内海智裕
2015年7月22日12時58分
企業の採用活動もピークをむかえつつあるようです。早くも内定や内々定をもらっている就活生もいます。そもそも「内定」って何でしょう。「内々定」との違いは? 法的な位置づけについて労働問題に詳しい新村響子弁護士(35)に聞きました。
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――就職活動で会社から通知される「内定」とは、どのような法的位置づけになりますか。言葉からすると、まだ採用の決定には至っていないというイメージがありそうです。
「個々のケースで判断されますが、一般的には内定通知によって労働契約が成立しているとされています。『始期付解約権留保付労働契約(しきつき・かいやくけんりゅうほつき・ろうどうけいやく)』などと言われています。『始期付き』とは、新卒ならば就労時期が4月1日から予定されていること。『解約権留保付き』とは、就業までにやむを得ない事情があれば解約できる、という労働契約です。法律の条文ではなく、過去の裁判の判例で確立されています」
――会社が学生の内定を取り消すのは、どんなケースで可能ですか。
「内定の取り消しは、事実上の『解雇』にあたります。『社会通念上相当であると是認できる』場合に限られ、これまでの判例で制限されています。会社の経営が悪化したからという理由で、内定取り消しは認められないことが多いでしょう。一方、仕事ができないほどに健康が悪化したケースや、単位が取れず卒業できなかった場合は取り消される可能性があります。経歴でウソをついた、犯罪を犯したといった場合も、内定取り消しが成立するでしょう」
――テレビ局のアナウンサーの内定取り消しを巡って裁判になりました。学生時代のアルバイトについて全部申告しないと内定の取り消しもあるのでしょうか。
「アルバイトの内容まで伝える必要はありません。バイト歴を記載する欄があったとしても、全て記入しなくても問題はありません。記入しなかったことが『虚偽』にあたることはありません」
「卒業していないのに学校を卒業したと申告したり、取っていない資格を伝えたりしていた場合が、経歴のウソにあたります。アナウンサーは特殊な職種ですが、今回は裁判が続いても内定取り消しは成立しなかったでしょう」
――内定は口頭でも成立するのでしょうか。
「口頭でも成立します。ただ、言った言わないでトラブルになるケースがあるので、紙やメールなど記録として残るもので通知を受けた方がよいでしょう」
――「内々定」と「内定」は何が違うのでしょうか。
「これも個別のケースによりますが、一般的に内々定は労働契約の成立と認められていません。過去の判例では、書面で内々定通知が出されたものの、経営悪化を理由に内々定を取り消された就活生がいました。裁判では労働契約の成立は認めませんでした。しかし、『期待権の侵害』として、企業側に損害賠償の支払いを命じました」
――内定後にフェイスブックやツイッターなどネットへの書き込みが原因で内定取り消しになるケースは考えられますか。
「内容が犯罪に関わるケースは別ですが、解雇できる理由と同等の理由でないと、取り消されることはないと考えて良いでしょう」
――「内定承諾書」を提出すれば内定を出すという企業もあります。就活生を囲い込むため、他企業への就活を続けさせないための圧力と指摘する声もあります。内定承諾書で学生はどの程度拘束されるのでしょうか。
「内定承諾書に法的な拘束力はありません。出したあと、ほかの企業への就職活動を続けても、内定取り消しの根拠にはならないものです」
――一方、内定を辞退するなら損害賠償請求すると言われた学生もいるようです。
「就活生への賠償請求も、企業には勝ち目はありません。憲法に保障されている職業選択の自由で、会社を自由に辞める権利と同様です。いずれも心配であれば、大学や行政、法律事務所などに相談することをすすめます」
――活動を続ける就活生にアドバイスをお願いします。
「法律は働く人を守ってくれます。法律を全部知るのは難しいですが、相談窓口を知っておくだけで、役に立ちます。就職活動で困ったら、一人で抱え込まずに相談してみてください」(内海智裕)
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