
一昨日から、マンマイの調子がよろしくない。
なにかの拍子に「ひゃん!」と悲鳴をあげるのだ。
どうも首を痛めたらしい。
痛み止めを飲ませて様子をみているが、元気がないし、寝てばかりいる。
ドッグランへ行っても、他のワンコと遊ぶと痛みがぶり返すのか、座っているか伏せていることが多い。
他にも膀胱関係とか、いろいろ心配なことがあるのだよなあ。

と、マンマイのことを心配しながら眠ったら、夢を見た。
神々しいほど碧い湖の上で、ワルテルとソーラが追いかけっこをしている。いつものように、ソーラがにっかにかな顔で逃げ回って、ワルテルが超真剣な顔で追いかけている。
そんな二頭をマージが仏様のような笑顔で見守っている。
父ちゃんはそれを空の上から眺めている。
突然、父ちゃんは湖の底に沈む。そして、湖面を走りまわるワルテルとソーラを見上げるのだ。
「マンマイのことはソーラが見守ってるから心配しなくていいよ」
ソーラを追いかけながらワルテルが言った。
「そうは言っても、心配しちゃうのはしょうがないだろう」
と父ちゃんは答えた。
「心配するのはさ、母ちゃんの仕事じゃん」
うまいこと言うなあ。確かに、母ちゃんは「超」の字がつく心配性だ。
「でも、母ちゃん、いっつも仕事しすぎるからなあ」
とワルテルは続けた。そう。母ちゃんはなんでもかんでも心配しすぎるのだ。
「あんまり仕事しすぎるなって、母ちゃんに伝えてよ」
ワルテルはそう言うと、また真剣な顔に戻ってソーラを追いかけた。
それにしても、よく沈まないで水の上を走れるなあ──父ちゃんがそう思うと、またワルテルの声が聞こえた。
「凄いでしょ。ぼくたちどこにだって行けるんだよ。どこでだって遊べるんだよ」
そうなのか。だから時々こうして父ちゃんに会いに来てくれるのか……
そのうち、二頭を見守っていたマージがむっくりと起き上がった。楽しそうに駆け回る二頭をみているだけじゃ我慢できなくなったらしい。マージはワルテルとソーラに向かって走りはじめた。
マージに気づいたソーラがくるりと反転してワルテルと入れ替わった。そして、マージと一緒にワルテルを追いかけはじめた。
「なんだよ、マージ。いきなり追いかけてくるなんてずるいよ!」
ワルテルは必死で逃げる。でも、とても楽しそうだ。
この世での死別なんてたいしたことじゃない──三頭にそう言われているような気がした。
「そうそう、父ちゃん、ぼくたち、こんなこともできるんだよ」
そう言って、ワルテルが空に向かって駆けていった。文字通り、なにもない空間を空に向かって駆けていく。
マージとソーラもそれを追って、どんどんどんどん高みに駆け上がっていく。
そりゃそうだよな。沈まずに水面を走り回れるんだ。空を翔ることができても不思議じゃない。
三頭の姿はじょじょに小さくなり、やがて星のように輝いて消えた。
「またね、父さん」
消える直前、マージの声が聞こえた。
「またねなの、父さん」
ソーラの声も聞こえた。
父ちゃんの心はとても満たされていた。
- 2015/07/23(木)
08:52:51|
- Dog
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