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チリの奇妙な国土の形にイノベーションの秘密を見た
論説委員 太田泰彦

(2/2ページ)
2014/11/30 7:00
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■複雑な地形ゆえの「農家の創意工夫」

 なぜチリがブドウ栽培に適していたのか。それはチリの国土が細長く、狭く、山ばかりだからこそ、ともいえる。北に「死の道」と呼ばれる灼熱(しゃくねつ)のアタカマ砂漠。南にはパタゴニアの氷河の氷点下の世界。東はアンデス山脈。そして西に太平洋……。四方から閉ざされた空間であるため、害虫の侵入路が絶たれていたのである。

チリはブドウ栽培に適した環境だという(チリの首都サンティアゴ)
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チリはブドウ栽培に適した環境だという(チリの首都サンティアゴ)

 そして山脈から吹き下ろす微風や、収穫期に雨がほとんど降らないという独特の気候、20度以上にも変化する昼夜の寒暖差などが、ブドウの成熟とワインの醸成に大きな役割を果たした。均一で広大な平野などはなく、複雑な地形であるため、わずかでも離れていれば、全く異なる栽培条件の農園となる。農家の創意工夫を鍛え、ワインの個性を磨く土壌が、不利な条件の中で育まれていった。

 チリでは「テロワール」と呼ばれる概念を突きつめて、ワイン産業の振興を図っている。同じ品種でも、栽培方法や局所的な土地の環境、気候の微妙な差などを逆手にとって利用し、個性が先鋭的な製品づくりを目指す考え方だ。大陸欧州の「オールドワールド」を出発点に世界中に標準的な品種、栽培法、製法が広がった結果、ワインの均質化が指摘されて久しい。場合によっては、本当の味の勝負ではなく、知名度や既存のブランド力に頼って高価格で利益を追求する戦略に陥るワイン業者も見受けられる。

■日本農業再興のヒント

 格安の看板を下げて20世紀末にグローバル市場に参入したチリのワイン産業は、いま新たな付加価値の生み出し方を模索し、旧来のワインの世界とは別の道を歩もうとしているようにみえる。紀元前に地中海世界で生まれたワインは、17~18世紀に欧州で育った。今はここ21世紀のチリで、新たなワインのイノベーションが起きているのだ。

 1850年前後に、欧州から遠く離れた南米のチリにブドウ栽培とワイン生産の技術を伝えたのは、フランスから渡ってきた技術者たちだった。特に実業家のフランシスコ・デ・オチャガビーアが雇ったジョセフ・ベルトランという名の醸造技師の功績が大きいという記録が残っている。欧州を襲ったフィロキセラ禍でワイン産業が壊滅して職を失った人々が、新天地を求めてやって来たのだろう。人が動き、技術が伝わる。

 そして地理的な不利や困難を乗り越える葛藤の中で、イノベーションと新たな産業が生まれる。番組で紹介する漁業や鉱業の分野でも、日本から、世界から新天地を求めて人材が乗り込み、ゼロからスタートしたワイン農業と同じように、たくましい挑戦と冒険が繰り広げられている。

 チリは、貿易や投資の自由化で、南米諸国の先頭に立っている。国土が狭く、山が多く、農業に適さない。世界と戦っても負けるに決まっている。だから保護するのが国益である――。わたしたちの国、日本は、そんな理屈で農業保護主義を続けている。国土の形が似ているからといって、チリにほのかな親近感を抱いている場合ではない。イノベーションの力を、チリから学ぶべきではないだろうか。

 「私が見た『未来世紀ジパング』」はテレビ東京系列で毎週月曜夜10時から放送する「日経スペシャル 未来世紀ジパング~沸騰現場の経済学~」(http://www.tv-tokyo.co.jp/zipangu/)と連動し、日本のこれからを左右する世界の動きを番組コメンテーターの目で伝えます。随時掲載します。筆者が登場する「あの食材から資源まで 世界争奪戦の舞台“南米チリ”が沸騰!」は12月1日放送の予定です。


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