突然ですが、「はし」という言葉を聞いて、どのようなものを思い浮かべますか?
関東方言ではこの「はし」という言葉を3通りの違うやり方で発音します。
はし(箸) はし(橋) はし(端)
※ 相対的に太字が高い音を表します
「ん?最後のふたつは同じじゃないのか??」
そう思った方は「はし(橋)」と 「はし(端)」の違いは後ろに「は」や「が」などの助詞を入れると違いがわかります。
はしが(橋が) はしが(端が)
普段はあまり意識して考えたことはない人が多いと思いますが、日本語はこうした「声の高低」を利用して様々な単語を区別しています。
英語では日本語のように声の高低を利用して異なった単語を区別することはありませんが、イントネーション(抑揚)という形で「声の高低」を使います。おそらく中学校から英語を学んできた人なら、英語のイントネーションといえば「Yes-No疑問文の文末では声を上げ調子で言い、疑問文でない通常の文やWh-疑問文では文末は声を下げ調子で読む」ということならご存知なのではないでしょうか。
実は英語のイントネーションというのはもう少し奥が深いのです。
そしてイントネーションを学ぶと英語学習がより楽しくなります!
今回の記事は、英語におけるイントネーションはどういったものなのかということを紹介し、中でもイントネーションの中心的役割を果たす「音調(tone)」というものについて簡単に説明したいと思います。
この記事の目次
イントネーションとは
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そもそもイントネーションとはなんなのでしょうか。大辞林によるとイントネーションは以下のように説明されています。
話し言葉で、話の内容や話し手の感情の動きによって現れる声の上がり下がり。文音調。抑揚。語調。
(大辞林より引用)
どの言語でもいえることですが、イントネーション、つまり声の上がり下がりによって「話の内容」や「話し手の感情」といったものが表現されています。英語でも、こうした「声の上がり下がり」は非常に重要で、イントネーションによって英語は非常に豊富なニュアンスを帯びることができます。同じ言葉でもイントネーションを変えるだけで、話し手の感情だけでなく、その言葉自体の機能さえも変えてしまうこともあります。まずは簡単な例から見てみることにしましょう。
いろいろな”Yes”
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はじめに、Yesという英語について考えてみたいと思います。Yesはいろいろな場面で使われる英語です。これからいろいろな風に発音されたYesが出てきます。このYesにかぶせられた声の上げ下げのパターンを音調(tone)といいますが、それぞれの音調を聞いて「どんな場面で使われるYesなのか」考えてみてください。違いがわかりますか?
(注意)それぞれ2回読んでいます。1回目は声の上げ下げがわかりやすいように、わざと不自然にゆっくりと読んでいます。2回目は普通に読んでいるので、2回目の”Yes.”がどういう状況で使われるか考えてみてください。
低下降調(Low-Fall)
どうということはありません、これはいわゆる普通の”Yes.”です。声を落とすトーンを下降トーンといい、比較的真ん中あたりの音域から低い音域まで落とすこのトーンを「低下降調」といいます。デフォルトの言い方と言ってもいいかもしれません。時に「無関心」のような印象を与えてしまうこともあります。
高下降調(High-Fall)
この高下降調は今述べた低下降調と比べて、より気持ちをこめて強調した下降調で、「軽快なイメージ」を与えます。あくまでも低下降調と比べた相対的なものなので意味自体に大きな違いはありませんが、聞き手に与える印象はだいぶ違います。基本的に下降調は、低下降調でも高下降調でも、これから述べる上昇調とは異なり、発言が一旦「終結」したことを表します。
低上昇調(Low-Rise)
上昇調は下降調が持つ「終結」の意味とは異なり、相手に発言を促す時に使われ、「まだ言うべきことがある」といったニュアンスが残ります。この低上昇調の”Yes”が用いられる最も典型的な場面が次のような場面です。
A: First, go straight along this street….
B: yes
A: until you get to the first traffic light and…
B: yes
A: turn right there and you see the post office on your right.
いわゆる「相槌」を打つ時にこの”Yes.”はでてきます。小文字で書いているのは、相手の発言の途中に言っているセリフだからです。相手の発言が終わっておらず、まだ言うべきことがある場合に使われています。「ふむふむ(それで?)」というニュアンスを出して相手の次のセリフを促すためにこうした低上昇調のイントネーションが使われることがあります。
相槌といえば、アメリカ人の表現でuh-huhという表現を聞いたことがありませんか?極端な話し、このイントネーションさえ使っていればを、”Yes”である必然性はありません。”Yeah.”や”Ok.”や”I see”でもいいわけです。
高上昇調(High-Rise)
この高上昇調も相手に発言を促しているわけですが、低上昇調の強調形と考えてよいでしょう。驚いて相手の気を引きたい時などに使われます。もっともわかりやすい場面が、「相手にもう一度同じことを言ってもらいたい時」にこの”Yes”が使われます。
A: Can you tell me your name and address please?
B: Yes?
A: Your name and address please.
名前と住所を求められましたがよく聞き取れなかったので、「な、な、なんですか??」と慌てて聞き返しているのがこの”Yes?”になります。
中学生くらいのころ、初めて英検の面接を受けた時のことを覚えていますか?私も中学3年生の時に受けましたが初めての英語での面接に対する不安が大きかったのを今でも覚えています。3級の面接対策の参考書を開いてみると、こんなことが書いてあったのを覚えています。
聞き取れなかった時は、”Pardon?”と言おう。
Pardon?=聞き返すセリフ、と覚えている人もいるのではと思いますが、極端な話「相手にもう一度おなじことを言ってもらいたい場合は、この高上昇調のイントネーションを使ってさえいればいい」というのが私の見解です。仮に、先ほどの名前と住所を尋ねられた場面でYes?の代わりにI’m sorry?や Excuse me? と言ったとしても、高上昇調を使えば問題なく通用します(この場合は低上昇調でも可)。また、大変ぶっきらぼうですが、Yes?の代わりに次のように言ったとしても成立します。
A: Can you tell me your name and address please?
B: Huh?
A: I said your NAME and ADDRESS!!
Huh?でもWhat?でも、このイントネーションを使えば、一応は相手に繰り返してもらうことはできるでしょう。ただ、言わなくてもわかると思いますが、こんな言い方をしたら相手が怒ってしまう可能性もあるので気をつけましょう(笑)。
下降上昇調(Fall-Rise)
下降上昇調は他の下降調(高下降調、低下降調)と比べると、ちょっと意味深な感じがする音調です。Yesは普通は首を縦に振りながら発音する「肯定」を表す発言ですが、この下降上昇調を使ってYes.と発言すると、話し手がどこか納得していない雰囲気が漂います。
A: Is everything all right?
B: Yes…
「いろいろ順調かい?」みたいに近況を聞かれて、一旦は「大丈夫なんだけど…」と認めつつも、その後に「けれども…」と続きそうな雰囲気がこのYes…にはあります。つまり、Yesを下降上昇調で言うと「Yesなんだけれども…」といったん認めつつもなにか反対の事情もあるといったニュアンスが出せる表現なのです。
ちなみに上の会話で低下降調を使えば若干淡白ながらも「大丈夫」という普通の返事になり、高下降調を使えば「全然大丈夫さ!」という軽快な返事になります。
「後ろに何かくるな??」
と聞き手に思わせるのが上昇調の持つ大事な機能です。次の英文でも下降上昇調の後ろにはbut…が来ています。
次の2つの文では、青字の部分に下降上昇調が使われています。
I know what you mean, but you have to understand it is not always the case.
「君の言っていることは分かるが、常にそうなるとは限らないということをわかっていなくちゃいけないよ」
You might think it’s funny, but I don’t think so.
「君はそれを滑稽に思うかもしれないけど、僕にとってはおかしくないんだよ」
このように、英語には相手の主張や一般論をいったん引き合いに出してから自分の主張を述べる技法があります。下降上昇調はこうした技法を使う上で非常に相性がいい音調なのです。
上昇下降調(Fise-Fall)
上昇下降調は耳にするのはなかなかない音調です。下降調の一種ですが、高下降調が「軽快なイメージ」を表現するのに対し、上昇下降調はさらにいっそう強調した感情が込められています。
A: Is everything all right? 「いろいろと順調かい?」
B: Yes!!! 「バリバリよ!」
テンションマックスでYes!!!と言っていることを想像してみてください。「軽快さ」を通り越して、ノリノリな感じが出ていますね(笑)。
中平坦調(Mid-Level)
この音調は「ロボット」を連想させるモノトーンのイントネーションで、時に「無関心」な印象を与えることがあります。しかし、この音調は使われる頻度が非常に高く、アナウンサーやナレーターなどの朗読のプロを除けば、若い人を中心に多くの人に使われています。言葉による感情表現が比較的苦手な10代の若者に使われることも多く、もしかしたら「思春期の音調」とも呼べるかもしれません。
よくよく考えてみると、日本の英語の教科書の朗読でこの音調が使われているのをあまり聞いたことがありません。教科書の朗読を依頼されるようないわゆる「プロのナレーター」にとって、この音調は「気持ちをはっきりさせない未成熟な話し方」もしくは「自信のない話し方」として避けられているのかもしれません。しかし、日本の中高生に多くとっては、こうした英語のイントネーションこそが、教科書では教わっていない「英語らしい英語」なのかもしれません。
「やってみましょう!」
画像出典: www.letsdoitworld.org
前回の記事【教歴10年目の英語教師が語る】海外留学なしで「通じる発音」を身につける方法でお話ししたように、英語の発音を身につけるためには音読のトレーニングが重要だということを話しました。その音読のトレーニンングをする際に、ほんの少しのイントネーションの知識があると音読をより楽しむことができます。
言い換え・追加情報のイントネーション
イントネーションは文法的な境界線をはっきりと示す働きがあります。次の英文を文字を見ながら聞いてみてください。
Mr Tanaka, | our school president, | is retiring next month.
「田中先生 、うちの学校長ね、 今月で退職しちゃうんだって」
前に述べられた語句をすぐ後で別の語句で言い換えることを文法用語で「同格」といいます。上の例でも、Mr Tanakaの説明をすぐ後ろで追加情報的に加えています。上の同格表現の例では、前後(青字の部分)で先ほど紹介した下降上昇調が使われています。
また、同じ名詞を関係詞を使って追加情報的に説明を加えるということもあります。この場合も上の同格の例と同じように、追加的に説明している節の前後で下降上昇調が使われることが多いです。
Mr Tanaka, | who is our school president, | is retiring next month.
「田中先生、うちの学校長やってる人ね、今月で退職しちゃうんだって」
ちゃんと読めましたでしょうか?この場合も同様に、関係詞節の前後(青字の部分)で下降上昇調が使わています。ちなみに、こうした音調が現れるのは単語(語句)の中でアクセントのあるところから始まります。なので、Mr Tanákaの場合はnakaの部分に、schóol presidentは1語のようにとららえてアクセントのところから声を下げてその後で少しだけ上げる、といった感じです。
この「声をいったん落としておいて少し声を上げる」という下降上昇調は「次に何か来るな!?」という場面で現れることが多いです。また、「文法的な境界線の前」でよく現れることもあるのだな、ということもわかります。
列挙のイントネーション
中学校などでは、英語で2つ以上のものを列挙する時は、”A, B and C”のようになり、イントネーションは「Aで上昇、Bも上昇、そして最後にCで落とす」というふうに教えられていますが、みなさんはどのように発音しているでしょうか。今回お話しした音調のいくつかを使えばより英語らしい朗読になります。
以前の記事【教歴10年目の英語教師が語る】海外留学なしで「通じる発音」を身につける方法で紹介したappleに関する英文の朗読を2通り聞いてみてください。色字にフォーカスして聞いてみてください。
Apple is an American multinational technology company headquartered in Cupertino, California, that designs, develops, and sells consumer electronics, computer software, online services, and personal computers.
(Wikipediaより:一部改変)
① 青字を下降上昇調(Fall-Rise)で
② 青字を中平坦調(Mid-Level)で
上で読み上げている音声では、列挙の部分は、
(A) designs, (B)develops, そして (C)sells以下
また”sells以下”の中にも
(A) computer electronics, (B)computer software (C) online services, そして (D)personal computers
①の朗読は青字を下降上昇調で読んでいます。一方②の朗読では青字を中平坦調で読んでいます。赤字は「終結」を表す下降調(低下降調)です。
2つの朗読を聞いてみてどのように印象が違ったでしょうか。また、どちらの朗読を気に入ったでしょうか。結論からいいますと、どちらも列挙する場合にはよく使われるイントネーションなので、好きなほうを使ってもらって構いません。
ただ、あえて言わせてもらうならば、①のほうは通例「学校の先生が子供達に丁寧に朗読をする場合」であったり、「アナウンサーがニュース原稿を読む場合」であったり、比較的「丁寧に伝えなければならない場面」で使われることが多いイントネーションです。日本の英語の教科書の朗読ではほとんどがこちらのイントネーションで録音されている気がします。
一方、②は先ほどの中平坦調で簡単に説明したように、人によっては若干「未熟な印象」を感じるのではないでしょうか。しかし、日常的には非常によく使われるイントネーションで、報道関係者の英語の中でさえも頻繁に出てきている気がします(例えば、中継している場所から急いで状況を伝えなければならない記者の英語など)。
Apple is an American multinational technology company headquartered in Cupertino, California, that designs, develops, and sells consumer electronics, computer software, online services, and personal computers.
③ 青字を低上昇調で(Low-Rise)で
このように、英語での列挙項目は、①下降上昇調、②中平坦調、③低上昇調で読むことができます。どれも違った印象を生み出すイントネーションになるのはわかってもらえたと思いますので、たくさん読み込んで研究してみてください。みなさんの話す英語にいっそうの「味」がでるはずです。
まとめ
“Yes”という短い言葉を例から始まっていろいろな音調パターンを見てきましたが、いかがだったでしょうか。想像していた以上に英語のイントネーションは奥が深いことをわかってもらえたのではないでしょうか。この7つの音調は英語のイントネーションの基本(核と呼ばれることもあります)になる部分です。この記事を読んでイントネーションに興味を持った方は、ぜひこの基本となる7つの音調を練習して身につけてください。そして、いろいろな読み方をご自身で研究してみてください。
画像出典:www.allworship.com
今回ご紹介してきたものはいわゆるイントネーションの理論ですが、最も重要なことはみなさんがこの記事を読んで練習を継続していくことだと思っています。最終的にご自分の英語に磨きをかけるのは、理論ではなくて練習なのです。継続は力なり。たゆまぬ練習を続けていれば常にこうした理論など考えなくても必ず磨き上がった英語を話すことができます。