環太平洋経済連携協定(TPP)は、参加12カ国による大詰めの交渉が近く米国で始まる。前半は各国の首席交渉官が、後半は担当大臣が一堂に会し、今月末までの日程で積み残した課題について話し合う。

 経済規模が飛び抜けて大きい米国と日本の責任は重い。米国側の自動車部品、日本側の農畜産物などの二国間の市場開放交渉も並行して行われるが、早期に合意し、TPP全体のとりまとめに力を注いでほしい。

 モノの関税の引き下げ・撤廃だけでなく、さまざまな分野での新たなルール作りがTPPの特徴だ。ただ、暗礁に乗り上げた世界貿易機関(WTO)での自由化交渉と同様に、ここでも先進国対新興国という利害対立の構図が影を落とす。

 世界第3位の経済大国である日本は、先進国としての恩恵を期待できる分野が多い。しかし、交渉にはベトナムやマレーシア、ブルネイなど、経済の発展段階も政治・社会体制もさまざまなアジアの国が加わっている。日本は自由化へ強硬姿勢をとりがちな米国に同調するばかりではなく、アジアの代表として橋渡し役を務めるべきだ。

 試金石は、知的財産権分野、とりわけ新薬開発に伴う権利保護のあり方を巡る対立にどう向き合うかである。

 世界的な巨大製薬会社がそろう米国は、権利の保護期間の延長を強く主張する。しかし、保護を強めれば、同じ成分で安く作れる後発薬の生産が抑えられて薬代が高くなりかねない。

 TPPの交渉参加国では、以前から保護強化に反対している新興国に加え、財政負担の増加を懸念する豪州なども反対を強めているという。

 日本には米国勢に次ぐ大手製薬会社があり、これまでは基本的に米国と歩調を合わせてきたようだ。が、ここは米国を説得し、保護強化に反対する国々との間をとりもつ役回りを果たすべきではないか。

 貿易・投資の幅広い自由化を掲げるTPPの目的は、各国の消費者の利益を全体として高めることにある。特定の大企業の懐だけを潤すようなルールを導入すれば、TPPへの不信を高めることにもなりかねない。

 一部の国で大きな比重を占める国有企業の扱いなど、自由化の急先鋒(きゅうせんぽう)である米国と他国が対立する難題は少なくない。

 高い水準の自由化を目指すTPPの理念は保つべきだが、交渉をまとめるには各国の事情への配慮が欠かせない。日本が担うべき役割と責任を自覚し、政府は交渉に臨んでほしい。