社説:東芝不正会計 経営暴走させた3社長
毎日新聞 2015年07月22日 02時40分(最終更新 07月22日 07時47分)
歴代3社長の圧力が「経営判断」として総額1500億円の利益をかさ上げする不正な会計処理に導いた。グループ売上高6兆5000億円超、従業員約20万人の日本を代表する大企業が、経営陣主導で虚偽体質に染まっていたことが明らかになった。管理体制や内部統制以前の「経営の暴走」と言わざるを得ない。
5月から不正を調査してきた第三者委員会の報告書を受けて田中久雄社長が記者会見した。経営陣を指弾する報告内容を公表し、自らと前社長の佐々木則夫副会長、前々社長の西田厚聡相談役の辞任を明らかにしたのは当然の判断と言える。
今後、証券取引等監視委員会と金融庁が行政処分を検討する。また、すでに米国で株主代表訴訟の動きもあり、経営陣が巨額賠償を求められるかもしれない。東芝の新経営陣は深刻さを認識し、利益至上主義と不正を許してきた企業風土を一掃しなくてはならない。
決算の数字は、企業の実像を知る最大の手がかりである。投資家は事実であることを前提に株を売買し、社債を購入する。虚偽は許されない。東芝の場合、不正が限られた部門ではなく、「多くの部門で同時並行的かつ組織的に実行された」(報告書)という点で根が深い。
当初、指摘されたインフラ事業だけでなく、半導体やパソコン、テレビなど主な部門すべてで利益がかさ上げされていた。「チャレンジ」と呼ぶ高い収益目標を掲げさせ、経営陣がメールや電話などで「工夫をしろ」などと強い圧力をかけ、利益のかさ上げを迫ったのだ。上意下達で不正に走ったのである。投資家にウソをつく違法行為が6年間もただされなかった物を言えぬ体質も問題である。
2011年のオリンパスの粉飾決算事件で問題となったチェック体制、監査機能も改めて問われる。
東芝には、経営の暴走を監視するはずの仕組みが備わっていた。4人の社外取締役に加え社内に監査委員会も設けて、経営全般に目を光らせる体制だった。形の上では他企業のモデルになるようなものだ。
しかし、機能しなかった。外部の監査法人も不正を見抜けなかった。オリンパス事件でもこの監査法人の対応が問題視され、金融庁の業務改善命令を受けている。
東京証券取引所などは6月、上場企業を対象に企業統治原則「コーポレートガバナンス・コード」を徹底することを始めた。経営の透明化に向け、社外取締役2人以上の選任などを求めている。だが、東芝の例でも明らかなように、いれば大丈夫という問題ではない。魂を入れる経営陣の姿勢こそが問われる。