東芝の会計問題を調べていた第三者委員会(委員長=上田広一・元東京高検検事長)が7月21日、調査報告書を公開した。歴代の経営トップを含む組織的な不正を認定。田中久雄・前社長や佐々木則夫・前副会長など、複数の取締役が辞任する事態となった。
だが、企業のコンプライアンス(法令順守)に詳しい郷原信郎弁護士は、報告書には大きな問題があると指摘する。
(聞き手は小笠原 啓)
東芝の第三者委員会が調査報告書を公表しました。一読した印象は。
郷原:今回の東芝問題の本質は、会計処理が適正だったかどうかです。会計監査人、つまり新日本有限責任監査法人がどんなチェック機能を果たし、東芝の経営陣がどう対応したのかが最大の焦点であるべきです。ところが報告書では、一番大事なところを「スルー」しています。
東芝については、経営トップの確執や社内風土など、ガバナンス(企業統治)の問題が騒がれています。しかし、焦点はそこではありません。経営トップが過大な利益目標を「必達」だと押しつけて、現場が何かをしたとしても、最終的に監査法人がきちんとチェックできていれば、会計問題は起きないはずです。
この点をしっかり詰められなかったことが、報告書の最大の問題です。監査法人との関係性が明確にならない限り、東芝経営陣に「不正の意図」があったかどうかが認定できないからです。
「だます」か「見逃してもらう」か
なぜ、不正の意図が認定できないのでしょうか。
郷原:東芝の経営陣が決算で不正を働く方法は、二つしかありません。意図を持って監査法人を「だます」か、監査法人に「見逃してもらう」かのいずれかです。
ところが、この点が報告書では触れられていないのです。すると、東芝の経営陣にとって「監査法人が違法性を指摘しなかったので、問題ないという認識でした」という逃げ道ができるようになります。
田中久雄・前社長は7月21日の辞任会見で「不正を直接指示したとの認識はない」と述べました。
郷原:第三者委員会が、東芝と監査法人との関係をきちんと詰めていないから、こういう言い逃れができるのです。
本来であれば、第三者委員会が東芝経営陣に「踏み絵」を踏ませるべきでした。「あなたは監査法人を『だました』のですか、それとも『見逃してくれる』と思っていたのですか」、と。このプロセスが無いと、経営陣が取った行為が故意なのかどうか、不正の認識を持っていたかどうかが分かりません。現時点では「未必の故意」ぐらいしか認定できないでしょう。