国民の納得がえられないままで、安全保障関連法案の採決を強行する切迫性があったのか。きのう閣議報告された15年版の防衛白書を読むと、改めてそんな疑問を禁じえない。

 防衛白書は、日本の防衛政策の方向性を内外に示す役割がある。多くのページを割いたのはやはり中国との関係だ。

 尖閣諸島周辺の中国公船の活動について、白書は「ルーチン(日常業務)化の傾向が見られる。運用要領などの基準が定まった可能性も考えられる」「公船は大型化が図られている」と分析した。

 防衛省によると、中国公船が日本領海に侵入する回数は毎月3回で、上旬、中旬、下旬に1回ずつ。2、3隻が午前中に入って約2時間で出ていくパターンになっているという。

 だとすれば、中国当局の一定のコントロール下にあるとの見方もできる。

 中国公船への対応は海上保安庁が担っている。公船の大型化に対しても、海上保安庁への予算の重点配分など軍事だけでない議論が必要だ。

 海保と自衛隊との役割分担を明確にする点では、野党提出の領域警備法案の議論も大事だが、なお生煮えのままだ。

 最も重要なのは、偶発的な軍事衝突を回避する危機管理策であり、「日中海空連絡メカニズム」の運用開始に向けて協議が進んでいることは評価できる。さらに首脳同士が率直に語り合える環境をつくることこそ、地域の平和と安定につながる。

 中国の軍事力の拡大や強引な海洋進出は見過ごせないが、脅威をあおるだけで解決はできない。緊張を下げる外交努力を急がねばならない。

 もうひとつ、安全保障上の大きな課題は、過激派組織「イスラム国」(IS)をはじめとする国際テロへの対応だ。白書では「わが国も無縁とは決して言えない状況が起きている」と警戒感を示した。

 ただ、非国家の国際テロに対しては軍事力の限界を指摘する声が一般的である。軍事に偏った安保法案は「周回遅れ」の印象がぬぐえない。

 貧困対策や感染症対策、教育支援などテロの根を断つ非軍事の貢献こそ日本にふさわしい。戦後70年かけて培ってきた「平和国家日本」のブランドをどう生かしていくか、現実的な議論をもっと深める必要がある。

 防衛白書は中国をはじめ近隣諸国も注目している。白書の記述を通じて、各国と信頼醸成をはかる。そんな建設的な発信ができないものか。