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時論公論 「東芝 利益かさ上げの本質」

関口 博之  解説委員

▽日本を代表する名門企業が今、大きく揺れています。
東芝の、不適切な会計処理問題は、歴代の社長3人が揃って辞任するという事態になりました。
外部の専門家による第三者委員会は、経営トップを含めた組織的な関与があり、意図的に利益をかさ上げしたと厳しく断じました。
東芝で何が起こったのか、考えます。
 
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▽東芝の田中久雄社長は21日の記者会見で、「140年の会社の歴史の中で最大ともいえるブランドイメージの毀損」と現状の深刻さを認めました。
自らを含め、歴代3人の社長が辞任、取締役16人のうち、半分の8人が辞任するという異例の事態になったのです。
当面は室町会長が社長を兼任し、来月中旬までに新たな経営陣を決めることにしています。

▽それだけ関係した役員が多く、つまり幅広い分野の事業で、不適切な会計が何年にもわたって行われていたことを示しています。
 
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こちらが、第三者委員会が指摘した年度ごとの、過大な利益の計上額です。
西田あつとし社長当時の、2008年度に始まり、佐々木のりお社長の時代に拡大しました。
2012年度には873億円もの利益のかさ上げが行われていました。
下向きのグラフは、逆に過去のかさ上げ分を一部、解消したことを示していますが、田中社長になってからも、完全には解消しきれなかったことがうかがえます。かさ上げの総額は1500億円以上で、これはこの間の東芝の税引き前利益の30%余りにもあたる額です。
まさに投資家を欺いていたと言わざるをえません。
アメリカでは、東芝を相手取った投資家の損害賠償訴訟が起こされるなど波紋も広がっています。

▽経営トップの姿勢が、どう不適切な会計処理に繋がったのか、そのカギになるのが社内で「チャレンジ」と呼ばれていた収益目標でした。
各事業部門にトップから課せられる目標が、あまりに過大で、現場はそのプレッシャーにさらされていたといいます。

▽第3者委員会の報告書は、トップの言動を生々しく記しています。
2008年、リーマンショック後の景気悪化の中で、西田氏は、パソコン事業が大幅な赤字という見込みを聞くと、「こんな数字恥ずかしくて公表できない」と述べたといいいます。
また会長に転じた後も、当時の田中副社長に「今期は少しくらい暴走しても、営業損益に貢献せよ」と言ったとされています。
 
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「暴走」が示唆するのは、多少荒っぽいことをしてでも達成をということのようです。

▽また、佐々木氏は2009年、パソコン事業に関して、「一番会社が苦しい時に、ノーマルにするのは良くない考え(このノーマルにというのは、不適切会計を是正するという意味ですが)パソコン部門のためにも東芝のためにもなっていない」と発言したとされています。
 
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テレビ事業に対しても、「改善チャレンジへの回答となっていない 全くダメ、やり直し」とつき返す場面が報告書に書かれています。
 
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▽そして田中氏も、「このままでは、家電事業からの完全撤退を考えざるを得ません。これは決して脅かしではありません」などと述べています。
 
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また2013年には財務担当の副社長に「極秘の相談」だとして、パソコンの部品取引での利益のかさ上げを増やす相談もしています。
副社長は「ベストはつくしますが私は反対です」と述べたということです。
 
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▽やりとりの多くは「社長月例」という毎月の報告会議で行われていましたが、会議では、縦割り組織の弊害も目立った、と関係者は証言する。
事業ごとのいわゆる社内カンパニーの責任者に、社長とその分野を担当する役員が、問いただす場面が多くて、他の部門からは口を挟みにくい状況だった、といいます。
このため、目標自体が果たして適切なのかといった、議論もなく、一方的な「叱責の場」になっていたというのです。
 
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▽では、実際の会計処理はどのように行われていたのでしょうか。
パソコンの部品取引を例に見て見ます。

▽パソコンの主要部品は、まず東芝本体が調達し、それを生産委託先の海外メーカーなどに供給しています。
この時に、東芝が「部品をいくらで調達しているか」この価格を、ライバル社に知られないようにするため、「架空の水増し価格」をわざと上乗せして、委託先には売ります。
このため部品を売ると、見かけ上は利益になります。
委託先はそれに加工費を加えて、また東芝に買い取ってもらいます。
東芝は顧客に売る際には当然、架空の価格分を差し引いて売る、という流れです。
 
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▽つまり部品を売った時点では、一時的に利益が生じますが、最終的には、社内でプラスマイナスが相殺されて消えてなくなるものです。 
それなのに途中段階での見かけ上の利益をそのまま計上していたのです。
しかも、決算の直前には、必要以上に大量の部品を売ったことにしてさらに利益をかさ上げする「押し込み」といったことも行っていました。
 
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▽こうしたやり繰りは、いずれ、辻褄が合わなくなるのが明らかだ。
それでも続けたのは、会計ルールを守るという意識がマヒしてしまっていたと言わざるをえません。 

▽では、東芝はこうした問題や危険をチェックする仕組みを持っていなかったのでしょうか。そんなことはありません。
コーポレート・ガバナンスの面ではむしろ、先進的な会社とされていました。
コーポレート・ガバナンス=企業統治とは、経営の透明性を高め、法令やルールにのっとった経営で不正を防止し、そして、より前向きにいえば、企業の成長を促すための仕組みのことです。
そのために重要なのが「外部の目」です。
 
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▽東芝は、外部の目を活かすため、2003年に「委員会等設置会社」という制度を取り入れました。
この制度では、日常の業務を行う社長以下の執行役に対し、取締役会は、主に「監督をする」という位置づけになります。
そのため東芝は取締役会に4人の社外取締役を招きました。
そして取締役会の元に、監査など3つの委員会を置き、委員会は全て、社外取締役が過半を占めるようにします。
 
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▽実際、東芝の監査委員会は5人のうち3人が社外取締役で、体制は一応整っていたのですが、実際にはあまり機能していませんでした。
というのも、社内出身の監査委員は、直前までいわゆるCFO=最高財務責任者だった人物だったのです。
 
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業務を執行する側からの「横滑り」では、自分で自分を採点するようなもので、十分なチェックは出来ません。
第三者委員会は、再発防止のためには、強力な内部統制部門を新たに作るべきだと提言しています。
そして経営トップからも独立性を確保し、トップの不正にも監査権限を持てるようにすべきだとしています。
 
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▽今回の問題は、安倍内閣がコーポレート・ガバナンスの強化を成長戦略の柱の一つとして進めている中で起きました。
その打撃も大きいと思います。
日本企業がコーポレート・ガバナンスの強化に本気で取り組む気なのかどうかを海外の投資家も見ています。
それは日本の株式市場への信認にも影響します。
しかし、コーポレート・ガバナンスは、体制を整えるだけでは実効性は保てません。
形骸化すれば不正の余地も生まれます。東芝の問題はそれを示しました。

▽田中前社長は会見で「利益は重要だが、それには適正かつ厳正な会計処理が大前提で、今回はそこがずれていた」と述べました。本当にその通りです。
トップが本来、語るべきは、その「大前提」は揺るがせにはしないという決意です。
それが社員の「心」にまで響くよう、経営者は繰り返し伝えてほしいと思います。
 
(関口博之 解説委員)

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