台湾に海兵隊を投入する意味

 在沖海兵隊は、台湾有事が生起した場合に、素早く台湾に投入することで、中国による攻撃の結果、アメリカ兵が死傷することがあれば、アメリカ政府として見過ごすことはできないという、アメリカの覚悟を見せるための部隊です。

 そうした”政治的”役割だけでなく、もちろん軍事的にも意味はあります。現代で言えばパラシュートによって敵の前線部隊の後方に降下する空挺部隊、戦国時代で言えば、出城の守備兵のようなものです。

 戦国時代、侵攻軍が出城を落とそうとすれば、落とすことは可能ですが、それなりに時間がかかるため、出城を攻めていれば、主目標である城は防備を固めてしまいます。それに、他国から援軍がくるかもしれません。第2次上田合戦において、真田昌幸・信繁(幸村)親子が、徳川秀忠を足止めし、結果的に関ヶ原の戦いに遅参させたのは、同じような用兵の例です。

 空挺部隊も同じように使われることがあります。囲碁で言うところの放り込みと同じで、敵の勢力圏に石を放り込むことで、放り込んだ石の処理をするか、前線強化を優先して放り込んだ石の生きを許してしまうかの二択を強要します。放り込みの石と同じですから、最初から捨て石となる可能性があります。

 海兵隊では、そうした精神的な事も考慮しているためか、在沖海兵隊は、ほとんどがローテーション配備です。これは、新撰組における死番制度と同じです。人間、常に死ぬことを要求される事には耐えられませんが、たまたま運が悪く死ぬ番にあたるなら、士気の維持ができるからです。ローテーション配備を、単なる国外勤務の負担軽減と見るのは、間違っています。

軍事的には沖縄以外も可能

 本来なら、こうした役割を負うためには、出城の守備兵と同じで、台湾に常駐させることが望ましいと言えます。しかし、中国が2次大戦における連合国であることなどもあり、アメリカは台湾に直接戦力を置けません。アメリカは、これを補うため、1979年に事実上の米台軍事同盟である台湾関係法を制定し、台湾に対するコミットメントを示していますが、法律ではなく、実際の戦力の「プレゼンス」として存在しているのが在沖海兵隊です。

 台湾に置けないため、最も近い沖縄に配備しているものの、日米同盟による在日米軍に対して、在日米軍人質論が存在するのと同じように、在沖海兵隊は、台湾にとっての人質という訳です。

 軍事的には、台湾に迅速に投入できれば、どこであっても構いません。ヘリがオスプレイに変わったことで、沖縄ではなく、奄美や佐世保近辺であっても迅速な投入は可能となりました。そのため、海兵隊の所在地は、軍事的には奄美や佐世保であっても、この役割を遂行させることは可能です。ただし、沖縄本島からであれば、オスプレイは無給油で往復が可能なため、軍事的にもベストであることは変わりません。

 ですが、在沖海兵隊は、アメリカの台湾に対する、「我々はあなたを見捨てない」というメッセージ(プレゼンス)ですから、「政治的」に近い方が好ましいのです。

 地理的には、フィリピンのルソン島でも構いませんが、フィリピンは沖縄以上に反米感情が強く、それが故に1991年にスービック海軍基地を閉鎖し、アメリカが撤退した経緯がありますので、再度フィリピンに駐留させることは、南沙問題があるにせよ、普天間を辺野古に移転させる以上に困難です。

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