社説:電気柵で感電死 安全対策の再点検を
毎日新聞 2015年07月23日 02時30分
痛ましい事故と言うほかない。
静岡県西伊豆町の川岸で、設置されていた獣害対策用の電気柵から流れたとみられる電流で家族連れら7人が感電し、男性2人が死亡した。
電気柵の設置者は、川の土手の斜面にアジサイの花壇を作っており、シカなどの野生動物から守るために花壇を電気柵で囲んでいた。
その付近にいた子供が電気柵に触れ、切れた電線が川の中で漏電し続けたとみられている。体がぬれると電気抵抗が下がるため、救出しようと川の中に入った人たちの被害が甚大になった可能性が高い。
電気柵の設置者に対しては、人体に影響がない程度に電流を弱める電源装置や、漏電遮断装置などの設置が電気事業法に基づく法令で定められている。だが、静岡県警によるといずれも設置されていなかった。やはり法令で義務づけられている危険を示す表示板もなかったという。
県警は管理に落ち度があったとみて捜査中だ。原因を解明し、事故の再発防止につなげてほしい。
鳥獣による農作物への被害は近年増加し、全国で約200億円といわれる。山あいの集落は過疎化や高齢化が進む。耕作放棄地が増え、そこをえさ場にイノシシやシカなどが人里近くに下りてくる。森林伐採などで野生動物の行動範囲が拡大している状況が輪をかける。こうした環境変化は都市近郊も例外ではない。
電気柵は、人手がかからないため野生動物による食害を防ぐ有効な手段として、設置が広がっているという。最近はインターネットでも安価で購入でき、自治体によっては補助金を出して設置を勧めている。
ただし、人が感電死する事故は2009年にも起きている。その事故がきっかけで、政府は一定の規模の電源から電気を引く場合には電流を弱める装置の設置を義務づけるなどの措置をとった。だが、こうした対策を打ち出しても、設置者が法令を守らなければ意味がない。
07年に成立した「鳥獣被害防止特別措置法」では、市町村が食害被害の防止計画を作り、国が支援措置を実施する仕組みが盛り込まれた。
市町村が作成する計画には、電気柵などの設置に関し、設置者への知識の普及に努めることも記載される。今回、電気柵の設置者に法令を守るよう呼びかける啓発は十分だったのか検証が必要だ。
また、罰則のない現行の法令で十分と言えるのか。今後の捜査や検証を踏まえ、政府も安全対策のあり方を再検討すべきだろう。電気柵メーカーも、より安全性の高い製品や保守点検のあり方について研究を重ねてもらいたい。不幸な事故を今後の教訓として生かしてほしい。