヤーから正規に受ける初めての依頼になるのか。ポーション事件の時は実質、NPCであるコーネルさんからの依頼だったもんな。よし、気合い入れていこう。
 でもその前に、今日のひと狩り行ってくるか。解体解体、っと。

 

 ログイン25回目。
 俺はレイアスさんとパーティーを組んでアインファストの北にある山岳へと向かっていた。考えてみたら北に行くのは初めてだな。というか、今まで西の森にしか行ってない気がする。
 アインファストから北は、ちょっとした荒野になっている。まばらに低木やサボテンみたいなのが生えてはいるが、他には目立つものがない殺風景な場所だ。
「そういえば鉱石の採掘ってどんな感じでやるんです?」
 ちなみにレイアスさんの装備は、ブレストプレートにウォーハンマーだ。恐らく自作と思われる。さすがに採掘にウォーハンマーを使うとは思わないが、鍛冶屋らしいといえばらしいのか。
「鉱石のある場所を掘るだけだな。ある場所が分かっていれば難しいことでもない」
「鉱山みたいな場所ってことですかね」
「いや、GAOで言うところの鉱山というのは、国の管理下にあるのだ」
 国? ああ、そういえば今俺達がいるアインファストの街って、ファルーラ王国の都市って設定だったな。
「アインファストにはないが、ツヴァンドにある。そこでの採掘は可能なのだが、入山料を取られる上に、採掘した鉱石の半分を納めなくてはならないという決まりがあってな。質は良いのだが……」
 そんな事情があったのか……入山料とやらがいくらかは知らないが、有料の上に実入りが半分になるというのはいただけないな。
「だから私達プレイヤーはそれ以外の場所で鉱石を得ることがほとんどだ。国の管理している鉱山に対して、私達は野良鉱山などと呼んでいるがね。これから私達が行くのも、そんな場所の1つだ」
 そういう場所の鉱石の質ってどうなんだろうか。鉱山になってないことを考えると、質はあまり良くないのかもしれない
 遠くの方に見える岩山のどこにどんな鉱石が眠っているのかは分からない。しかし鍛冶職人さん達は結構な苦労をしてるんだろうなぁ。薬草なんかと同じで対応スキルが無いと鉱石を認識できないはずだから、誰かに取ってきてもらうのもうまくいかないのだろう。一応、鍛冶ギルドでインゴットを買うことはできるみたいだけど、買うよりは鉱石掘った方が安上がりだし、インゴット化する作業でレベル上げもできるしな。

 
 風景的にあまり面白くない荒野を更に進む。山の麓辺りは緑があるのが確認できる。ひょっとしたら動物もいるかもしれない。あ、そういや山の方ってロックリザードがいるんだったか。出てきたら狩ってみたいけど……優先すべきは護衛だしな。いや、でもその途中で出てきたら仕方ないよな、うん。
 ロックリザード出てこいと心の中で念じつつ歩を進めたが、結局出現しないまま麓まで辿り着いた。レイアスさんはそのまま森へと足を踏み入れる。この辺りの森は、西にある森と比べてそれ程深くない。踏み入ってしばらくするとあっさりと抜けた。
 足元が土から岩へと変化する。少し広い岩場が広がっていて、目の前には絶壁がそびえ立っていた。まるで大きな刃物で切り取ったように滑らかな岩壁だ。その下の方、つまり俺達の手に届く部分のいくつかに、穴が空いている。
「あれが、野良鉱山の入口ですか?」
「ああ、私が採掘した跡だ。この辺りは少し掘ったら鉄鉱石の層があってな」
 レイアスさんはウォーハンマーをストレージバッグに収納すると、そこからツルハシを取り出した。
「それでは私は採掘を始める。何か来たら声を掛けてくれ」
「分かりました」
 今のところ周囲に気配はない。10秒間隔くらいで【気配察知】を使っていれば、まずは問題ないだろう。森から崖までも余裕があるし、何か来たら視認も容易そうだ。
 レイアスさんがツルハシを岩壁に振り下ろした。小気味いい音を立ててツルハシが岩を穿つ。結構なハイペースで振るわれるツルハシは、あっという間に岩壁に人が立って歩けるほどの高さの穴を作り上げた。しかし凄い勢いだな。これもスキルの恩恵か何かだろうか。それともツルハシの性能がいいのか……
 岩を掘り進めながらレイアスさんの姿が次第に奥へと消えていく。時折外に放り出される岩を邪魔にならないように横へどかしながら、俺は周囲の警戒を続けた。
 そうしているうちに、ツルハシの音が変わってきた。さっきみたいに硬質な音じゃないものが混じり始める。
「フィスト、これから外に出す石を、一所に纏めておいてくれるか?」
 声と共に穴の奥から転がってくるものがあった。それは赤っぽい岩の固まりだった。
「これ、何ですか?」
「鉄鉱石だ」
「へぇ、これが……でも鉄っぽい色じゃないんですね」
「私もリアルで鍛冶をしているわけじゃないから詳しくはないんだが、鉄鉱石にも色々と種類があるようでな。ステータス表示では鉄鉱石としか記されていないが、恐らくこれは、リアルで言うところのヘマタイトではないかと思う」
 拾い上げたそれをじっくりと見てみる。何というか、錆の塊のように見える。それに、石と言うよりは土の塊っぽいな。これが鉄になるんだろうか。しかし金属そのものが出てくるのだとばかり思っていたが、文字通りの鉱石として産出されるんだな。つまりここから精錬とかしなきゃ金属にならないわけだ。何か大変そうだな鍛冶職さんって……
 ともかく言われたことをやろう。俺は鉄鉱石を拾って一箇所に纏める作業に従事する。当然、周囲の警戒は怠らずにだ。
 しかし平和だな。本当にこんな場所に、人を襲う系の獣とか出るんだろうか――っと、何か来るな。しかも速い。足音も聞こえ始めた。
 レイアスさんに警告を送ろうとした時には既にそれは森から飛び出してきた。
 でかい! 馬ぐらいあるぞあの鹿!? 昔ネットで見たヘラジカ並だが、容姿は日本の鹿っぽいな。
 豪快な足音を響かせて、鹿は俺の前を駆け抜けていった。こちらには見向きもしなかったな。でも向かってこられたら面倒だったろうな。今まで俺が仕留めたイノシシよりもでかいなんて冗談じゃない。
 あ、しまった。スクリーンショットを撮っておけばよかったな……
 でも、あれだけでかいなら、鹿肉祭りだっただろうなぁ。首も剥製にすれば売れるらしいし、毛皮もかなりの量に……いかんいかん、取らぬ狸だ。
 しかし気になるな。随分と急いでるというか、まるで逃げてるようにも見えたし。もう一度【気配察知】を……って、何か来る。それもさっきの鹿を追いかけるような動きで。
「レイアスさん、何か来る! 警戒を!」
 雇い主に声を掛けて、気配の方へと身構える。レイアスさんもウォーハンマーを手に坑道から出てきた。
「数は?」
「1つだけです。ただ、そいつが来る直前、馬並の大きさの鹿が逃げるように駆け抜けていきました」
「馬並の鹿? そんな奴がこの辺りにいたのだな。しかしそれが逃げ出すほどの何か、ということか?」
「同じ方から来るので関連付けただけなんですが、全く無関係の可能性もありますけどね」
 やがて、それは姿を見せた。
「スウェインの嘘つきがーっ!」
 思わず俺は叫んでしまった。目の前に出てきたのは大きなトカゲだった。【動物知識】でそれがロックリザードだっていうのも確認できた。それはいい。
 だが体長が異常だった。スウェインいわく、2メートルくらいとの話だったのに、どう見ても目の前のそれは5メートル以上あった。ここまで来たら大型のワニだ。
 体色は岩色といえばいいのか。ロックの名に相応しい、岩のような外皮。チョロチョロと時折舌を覗かせる口は閉じられたままだが、きっと鋭い牙が生えていることだろう。足に生えた爪も黒々と長く鋭利なものだ。
 ロックリザード出てこいと願っていたのは事実だが、こんなロックリザードは要らない……
「な、何だあれは……?」
「ロックリザードです」
「い、いや、ロックリザードとは何度か戦ったこともあるが、あんな巨大な個体は見たことがない……」
 目の前の生物の存在が信じられないのか、震えた声で呟くレイアスさん。いや、しかしですね、確かに俺の【動物知識】はあれはロックリザードだと告げてるんです。しかも、何ら特別な注釈がついていない……ユニークだとかフィールドボス的な何かなら、それくらいの追加項目くらいあっていいんじゃないか運営!? いや、でも種族は同じなんだからスキル的には間違ってないわけで……ええぃっ!
 さて、どう対処したものか。森から出てきた時の動きを見るに、かなり素早かった。リアルのトカゲですら結構な速さで走るのだから、それが大型化したらどれ程なのか……ひき逃げアタックでも大ダメージを受けそうな気がする。だったら相手の速度に合わせて戦うなんて自殺行為だ。
「レイアスさんは待機を!」
 周囲に他の危険が無いのを確認した上で言って、俺は駆けた。【魔力撃】で拳を強化して間合いを詰める。
 ロックリザードは俺を標的と認識したらしく、その大きな口を開けた。そこから覗くのはノコギリのような歯だ。アレに噛まれたら簡単に身体を食い千切られそうだな……
 真正面からは行かず、回り込むように移動する。ロックリザードの頭はこちらを捕捉したままだ。俺は森へと入り、外周ギリギリの木の陰を縫うようにしてロックリザードに近づいた。ロックリザードの突進を避けるためだ。
 頭こそこちらへ向いたままだが、ロックリザードはまだ動かない。できれば森の中に入ってほしいんだがな……もう少し派手におびき寄せるか!
 まだ少し間合いが遠いが俺は森から飛び出した。同時にロックリザードがこちらへ向かってくる。やっぱり待っていやがったこの野郎。
 一旦停止し、ロックリザードの突進に合わせるように俺は後方へと跳んだ。当然ロックリザードの方が俺よりも速い。あっという間にロックリザードは俺のほぼ直近まで迫った。
 口を大きく開いて噛み付いてくるタイミングに合わせてその鼻先を思い切り踏みつける。確かな手応えと同時に、後ろへ下がる速度が増した。ロックリザードの突進にはね飛ばされたのだ。
「……っ、とぉっ!」
 体勢を立て直して足を地に着ける。バランスを取りながらその勢いのままで地面を滑り、速度が落ちたところで後方へ更に跳んだ。一度は立ち止まったロックリザードが、再度こちらへと突っ込んでくる。よし、完全にこいつの注意は俺に向いた!
 【気配察知】で他の気配の確認――いない。レイアスさんに危険はない。
「ちょっとこいつを片付けてきます!」
 レイアスさんに一声掛けて、俺は森の中へと飛び込んだ。この辺りの木々は背が低い。レイアスさんのウォーハンマーを取り回すには不利だ。それに雇い主に戦闘に参加してくれと言うのも何だし……やばくなった時には頼むかもしれないが、一応ソロプレイをしていく身としては、こういう場面には何度も遭遇すると思うし、だったらしっかり独りで対処できないとな。
 ロックリザードが追ってくるのを確認し、俺はポーチの中に手を突っ込んだ。
 
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。

Ads by i-mobile

↑ページトップへ