2007年01月21日

「仲間外し」

 「仲間外し」って言葉を聞いたことがありますか?私は1月20日の朝日新聞朝刊で初めて見ました。昨今、話題の「いじめ問題」の記事の中にあった言葉です。今は「仲間外れ」と言わず、「仲間外し」と言うんですね。それとも朝日新聞だけのフライングでしょうか?

 言葉を言い換えた理由は容易に想像がつきます。「仲間外れ」では動作主がはっきりしないため、いじめた側の顔が見えない。そこで責任の所在がどこにあるかをはっきりさせるために「仲間外し」という言葉を作り出したのでしょう。

 文法的に解釈すると、「外れ」は「外れる」という自動詞の名詞形です。「部品が外れた」といった時には、原因ははっきり分からないが部品が自然に取れたという意味になりますよね。一方、「外す」という他動詞を使って、「部品を外した」というと動作主がいて意図的に部品を取ったという意味になります。

 「仲間外し」もいじめられた子は原因のはっきりしない中で自然と友達の輪の中に入れなくなったのではなく、いじめっ子という動作主がいて意図的にグループから締め出された、つまり責任はいじめっ子にあることをより明確にした言葉なわけです。おそらく識者の1人が、「仲間外れ」ではいじめられた子に責任があるようではないかと主張したのを、言葉の背負った歴史や性質をろくに検証もせず、揚げ足を取られる可能性の低いほうの言葉を選んだのでしょう(朝日新聞を批判してるわけじゃないですよ。いじめに正面から取り組んでるような教師が国歌斉唱の際に起立しないからといって解雇されてる現状を支持するようなS新聞よりずっと好ましいです)。左派知識人の最後の砦(?)、朝日新聞らしい言葉遣いですね。
 
 本来、動作主のはっきりする他動詞を使うべきなのに、責任逃れのために自動詞が使われてることって多いですよね。例えば朝のラッシュ時、車掌さんはホームに降りてこんなアナウンスをします。「ドアが閉まっております。駆け込み乗車はご遠慮くださいませ。」そう言って、自分でドアを閉めるボタンを押してるんです。「ドアが閉まってるんじゃなくて、お前が閉めてるんだろ!」と突っ込みたくなりますが、会社に遅刻してまで車掌さんとゆっくり話し合う余裕はないのでいつも我慢しています。これも「ドアに挟まれてケガしたって僕の責任じゃないよ。何しろドアが閉まってるんだから」という鉄道会社の責任逃れの心理を反映した物言いと言えます(もちろん駆け込み乗車をしてドアに挟まれたからって、鉄道会社に責任はないと思いますが、そこは“自己責任”という言葉の意味をすり替えるような政治家が治めてるお国柄ですから)。

 同じ状況を説明するにも、自動詞と他動詞では読む側の受ける印象がだいぶ変わってきます。もちろん字幕を作る際にも登場人物の心情を表現したり、状況を的確に説明するのに便利な手段です。具体的な話はまた次回にします。

wise_mo at 15:51│Comments(1)TrackBack(0)

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この記事へのコメント

1. Posted by m   2007年02月08日 11:21
ブログとは関係ない書き込み失礼致します。

もしかして、中学校の同級生ではないかと思いまして…人違いでしたら、すみません(___)

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