社説:油井さん宇宙へ 「有人」の意義を明確に

毎日新聞 2015年07月24日 02時30分

 日本人宇宙飛行士、油井亀美也(ゆい・きみや)さん(45)が、国際宇宙ステーション(ISS)に到着した。約5カ月間滞在し、観測機器の設置や科学実験に取り組む。幼いころから宇宙に関心を抱き続け、39歳で航空自衛隊のテストパイロットから転身した「中年の星」の活躍に期待したい。

 自衛隊出身の宇宙飛行士は初めてだ。ISSには米露をはじめ15カ国が参加する。油井さんは「ISSの活動を他分野にひろげれば戦争が起こりづらい環境を作り出せる」との思いを胸に、宇宙に向かった。

 油井さんの活動の主な舞台となるのが、日本の実験棟「きぼう」だ。中でも、宇宙の謎の一つ暗黒物質の検出を目指す観測装置「CALET(キャレット)」の取り付けが注目されている。きぼうでは初めてとなるマウスの実験装置の機能確認も担当する。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、実験を新薬開発などにつなげたい考えだ。

 日本人の宇宙飛行は10人目、ISSへの長期滞在は5人目だ。日本人飛行士が宇宙にいることは、すっかり日常的な光景となった。

 ISSは2020年までの運用に参加各国が合意している。米国は昨年1月、24年までの運用延長を各国に呼びかけた。ロシア、カナダが参加を表明し、対米関係を重視する日本も同調する方向になりつつある。

 問題は費用だ。日本のISS関連経費は年間約400億円。累積では8000億円超が投入された。しかし、これまで産業面での直接的な成果に乏しい。このため、政府内には有人活動の意義を問う声がある。

 一方で、ISSでの国際協調は、油井さんも語るように外交や安全保障面でメリットがある。ISS関連経費をできるだけ抑制しつつ参加する道を探ることが、日本にとって現実的な対応策ではないか。

 ISS後の有人宇宙開発を見据えた議論も深めたい。

 欧米やロシア、中国は月や火星への無人・有人探査を計画している。特に火星は人類にとっての新たなフロンティアであり、長期滞在や資源開発などの可能性がある。米露の宇宙飛行士2人が今春からISSでの1年間の滞在を始めたが、こうした動きを踏まえたものだ。

 文部科学省の小委員会も、月や火星の無人探査から有人探査へと進むべきだとする報告書を先月まとめた。出遅れると、将来の権益獲得の機会を失う恐れもあるという。

 だが、月や火星の有人探査にはISS以上に巨額の費用がかかる。日本が達成すべき目標は何なのか。各国との連携をどう進めるのか。政府は透明性のある議論を重ね、国民の理解を得ていく必要がある。

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