安倍内閣の支持率が急落している。安全保障法制関連法案の衆院通過を強行させたことに対する、国民の危機感の表れだ。政権は謙虚に受け止め、法案の撤回や廃案を今こそ、決断すべきだ。
「憲法違反」と指摘される安保法案の成立を強行しようとする態度が、政権運営や政策実現の基盤となる国民の支持を確実に蝕(むしば)んでいることは否定できない。
共同通信社が十七、十八両日に実施した全国緊急電話世論調査によると、内閣支持率は37・7%で前回六月の47・4%から9・7ポイント急落、二〇一二年十二月の第二次安倍内閣発足後、最低となった。不支持率も51・6%(前回43・0%)と半数を超え、支持と不支持が初めて逆転した。
支持率急落の原因が安保法案にあることは間違いないだろう。
不支持理由で最も多かったのが「安倍晋三首相が信頼できない」(27・9%)で、安保法案の衆院採決強行を「よくなかった」と答えた人は73・3%に上る。安保法案が「違憲」との答えは56・6%、法案「反対」は61・5%、今国会成立「反対」は68・2%だ。
報道各社の調査でも、政権へのスタンスに関係なく同様の結果が出ており、安保法案に対する国民の視線は厳しさを増している。
首相は「支持率だけを大切にするなら、こういう法案を通そうとは思わない。支持率だけで政治をやっていない」と述べた。
本当に必要な政策なら、支持率の動向に関係なく、国民を説き伏せてでも実現すべきであることは理解する。
しかし、国民の反対を押し切ってまで、なぜ今、安保法案を成立させる必要があるのか、国民を納得させる明確な説明はない。
憲法解釈を変え、海外での武力の行使に道を開く安保法案の成立を、安倍内閣が強行しようとすることは、憲法が権力を律する立憲主義を揺るがす問題でもある。
本紙のアンケートでは、回答した憲法学者二百四人のうち、約九割に当たる百八十四人が法案を違憲と断じた。
ノーベル物理学賞受賞者の益川敏英・京大名誉教授ら「安全保障関連法案に反対する学者の会」の約百五十人も二十日に記者会見して廃案を訴えた。賛同する学者、研究者は一万一千人を超えるという。
安保法案をめぐる支持率急落や学究の徒の指摘は政権への警鐘でもある。政権がこれを無視し、参院での法案審議や採決を強引に進めることがあってはならない。
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