[上田令子]【都・異常死の医薬品等検出数、危険ドラッグの87倍】〜向精神薬多剤大量処方の影響か?〜
Japan In-depth 7月14日(火)18時56分配信
7月8日には、千葉市の医療法人石郷岡病院の精神科に入院していた男性患者を暴行し、死亡させたとして傷害致死の疑いで同病院の准看護師、准看護師両容疑者が逮捕された。遺族が公表した、患者への暴行映像に衝撃を受けた方も多かったことであろう。精神医療に、今何かが起こっている。
おりしも、この深淵な問題に、愚直な議会活動の結果、私自身も遭遇することとなった。6月に開催された東京都議会第二回定例会では、「東京都安全・安心まちづくり条例の一部を改正する条例」が可決。改正の目玉は、いわゆる「危険ドラッグ」の対策強化だった。議案審査にあたって、危険ドラッグでどのくらいの都民が生命を落としているか調査に乗り出し、私はある資料を入手した。
「監察医務院における異状死にみられる薬物乱用・依存等の実態に関する調査研究」
分担研究者:福永龍繁 東京都監察医務院 院長
研究協力者:鈴木秀人、引地和歌子、柴田幹良、阿部伸幸(いずれも東京都監察医務院)
東京都監察医務院とは、東京都23区で発生した異状死を取り扱う行政機関だ。「薬物中毒死」というと、危険ドラッグや覚せい剤中毒による死亡を念頭にいれていたのだが、調査結果を見ると予想に反しもっとも多かったのは、医薬品等の検出件数であった。調査は経年比較をしているが、2013年件数を以下とりまとめてみた。
1.行政解剖母数=2,338件
行政解剖の発生件数。減少傾向
2.中毒死=73件 2011年の8割に減少
薬毒物を手段とした自殺=136件 2008年の5割に減少
3.医薬品等の検出件数=783件
直近の4年間は、高止まりで推移。
全医薬品における割合
精神神経用剤薬40%
睡眠導入剤薬25%
抗てんかん剤15%
解熱鎮痛消炎剤20%
アルカロイド約2%
(上田注:約80%が向精神薬)
4.覚せい剤=9件
顕著に減少
5.危険ドラッグ=9件
検査依頼は2012年から開始一件から大きく増加
6.結論
薬毒物による自殺事例の発生件数は大きく減少し、行政解剖による検出薬物では、精神神経用剤と抗てんかん剤の件数は増加、もしくは高止まりの状況で推移。
驚くべきことに、行政解剖とされる不自然死の33%から医薬品等が検出され、その数たるや危険ドラッグや覚せい剤の87倍。しかも医薬品の8割方を向精神薬が占めていたのだ。
そこで、6月24日総務委員会で、この驚きの調査結果について青少年治安対策本部と福祉保健局との情報共有がなされていたのか東京都へ問うたところ「当該調査については把握。医薬品等の中毒死に関しては、その多くが自殺、過剰摂取」と答弁をしてきた。これはおかしい。上記1〜6に掲げたように、監察医務院調査では、医薬品等の検出件数と薬毒物を手段とした自殺は分けて計算しているが、医薬品等の検出件数(783件)の多さを見ると、「医薬品等の中毒死に関しては、その多くが自殺」という答弁をそのまま鵜呑みにすることは出来ない。
これではまるで、医薬品等が検出された異常死の大半が自殺ではなく向精神薬によるものだという回答を巧みに避けたと見えなくない。都民の代弁者である議員へ明言を避ける理由がなにかしらあるのかもしれない。
精神医療については、向精神薬を過剰摂取したことによりかえって自殺衝動が起きたという症例も散見。1998年以降、向精神薬の市場規模がほぼ10倍と飛躍的に増加しているにも関わらず患者数も増加、自殺者(薬物によるものだけではなく全件数)も高止まりしたままで、自殺者の中には精神科の受信者も相当数及んでいるという。このところの報道を鑑みても、東京都も区市も大きく関与するであろう重大な問題なことから、今後も鋭意調査を敢行する。都民の人権が守られ、心安らかな健やかな尊厳のある日々を願い、闇に光をあて、随時都議会で質し、都民・関係機関へ報告と情報提供をしていく所存だ。
《2015年7月23日記事一部訂正の内容》
1記事一部訂正のお詫び
編集部が、「医薬品等の検出件数」783件について、東京都監察医務院に確認したところ、「医薬品等の検出件数が783件は、亡くなった人の数ではない」との回答を得ました。本研究は、医薬品等が検出された解剖体の死因については言及していません。したがって、783件=薬物中毒死の人数ではないことは明白です。以上のことから編集部としては、以下の通り訂正しました。誤解を招く記載があったことを編集部としてお詫び申し上げます。
2訂正内容
1タイトル
訂正前
【医薬品等による薬物中毒死、危険ドラッグの87倍】〜向精神薬多剤大量処方の影響か?〜
訂正後
【都・異常死の医薬品等検出数、危険ドラッグの87倍】〜向精神薬多剤大量処方の影響か?〜
2本文
訂正前
調査結果を見ると予想に反しもっとも多かったのは、医薬品等による異状死であった。
訂正後
調査結果を見ると予想に反しもっとも多かったのは、医薬品等の検出件数であった。
訂正前
2.中毒死、及び薬毒物を手段とした自殺=73件
2011年の8割と、減少
訂正後
2.中毒死=73件 2011年の8割に減少
薬毒物を手段とした自殺=136件 2008年の5割に減少
訂正前
驚くべきことに、行政解剖とされる不自然死の33%もが医薬品等による薬物中毒死であり、その数たるや危険ドラッグや覚せい剤の87倍。しかも医薬品の8割方を向精神薬が占めていたのだ。
訂正後
驚くべきことに、行政解剖とされる不自然死の33%から医薬品等が検出され、その数たるや危険ドラッグや覚せい剤の87倍。しかも医薬品の8割方を向精神薬が占めていたのだ。
訂正前
上記1〜6に掲げたように、監察医務院調査では、医薬品等による中毒死783件と自殺は分けて計算しており、自殺は73件なのだから「(医薬品等による中毒死)その多くが自殺」というは、明らかな誤りだ。
訂正後
上記1〜6に掲げたように、監察医務院調査では、医薬品等の検出件数と薬毒物を手段とした自殺は分けて計算しているが、医薬品等の検出件数(783件)の多さを見ると、「医薬品等の中毒死に関しては、その多くが自殺」という答弁をそのまま鵜呑みにすることは出来ない。
訂正前
これではまるで、医薬品等による中毒死の大半が自殺ではなく向精神薬によるものだという回答を巧みに避けたと見えなくない。都民の代弁者である議員へ明言を避ける理由がなにかしらあるのかもしれない。
訂正後
これではまるで、医薬品等が検出された異常死の大半が自殺ではなく向精神薬によるものだという回答を巧みに避けたと見えなくない。都民の代弁者である議員へ明言を避ける理由がなにかしらあるのかもしれない。
上田令子(東京都議会議員/地域政党「自由を守る会」代表)
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