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チリの奇妙な国土の形にイノベーションの秘密を見た
論説委員 太田泰彦

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2014/11/30 7:00
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 南米の地図を眺めるたびに思う。チリという国はなんと奇妙な形をしていることか。南米大陸の西海岸に張り付いたように細長く伸び、全長は4600キロメートルだというから、北海道の宗谷岬から沖縄の南端までの距離より、もっと長い。おまけに地勢図を見れば、国土のほとんどが焦げ茶色に塗られている。つまりこの国は山だらけである。標高5千メートル級のアンデス山脈が海岸ギリギリまで迫り、人々は残された土地で窮屈に暮らしているのではないか。狭くて平地が少なく、農業に適さない不利な国……。日本列島との共通点を地図から読み取り、なんとなく親近感を覚える方も多いのではないか。

■ワインの「新王者」

イギリスのチャールズ皇太子もワイナリーを訪れるほどチリのワインは注目を集めている
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イギリスのチャールズ皇太子もワイナリーを訪れるほどチリのワインは注目を集めている

 事実はその逆である。世界中を探しても、チリほどの豊かな農業に適した土地を持つ国はない。高い付加価値で稼ぐ農産品の代表格ワインの産地である。ワイン生産で、今やチリは世界の新王者の地位を確立しつつある。栽培面積は20万ヘクタールまで広がり、生産量は世界の3%近くに達した。輸出額は年間6億ドル超で、輸出相手国は世界約100カ国に及んでいる。イタリア、フランス、スペインの伝統的な3大生産国の量には遠く届かないが、カリフォルニア産ワインの名声を築いた米国を、生産面でも輸出面でも、激しく追い上げる勢いだ。

 1990年代後半までは、安いチリ産ワインを店頭で見かけても「へえ、チリでもワインを作るの?」と、品質に半信半疑の声が多かったのではないだろうか。ワインの世界で「ニューワールド」と呼ばれるオーストラリア、ニュージーランド、南アフリカなどの産地が世界の市場で頭角を現したのは、ここ20年ほどの現象だ。その中でもチリワインは、手ごろな価格と高い品質で圧倒的な存在感と人気を誇っている。その秘密の一端は、地図が示すような一見“不利”な国土にある。

■絶滅したはずの「幻の品種」が再発見

 「カルメネール」。幻の品種と呼ばれるボルドー由来の赤ワインのブドウである。フランスをはじめ本場の欧州の産地では、19世紀に欧州全域で繁殖したフィロキセラという恐ろしい害虫により全滅した。名前の語源は「カルミネ(深紅色)」である。濃く美しいワインの色だけでなく、ブドウの葉も成熟するにつれ赤く色づくことで知られていた。自然な甘みがあり、深みがあるが渋みは少ない。害虫フィロキセラはアブラムシの一種で、ブドウの樹を根こそぎ台無しにする。19世紀のフィロキセラ襲来の被害は、甚大だった。カルメネールの絶滅はその悲劇の一例にすぎない。欧州のワイン農業は壊滅的な打撃を受け、欧州のワイン生産はほぼ崩壊した。害虫との戦いの中でワイン農業がなんとか立ち直ったのは、もともとの欧州の品種に米国産の品種を接ぎ木して、ブドウの体質を強化したからだとされる。

 そのボルドーの絶滅種カルメネールがチリで再発見されたのが、20年前の1994年である。ワイン通の間では、ちょっとした事件だった。欧州では絶滅し、あるいは人工的に改良されて別物のブドウとなって生き延びたが、もともとのボルドー由来の品種は、チリで細々と子孫を残していた。今ではチリは世界で唯一といえるカルメネール・ワインの生産地となり、マウレ・ヴァレー、ラペル・ヴァレーなどの農園がブランドとして知られるようになっている。

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