こうなったのには、国情院の責任が大きい。違法盗聴や政治介入が染み付いた国情院の過去が、こうした陰謀論の源だといえる。国情院長は、内部調査が終わる前に取りあえず情報公開から約束した。国情院全職員の名義で19日に声明書を出したのもまた、他国の情報機関では見られない行動だ。12年の韓国大統領選挙の終盤で浮上したネット書き込み疑惑、スパイでっち上げ問題などに巻き込まれ、積み重なった国情院の危機意識が、こうした集団行動につながった。とはいえ、果たして国情院はこの国の最高情報機関らしく行動しているのか、と尋ねずにはいられない。
最大野党、新政治民主連合の文在寅(ムン・ジェイン)代表は20日「韓国国民全てがこの事件の被害者」として、検察による捜査を要求した。民間調査を既成事実化する発言だ。一部の野党議員も、きちんと確認されてもいない内容を連日暴露して疑惑を大きくしている。与党セヌリ党もまた、自殺した国情院職員の娘が通っている学校を公開するなど、右往左往している。米国のオバマ政権は、違法行為の疑いがある国家安全保障局(NSA)の情報収集活動を元中央情報局(CIA)職員のエドワード・スノーデン氏が暴露しても、まず国家安全保障と国益を優先した。違法な盗聴をはじめとする私生活の侵害問題は時間をおいて解決していきつつ、米国の情報機関の弱点が露わになったり、活動が制約されたりすることのないようにした。国家安全保障システムが崩壊したら、後々もっと大きな危機が訪れるだろうという判断からだった。何かにつけてオバマ政権と衝突してきた野党側も、大枠で協力した。
しかし、世界最高レベルのハッキング部隊を抱える北朝鮮の脅威と向き合っているこの国では、今や自害行為に近いことまで行われている。政界が、国情院ハッキング疑惑を究明しつつも国家安全保障を害することはない方法を模索しなければ、韓国最高の情報機関は丸裸にされ、もっと大きな危機につながりかねないのだ。