後藤弘茂のWeekly海外ニュース
旧NVIDIAから脱皮した現在のNVIDIAの戦略
(2015/7/24 06:00)
旧NVIDIAから新NVIDIAへと戦略を転換
NVIDIAは、かつてPCグラフィックスに特化したチップ企業だった。しかし現在のNVIDIAは、明らかに異なるビジネス戦略で動いている。市場がサーバーや組み込みに広がっただけでなく、垂直型のパートナーへのチップ供給や自社ブランドでのコンシューマ機器販売など、パートナー戦略も変わった。NVIDIAは、全く違う企業へと変わろうとしている。
NVIDIAのJen-Hsun Huang(ジェンセン・フアン)氏(Co-founder, President and CEO)は、旧NVIDIAと新NVIDIAで、戦略が根幹から変わっていることを強調する。
「かつてのNVIDIAは、チップを作って(グラフィックスカードやPCなどの)OEMに売り、OEMが何らかの製品を作って、市場に販売していた。それが、“旧NVIDIA”だった。しかし、この10年のうちに、NVIDIAは根底から(ビジネスモデルを)変革した。現在の新NVIDIAは、市場を自ら創造している。そして、我々のパートナーOEMが、その新市場で我々の技術を使った製品を提供する。基本から変わっている。
今も、我々は原点であるPC向けのGPUビジネスは継続している。しかし、我々は、ビジュアルコンピューティングプラットフォームを、PCだけでなく、クラウド、そしてIoT(The Internet of Things)やモバイルデバイスへと幅広く提供できる、歴史上で唯一のグラフィックス企業になった。我々は、この3プラットフォーム全てに注力することを約束している」。
NVIDIAは、ターゲットをPCクライアントだけでなく、クラウド側のサーバーシステムと、モバイルやIoT型の組み込み系でグラフィックスを必要とする市場へと広げた。PC、クラウド、IoTが3大ターゲット市場となり、PC一辺倒から抜け出した。こうした動きは、ほかの大手のPC向けチップベンダー、例えばIntelやAMDと共通している。いずれも、PCとともに斜陽化することを恐れ、新市場に注力している。
しかしNVIDIAの場合は、軸となる戦略の根幹がビジュアルコンピューティングと並列コンピューティングである点が、若干異なっている。具体的には、IoTと言っても、NVIDIAは小さな組み込みデバイスは狙わない。
数兆個の小型SoCの市場は狙わない
「ほとんどの人々はIoTと言うと、非常に小さなデバイスを考える。例えば、Bluetoothヘッドセットのようなサイズのデバイスで、インターネット機能を持つものだ。こうしたデバイスに使われるチップは非常に小さいが、膨大な数が出荷される。数兆個か、それ以上になるだろう。
しかし、NVIDIAのビジョンでのIoTは、そうした一般的な見方のIoTとは異なっている。我々のIoTは車載のような、もっと(サイズが)大きなものだ。小さなSoCチップには、我々のビジネス(の機会)はなく、大きくの企業が参入する必要もないだろうと考えている」(Huang氏)。
IoTでも、超小型の組み込み型のSoCには、NVIDIAは手を出さない。ノウハウ的にも、ビジュアルコンピューティングの企業の強味を活かすという点でもうま味はないと考えていることが分かる。NVIDIAがターゲットとするのは、明らかに、一定以上の機能のディスプレイを持つデバイスか、あるいは、高度な並列コンピューティング機能を必要とするデバイスだ。そのため、車載やスマートTVなどがNVIDIAにとってのIoTカテゴリとなる。
「我々は、新戦略の中で、得意なアプリケーションをまず4つ選択した。1つはゲームで、コアコンピュータゲームをプレイできる機能をデバイスに加えて行く。例えば、コアゲームがAndroid TV向けに作られれば、Android TVが素晴らしいものになって行くと期待している。
ほかの3つのアプリケーションは、車載、クラウド、伝統的ビジネスエンタープライズだ。自動車に対しても、TVと同様に、我々のビジュアルコンピューティング技術でバリューを加えるチャンスがあると考えている」(Huang氏)。
NVIDIAは、このように注意深く、自社の技術的な強味を活かすことができる市場とアプリケーションを選択している。グラフィックスの強味を活かせるはずが、通信モデムという、NVIDIAにとって未知の要素のために、失敗したスマートフォン市場での経験から、こうした選択になったと思われる。
また、競合が少ない市場、あるいはこれから開ける市場を選んでいることもポイントだ。サーバー側は競合が多いと思うかも知れないが、実際には並列コンピューティングという側面で見ると、競合企業は限られている。
変わらないパートナーはGoogleとゲームデベロッパー
PCからクラウドとIoTへと広がることで、NVIDIAのビジネスモデルも変化し、パートナー企業も変わって来た。従来のPC OEMだけでなく、様々なOEMパートナーと組む必要があり、そのいくつかは、PCとは異なり、車載のような垂直型のビジネスモデルの世界のパートナーだ。また、SHIELDファミリのように、NVIDIAがパートナーに製造を委託して自社ブランドで販売する製品もある。
「各市場に提供する根底の技術は同じだが、NVIDIAがどうやって市場にもたらすかという手法は、各アプリケーションによって異なっている。新しい市場のためには、新しいパートナー企業と密接に連携して行く必要がある。垂直型の市場の場合は、製品が異なればパートナーも全く異なって来る。
しかし、ソフトウェアについては、全てGoogleをパートナーとして、我々が全て提供する。そして大切なことは、最も重要なパートナーであるゲームデベロッパーについては、どの市場でも共通するということだ」。
ソフトウェアパートナーとしてGoogleを選択したことをNVIDIAは強調する。そして、NVIDIAにとっての貴重な財産である、ゲームデベロッパーとの関係は、今後も重視する姿勢も明確にしている。Googleとゲームデベロッパという2大パートナー関係の結果として、NVIDIAはSHIELDデバイスのファミリを出し続けている。
“人類のためのOS”をベースにしたSHIELD
「我々は、SHIELDをポータブル機からスタートさせ、タブレットを出し、今はTVスクリーン向けのAndroid TVへと発展させた。我々が、AndroidをベースとしたSHIELDファミリを作り続ける理由は、Androidが非常にポピュラーなOSとなっているからだ。誰かは、Androidのことを“人類のためのOS(the OS for humanity)”と表現していた(笑)。実際、Androidはオープンソースで、多くのエコシステムがAndroidの周囲にあり、多くの企業が採用している。
だから、我々は、Androidが強力なゲームプラットフォームにも成長すると信じている。かつてPCが強力なゲームプラットフォームへと成長したのと同じように。特に、AndroidはインターネットOSであり、(ネットワークを前提とした)現在のゲームには合っている。
また、ゲームの土台となるOSとして、オープン性は非常に重要だと考えている。今後は、(ゲーム専用機のような)プロプラエタリなOSはどんどん少なくなって行くだろう。PCやスマートフォンでは、プロプラエタリなOSが少ないように、スマートTVを含む(広義の)IoTデバイスでもプロプラエタリなOSは少なくなって行くと考えている。そして、IoTプラットフォームのOSが、ゲームを走らせるのに充分であることを、我々は立証して行きたい。それが、SHIELDファミリを作った理由だ」。
もちろん、プロプラエタリOSも、充分に普及してアプリケーションプラットフォームとして広まれば競争力を持つ。しかし、ゲームプラットフォームであっても、汎用OSという考え方は、徐々に強まってきている。ハードウェアではゲーム専用機の強味は薄れ、API面でも薄れつつある。
もちろん、NVIDIAがこのように主張する背景には、据え置きゲーム専用機のGPUを全てAMDに独占されているという事情があることも確かだ。しかし、その状況が、逆に、NVIDIAにとってフリーハンドにゲーム向けデバイスを自社ブランドで出すことができる状況を作り出している。
コンピュータが自らをプログラムするディープラーニング
では、IoTと並ぶもう1つの焦点、クラウドに対してのNVIDIAの戦略はどうなのか。NVIDIAは3月に開催した同社が主催するGPUコンピューティングのカンファレンス「GPU Technology Conference(GTC)」で、ディープラーニングに徹底的にフォーカスしたキーノートスピーチを展開した。NVIDIAが焦点をどこに置いているのかは明確だ。
「NVIDIAのGPUは、クラウドに浸透しつつある。GPUアクセラレーテッドクラウドコンピューティングは、当社のビジネスで最も成長率の高い分野で、年に売り上げで60〜70%ずつ成長している。その理由は、ビッグデータ分析でGPUが有用だからだ。
ビッグデータ分析の中で最もエキサイティングなアプリケーションは、ディープラーニングAIだ。現在では、甚大な量のデータを、超高速なプロセッサを使って処理することができる。その際に、コンピュータ自身に、どうプログラムするかを教えることができる。これが、ディープラーニングAIの意味で、信じられないほど素晴らしい。
我々は、完全に空のコンピュータをディープラーニング手法で学習させることによって、画像や音声などを認識するためのプログラムを、言ってみれば、コンピュータ自身によって自らプログラムさせることができる。コンピュータは、いったん学習が終わると、タスクを自らこなすことができるようになる。我々は、さらに学習させることで、よりコンピュータを賢くすることもできる。
今日、ディープラーニングとして知られているこの技術は、将来のAIにとって非常に重要な基礎となる。そして、ビジネス面では、最も急速に成長している分野だ。NVIDIAの今日の戦略では、ディープラーニングに、ゲーミングと同様に注力している」。
コンピュータが、自らをプログラムするという表現は、ディープラーニングの表現で時たま使われる。ディープラーニングでは、膨大な計算能力が必要となる。NVIDIAは、GPUコンピューティングによって、ディープラーニングをアクセラレートできる点を大きなビジネスチャンスと見なしている。
ここは重要なポイントで、NVIDIAはこれまで、HPC(High Performance Computing)市場には浸透したが、通常のデータセンタには充分には浸透できないでいた。ディープラーニングは、その壁のブレイクスルーとなりつつある。
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