こんにちは、YU@K(@slinky_dog_s11)です。
一応「映画ブログ」というくくりでやっているので、もう何度目かの洋画宣伝問題について。アベンジャーズ系列ことMCU最新作「アントマン」の吹替えにまたもやタレントが起用され一部の映画ファンが憤っていたのだが、もはやそれさえも日常の出来事に思えてしまう。頻度としては、学校の給食がたまに不味くて怒っているような感じだ。つい最近だけで思い返しても、「チャッピー」の本編がカットされたり、「マッドマックス」の主演吹替がEXILEだったり、「アベンジャーズ」の宣伝が執拗に愛を推していたり、その界隈は燃料に事欠かない。“宣伝詐欺”というニュアンスで昨年「ベイマックス」がやたら騒がれて以降、より勢いを増しているイメージだ。
当ブログでも過去に何度かこの問題については取り上げていて、私自身も年に何十回も映画館に足を運ぶ人間だが、色んな意味で「仕方ない」という感覚に落ち着いてしまっている。詳しくは以下の過去記事を読んで欲しい。
・映画の宣伝が客を「切り捨てる」ということ
・「BIG HERO 6」はなぜ「ベイマックス」なのか? 〜ハートフルな国内宣伝にロケットパンチ!
この手の「映画ファンが憤る宣伝はなぜ起こるのか」という点については、前述のような記事を書いたり、SNSにおいて映画ファン同士で意見交換をしたりして、ある程度の理解は得られているつもりだったが、先日その辺りの“なんとなく”が明文化されているエントリーを読んだ。
・洋画プロモーションはなぜ炎上するのか (瞬きて、視覚)
このエントリーを要約すると…
・なぜタレント吹替なのか?
→ 話題性だけで実績がなく声優に初挑戦のタレントが吹き替えをするのが、プロモーション的には一番旨味があるから
・誰に対してプロモーションを行っているのか
→ 熱心な映画ファンじゃない人
・映画ファンの怒りは配給に届いているのか
→ 配給会社としては大したマイナスにはなっていない
…という内容で、“なんとなく”理解していた内容がすっと入ってくる内容だった。「そうだよなあ、そうなんだよなあ」と。だからといって「宣伝に文句言うのをやめよう」とかそういう呼びかけをするつもりはないのだけど、それよりは文中の『私達がすべきなのは、配給会社の宣伝手法への批判を拡散させることではなくて、「日本の予告は“感動”を推してるけど、この映画はアクションもすごいよ!この海外版のトレーラーを見てみて!」的なポジティブな情報拡散をしていくことなのかもしれません』にあるような、何かしら生産的な動きの方が良いんじゃないのかな、と。
私も基本的には「映画の宣伝は、もうある種“仕方ない”」というスタンスなので、こちらのエントリーのように、自分がまた別の角度から微力宣伝マンになれるように、主にTwitterやブログでいつも頭を捻っている感じだ。先日も関連作がすでに11作にもなってしまったアベンジャーズをどう布教するか考え抜いて、下のような記事を書いてみたりもした。実際にTwitterでは何人かの方から「知人がこれを読んで興味を持ってくれました!」という声もいただけて、心底嬉しかったり。
・「アベンジャーズ? 興味ない…」という人に伝えたい50万人が映画館に駆け付ける理由
「映画の宣伝は、熱心な映画ファンに向けてやっている訳ではない」。これはもう映画に限定することではないのだけど、宣伝というのは選挙で言うところの「無党派層」をいかに取り込むかがカギなのだ。要は、映画に対するアンテナが比較的低い人。趣味の情報アンテナが低いことは何も悪いことではないのだが(私も例えばアニメだったらほとんど分からない)、そういう人は決定的にその界隈に対する情報収集に欠けているので、(良い意味で)騙されやすい。
例えば昨年の「ベイマックス」だが、実は「BIG HERO 6」というアメコミヒーローだという部分が比較的隠され、ゆるキャラな面が強調された。この時に、「実はヒーローなんだぞ!隠蔽宣伝だ!」と声を上げられたのは、映画に対するアンテナが高い一部の人であり、例えばあまりネットで映画の情報を収集しない多くの人は、おそらく「ベイマックス」上映開始のブザーが鳴るまでアメコミヒーローの“ア”の字も知らなかっただろう。アンテナが高い人と低い人とでは、情報収集の手段もフィールドも全く異なるのだ。
これは、何も当て推量で言っている訳ではない。NTTコムリサーチの『第4回「映画館での映画鑑賞」に関する調査』(有効回答者数3,117名)によると、まずもって、直近1年以内に映画館で映画鑑賞をした人は、全体のたった35.9%だ。
更に年間の鑑賞本数を見てみると、前述の35.9%=1120サンプルのうち、年に5本以上鑑賞するのは全体の約32%。私のような12本以上観る人間はたったの約8%だ。つまり映画を全く観ない人まで含めて換算すると、年に映画を5本以上観るのは約11%の人間で、12本以上観るのはたったの約3%ということになる。
おそらく、映画の宣伝に対して怒ったり憤ったりしている人は、主にこの3%に属する人たちなのだろう(私も含めて)。なんともやり切れない数字ではあるが、そりゃここの人達がいくら声を荒げても何も変わらないはずである。配給は、この3%は「放っておいても観に来る層」として、宣伝においては半ば切り捨てているからだ。
また、「直近に観た映画タイトルに興味を持った情報源」という項目でも、その3%が切り捨てられる事実を裏付ける結果が出ている。熱心な映画ファンがCMとして流れる前にネットで何度も観た予告映像や、通っているうちに台詞まで覚えてしまう映画館の予告、吹替タレントがコメントを発信するTV番組での宣伝。これらが上位3つなのだ。更に言えば、これは“年に映画を1回以上観る人”が母数の結果である。
前述の例で言うなら、“年に映画を1回以上観る人”であっても、「ベイマックス」の元ネタがアメコミヒーローものだとは、気付けないようになっている。CMや予告編では、そのほとんどがゆるキャラ宣伝だったからだ。吹替タレントに関しても、「話題性だけで実績がなく声優に初挑戦のタレントが吹き替えをするのが、プロモーション的には一番旨味があるから」という先のエントリーの考察が見事に証明されている。映画を年に1回以上観る人でも、その65%がテレビから情報を得ているからだ。
つまり、身の回りだけ見れば炎上しているような映画の宣伝問題も、言ってしまえば全体のたった3%の話であって、それよりも「無党派層」を獲りにいく配給のスタンスが重視されるのは、ビジネス的にとっても普通のことなのだ。しかも、熱心な映画ファンは映画館のポイントサービスや前売りを駆使してなるべく安く観る方法を知っているが、「無党派層」の人は「レジャーで映画館に行こう」「なんか流行ってるから、TVで見たからこれでも観るか」と、連れ添った友人・カップル・家族同士で「定価×n人」円を払ってくれる。費用対効果を見れば、確実にこっちに注力した方が良い。
だからどう、という訳ではない。上にも書いたように、「宣伝に文句言うのをやめよう」とは、私は言わない。その憤りは十分理解できるから。ただ、「内容を汚してまでやるタレント吹替で利益は得られるのかよ!プンプン!」という論調で不満を叫んでいる人には、「いやね、マジで利益があるからそれが続いてるんですよ」と、伝えておきたくはある。それはもう事実なんだから。(私個人については「トイ・ストーリー」という偉大な前例があるので、実際に観て聴いて判断するまでタレント吹替に文句は言わないけど)
もちろん、こういうカラクリと背景だからといって、その3%の怒りを買うような宣伝をしても良い大義名分にはならない。かといって、3%が喜ぶ宣伝をして映画自体がコケても本末転倒なのだ。とっても気の長い話だけど、もっと日本の映画産業そのものが盛り上がって、3%には3%ウケする宣伝を、「無党派層」には「無党派層」ウケする宣伝を、多角的に仕掛けられるだけの商業的余裕が生まれたら良いな、と願っている。だから私は、今日もチマチマとTwitterやブログで好きな映画の布教をするのだ。
(あわせて読みたい)
・2015年上半期 新作映画マイベスト5は「狂気」のラインナップ!(全23作品レビュー&ランキング)
・それでも君はTwitterに映画の感想を呟く
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・私なりのブログ記事の書き方(文章構成)、簡単で楽な10のコツ
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うーん。そんな不満は見た事ないけどその”利益”は本当にタレント吹替によるものなのだろうか。タレント起用してなくてもCM、劇場予告、番組内での宣伝ありますよっと。
実際にそういう意見を私はよくネットで目にするので、その通り書きました。タレント吹替の費用対効果については、参考にさせていただいた『洋画プロモーションはなぜ炎上するのか (瞬きて、視覚)』のエントリーをお読みください。
恐らく元々の支持者が多いので無党派層に訴えなくても良いという、吹き替えとは違う事情なのでしょうね。
結構前にAmazonでXmenフューチャー&パストのブルーレイで評価が低く何故なのかとコメント欄を見てみたら吹き替えが剛力だということで商品を買わないという意見が多かったので、こりゃ利益を邪魔してるなと思ったのですが筆者さんのブログを見て驚きました!
まぁXmenの剛力問題はローグエディションという別のブルーレイで解決されましたが・・・
つか何で今更ローグエディション出したのよ!
(すみません関係ないです)
こういう言い方はちょっと失礼かもしれませんが、「腐っても国産」ということでしょうね。特撮や邦画における「無党派層」のそれは、洋画とはまた全く状況が違うのでしょう…。
>応援団様
利益があるというより、正確には、タレントを起用すると広告塔としての費用対効果が高い、ということなんでしょうね。理屈は大変分かりやすいのですが、かといって映画好きからするとなんだかなあ、とは思いますが…。