

◆アーミッシュの学校
私がアーミッシュのコミュニティに滞在していたのは、20日間くらいだった。
その間、色んな種類のアーミッシュに会い、
(アーミッシュにも種類がある!)
アーミッシュの実生活を観察した。
アーミッシュの実生活は、写真でよく見る牧歌的でスローなイメージとは、かけ離れていると思う。
彼らの生き様は、実に頑なであり、潔ぎよく、そして迷いがない。
テキパキと働く姿を見ていると、アグレッシブさをむしろ感じる。
そんな姿に始終圧倒されっぱなしではあったけど、
アーミッシュの学校で子供とドッジボールをしたとき、
私の淡いアーミッシュへの好意はくだけちった。
「殺される!」と、大げさだけど恐怖した。
学校には6歳から8年間通う。
小さくてコロコロした小動物のようにかわいい子から、
もうしっかり声変わりして、背丈も立派な男の子まで。
なので、休み時間に遊ぶときは、上級学年と下級学年の2つのグループに自然と分かれた。
下級学年の子達は外で鬼ごっこのような遊び。
上級学年は半地下のホールで室内ドッジボール。
(ルールはアメリカ版のドッジボール。日本と若干違う。)
誘われるがままドッジボールに参加してみたが、
男の子が投げる球の速さに完全に余裕を無くした。
なぜか男チームと女チームという、明らかにアンバランスなチーム編成のせいで、
私はアーミッシュからたくさん球をぶつけられた。
ぶつけ返そううと思っても鼻歌歌いながらキャッチしやがる。
くそー大学生なめんなよ!
とムキになったけど、ふと、自分がアーミッシュに大して固定概念を持っていたことを感じた。
彼らは間違いなく凶暴性を内に秘めた人類の一人だ。
アーミッシュのお人形を買って「かわいい~」とはしゃいでた自分を恥じた。
あまりの恐怖に、日本人らしい苦笑いを振りまいてその場から逃れた。
私の身体能力と見合うのは下級学年の鬼ごっこの方ではないかしら、とニラんだのだ。
子供と仲良くなるのは特異技。
親戚の家に行っても、海外旅行に行っても、大体子供をつかまえてかまってもらってる私。
なので鬼ごっこにもすぐいれてもらえた。
しかし、雨上がりのせいで地面がぬかるんでる。
走りにくいはずなのに、アーミッシュの子達はすばしっこい身のこなしで逃げていく。
東京のアスファルトにハイヒールLOVEな私は、またもや遊びの劣等性だった。
ただのお遊びだったはずが、アーミッシュっ子の溢れる体力と私の衰えを目の当たりにしてしまった……
喘息みたいに「ひーひー」って喉を鳴らして走りながら、
どうにか鬼の呪いを小さい小さいアーミッシュになすりつけた。
どうだ!ざまみろだい!と大人気なくふんぞりかえる。
そしていつしか、自家製の小さい鐘が鳴り響き、
瞬く間に生徒は教室に吸い込まれていった。
サザエさんのエンディングテーマの、あのピンクの家みたいに。
私はというと、ヨロヨロしながら教室に戻り、
授業参観の父母の様に後ろの椅子に腰掛けた。
もう授業が始まっている。
私だけがまだ「ひーひー」と喉を鳴らしている。
静かな教室に響きわたるのが恥ずかしくて、思わず口を手で覆った。
真冬の教室はストーブで暖められていて、少し暑いくらいだった。

凶暴性を秘めた人類の仲間、アーミッシュ