この人を紹介する時、どれを選択すべきか…

ニコニコで「カイリキイズム」と呼ばれるポケモン対戦動画を公開するランドセル氏。

現在では1つあたり、10万再生数を稼ぐ氏の動画はレート1800~2000の猛者で厳選したカイリキーを含めたパーティー(パンティー)でレートに潜り込んで、読み合いの深い試合をバトルビデオにおさめている。

中世的な声(ついでに容姿も)と視聴者を考えたテンポの良さ(思考時間はバトルビデオで全くないため、純粋にバトルの動向をランドセル氏の解説付きで見られる)、積み込みや圧倒的火力、天候を売りにした動画が多かった中、毒、守るなどのスリップダメージでも攻める巧みな試合展開と豊富な知識。特にゴツメファイアローでおにび、はねやすめを駆使して試合をコントロールしながらここぞというところでブレイブバードのうちどころの巧さには感動した。

それだけでなく、吉本の芸人だったり、AV企業の広告につとめていたり、講談社の賞で投稿した小説が賞を取って書籍化されたりとニコニコ実況主の中では最も多彩な経歴と芸を持った(いろは歌も含め)人だと思う。

そんなランドセル氏がいよいよ勝負に出た。それがこれ、自作小説の投稿だ。


24分があっという間だった。以前にランドセル(以下ひらたひろと)氏の処女作であるマスゲームを読んだが、あれもキャラというより物語のシステムを主体とした話だった。


マスゲーム (講談社Birth)マスゲーム (講談社Birth)
(2009/08/21)
ひらた ひろと

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(新品は売っていなかったので、残念ながら中古で購入。ちなみにキンドルでDL可能らしい)



そしてヒューマニズムはなく、道徳もどこか欠落した世界をどちらも描いている。マスゲームでは環境に踊らされ、人間性も全て剥ぎ取られてしまった少年犯罪者たちの変化を描いている。ひらた氏本人が福本伸行のファンを公言されていることもあり、まぁ変ないいかただが「カイジや石田さんのいないカイジ」だ。物語は徹底的にニヒリズムで陰鬱。ひらた氏は国立大学出もあって数学の知識を活かした試練もあって、ゲームやギャンブル小説のように割り切って読めば楽しめる。

一方で今回紹介する「犯罪権制度」も仕組みから入っていく話。

罪を犯すかもしれない人間が役所に申請することで6年間の更生教育を義務付けられ、そこで職業訓練や道徳教育が施され、それでも犯罪への衝動が抑えられなかった場合は、社会が責任が果たせなかったとして犯罪の行使が容認される。

とんでもない話だ~犯罪が跋扈するぞ~と思いたくなるが、権利を申請せずに犯罪すれば無権犯罪として即死刑となる。そのため年に一万人もの死刑が執行されているという。

メリットとしては犯罪予備軍を国が特定できるため検挙までのコストを抑えられる。また更生教育で人を働かせることができるため間接的なニート対策になるという可能性も見出せる。

冒頭では犯罪権を実際に行使した真中という男がワイドショーに出演し、この制度が弱者救済ではなく弱者をより社会の底へ叩き落とすものであると訴える。

この動画におさめられている序盤だけでも、犯罪権制度を作った政府側、犯罪権制度を行使した加害者、犯罪権制度に強い憧れをもつ主人公という三者関係で成り立っている。

この序盤を視聴した感想だが、マスゲームの延長にある話で、表ざたは犯罪衝動を抱えた弱者の救済と銘打たれているが、本来の目的は無権犯罪による死刑が目玉だろう。これによってあやしい人間は全て死刑にできてしまう。とてつもない恐怖政治、権力の横暴だ。裁判にかけるプロセスも減るため、刑務所と司法のコスト削減につながるのだろう。

また更生教育そのものが自己申告制というのも興味深い。犯罪衝動が全く起こらない人のほうが珍しいだろう。そんな一時の迷いで6年にも及ぶ職業訓練、道徳教育というのはとても重い。またそこで何が行われているか?
真中の話によれば強制労働と洗脳教育と聴く。真中の言葉も真偽がつかめないが、犯罪の芽を徹底的に摘むために相当な負荷をかけることは予想される。

そもそも自己申告している時点で罪の意識がある人も含まれているわけだから、そういう人も社会的に抑圧しようというのは強硬過ぎる。この流れを読んで「カッコーの巣の上に」を思いだす。


カッコーの巣の上で [DVD]カッコーの巣の上で [DVD]
(2010/04/21)
ジャック・ニコルソン、ルイーズ・フレッチャー 他

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精神病棟での処置や対応がより深い精神病者を生み出すという皮肉をとりあげた名作中の名作だ。おそらく電気ショックやロボトミーが行われている可能性も否定できない。ともかくこの犯罪権制度は弱者をより弱者へと追い込む制度のように思えてならない。

いやぁ、いろいろ考察できてとても面白い。これは次の話が楽しみになってくる。木曜日がとても待ち遠しい。

そもそも自分の動画で定期的に「マスゲームを買ってください」と宣伝すればいいのにそれを行わず、新人賞を取った作家の卵であるにも関わらず無料で視聴できる。(既に水面下で書籍化が決まっているなら、途中で打ち切ったり、一週間あとに過去作が有料化される可能性もあるだろう)
またコミケで小説を販売するという手もある。小説を朗読するという動画が一万近い数字を叩き出しているのも凄い。

人生で週刊連載の小説、新聞に載っている連載小説を読んだ経験がなく、声つきでペースも緩やかなため読みやすい。欠点は紙媒体と違いマーカーをひけなかったり、好きな場所へシークバーを操作できないところか・・・いやぁ書籍化されたら買うのになぁ…