株式や投資信託を購入している人はもちろん、年金制度などを通じて国民の多くが広く企業に投資し、活動を支えている。

 その判断材料となる企業決算が正確なものであって初めて、安心しておカネを回すことができる。今の経済のシステムは、適時、正確な会計処理と情報開示なしには成り立たない。

 名門企業の東芝で起きた不正会計は、投資家と経済システムへの背信行為であり、社外取締役を増やすなど企業統治の形を整えただけでは不正は防げないという教訓を改めて示した。

 法曹関係者らの第三者委員会は、大半の事業部門に広がっていた不正について「経営判断として行われた」とし、一部は経営トップが積極的に関与していたと認めた。過去7年間で利益の水増しは1500億円を超えている。

 利益目標の達成を現場に強く迫る経営幹部と、上司にさからえない企業風土。東芝は経営陣を刷新するが、会社全体の文化や風土を作り直すことが急務である。

 東芝は、いち早く委員会設置会社に移行し、企業統治のお手本の一つとされてきた。委員会設置会社は、経営の根幹と言える事項に社外取締役が関与する仕組みで、①監査②指名(取締役の候補者を選ぶ)③報酬(経営陣の報酬を決める)の三つの委員会を取締役会に設ける。

 不祥事を受けて、東芝は委員会設置会社の仕組みをさらに強化する考えだ。今は全体の4分の1、4人の社外取締役を過半数に増やす方向だ。

 しかし、第三者委員会は監査委員会の社外取締役について「財務に十分な知見を有する者がいなかった」と指摘している。数だけ増やしても投資家や消費者の不信はぬぐえない。

 安倍政権は、複数の社外取締役をすえるよう上場企業に求める指針を導入するなど、企業統治の強化に熱心だ。その狙いとして「企業の稼ぐ力の強化」を掲げるが、まずは不正の防止を徹底するべきではないか。

 東芝の不正会計の表面化は、社内から外部への通報がきっかけだったようだ。今後、証券取引等監視委員会や金融庁が調査を本格化させるが、東芝株が上場されている東証を運営する日本取引所グループや、監査法人を束ねる日本公認会計士協会なども、それぞれの視点から必要な対策を検討してほしい。

 企業の取締役会のあり方にとどまらず、不祥事の通報制度から行政・刑事両面での処分まで、企業統治にかかわる制度全体の点検を急ぎたい。