今日本の文学の常識を覆す男がいる。
ある新人小説家のデビュー作発売記念イベント。
集まったマスコミは20社を超えた。
本のタイトルは「火花」。
小説における売り上げランキングでは著名な作家を抑え1位を獲得。
5万部売れればベストセラーといわれる中発売2か月で累計発行部数は異例の35万部を記録。
出版記念のサイン会には多くの若者が詰めかけた。
その男の名は…又吉直樹34歳。
(又吉)あ…あ…あ…。
泣いてるんだったな。
そうだ。
次会う時までお守りとしてこれは坊主が持ってなさい。
あ僕金属アレルギーだから。
あそうか要らないか。
お笑いコンビピースとしてテレビや舞台で活躍。
更に又吉はファッション誌にも度々取り上げられる。
自分らしさを追求するそのスタイルが若者から絶大な支持を得ている。
なぜ今日本でこの男が注目されているのか。
対談を通じて又吉直樹の人生観に迫る。
今回又吉直樹が対談の場所に選んだのは下北沢。
若者が集まるサブカルチャーの街であり又吉の想像力を大いに刺激するという。
又吉に迫るのは…日本文学をさまざまな視点から研究。
日本の粋を知り尽くす。
下北沢って若者がすごくいろんな人が結構入り乱れてるっていうか活発な街ですけど又吉さんはどういうところが好きなんですか?小劇場がたくさんあって大きい劇場もあってで本屋もたくさんあって喫茶店もたくさんあって洋服屋もたくさんあるんですよ。
僕が好きなものがいっぱいそろっててそういうものが好きやった若者たちが集まってきて年取ってきてそこにまたお店を出してそれがずっと伝統として面白いもの好きの人たちによって継承されてきてる街なんですよね。
何か新しいものに触れたいと思ってる人のエネルギーに触発されてよし頑張ろうって思えたりとか。
何かねこう毛穴がどんどん…僕の毛穴を開いてくれるようなそういう街なんですよね。
ここもめちゃくちゃ感じのいい場所。
対談するのにあたって選んで下さったんですよね。
そうですね。
ここ来る時まあそれこそ僕が好きな本…近代文学の太宰であったりだとかそういうもの持ってきて読んで…。
重めの近代クラシックス。
はい。
…時もありますし一人で何か書く時にちょっとしたもの書く時に来る事もありますしすごく来やすいですね。
そうか。
又吉が初めて書いた小説「火花」。
主人公は売れない芸人の徳永と先輩の神谷。
2人は笑いについて真摯に考え議論の火花を散らす事を楽しんでいた。
しかし世間に認められない日々の中で社会における勝者そして敗者とは何か人それぞれの人生の価値観の違いを考え始める。
開いては消える花火のように浮き沈みの激しい芸能界で生き方を探る芸人の姿を描いた。
又吉もまたお笑いの世界で10年もの間下積み生活を続けた苦労人。
「火花」は彼のこれまでの人生観から生まれた一冊だ。
あの〜「火花」最初のデビュー小説…本当にみんな注目していてもう街歩くと…結構僕電車に乗って結構人が若い人がそれを読んでる姿何度も見ているし。
本当ですか。
反応を予期してたんですか?いや僕全然こんなに反響があるとは思ってなくてすごく僕もびっくりしてて。
なぜ今小説フィクションを書かなければならないかというこの衝動が今のあなたの人生の中で今起きたかっていう事を教えて下さい。
いろんな活動をライブでコントをやったり漫才をやったり一人で何か芸をやったりだとか長いお芝居の脚本を書いたりとかいろいろやってきたんですよ。
エッセーも書いてコラムも書いて書評も書かせてもらう事もあって。
…っていう中でやっぱり小説って僕がお笑いと同じぐらい近い距離で接してきた大好きなものやったんでどっかでいつか書いてみたいなという気持ちはあったんですけど。
一応徳永は僕と年齢とか芸歴の設定は同じにしててそれは全体のこの…芸の流れ時代の流れみたいなものを組みやすいんでそうして徳永と僕の声が全く一緒にならんように距離は取ったんですけど。
漫才師じゃないほかの事世の中の事をもうちょっと大きく俯瞰的に見てるのかなって僕が読んでて思いましたね。
今回気を付けたのは本当のお笑い論になるんじゃなくてこれがほかのテーマとかほかの職業の人たちに置き換えれる事が可能かとかそれは割と考えたんですね。
僕は大阪から上京して10年以上もう本当にお笑いでごはんが食べれずに日々本を読んで本で空腹をしのいでるような時期があった時に俺らの存在っていうのは社会的に見たら本当に無駄なのかっていう事をずっとそんな事ばっかり考えてたんですよね。
いわゆるすごく東京で大成功を収めるスターの人たちがいてそれがエンターテインメントの世界ってみんな思ってるんですけど実は売れた人間だけが目指して正解であと売れなかった人は全員目指した事が間違いやったかっていうと間違いっていうふうに錯覚しがちなんですけどその人たちがいなければその成功者が登る山も随分低いものになってて。
負けとされてる人たちの存在がむちゃくちゃその勝ち方であったりとか勝った人の作る作品に影響を及ぼしてるっていうのがあってその人たち実はそっちが主役なんじゃないかというのは…。
今回のテーマでそれを別に書こうと思った訳じゃないんですけど関係性を書いていく中でそれが多分出たんでしょうねそういうのが。
僕あの〜どんな事でも何かについて真剣にそれを観察していくとその周辺を書いていったらそれが今の世の中全体の事とかにつながっていくとは思ってて。
又吉が「火花」で描いたのは自分自身が抱えていた将来への不安であった。
しかしその不安は又吉に限らず現代の若者たちの多くが抱えるものでもあった。
又吉は本の中でこう語っている。
主人公が漫才のコンビを解散し普通のサラリーマンになろうと決意する場面で…。
又吉さんの世代ってそれこそちょっと上の世代の人たちに比べてそういうすごく世の中が変わる…何かこう海の風がガラッと変わるっていうところに一番多感な時代を過ごしてるからすごく敏感な気がするんですね。
いろんな事に気付くっていうのかな。
やっぱり僕と同じような感覚を感じてる人は多いんじゃないですかね。
例えば僕たちが子どもの頃にバブルがありましたよね。
すごくみんなもうかってて割と若い人たちが大きな家に住んで車に乗っててっていう暮らしをドラマで見ててこれが普通なんや。
これができたら結婚で大人なんだっていう認識で自分が成長して大人になった時に世の中変わってますよね。
そうですよね。
一番変わってる時期に思春期にこうガタガタっと変わってる訳ですね。
なりましたよね。
だから子どもの頃に見てた大人に自分がなろうと思ったらだいぶ頑張らないといけなくて昔25歳ぐらいの人たちが実現してた事が僕ら35になっても実現できない。
だから僕らの世代とかってみんな「俺らいつになったら大人になれんねやろ。
あの子どもの頃に思い描いてた大人の姿っていうのはいつ実現できんねやろ」ってみんなが思ってて何か物足りなさと不安との中にいるんで…。
「火花」に出てくる2人というのはそれの最たるもんというか。
「俺らこんなはずじゃなかったのに」みたいな事なんで多分みんなその辺は自分と似たような状況に考え方はそれぞれでしょうけど冷静に時代が変わってるからこんなもんやって割り切ってる人もいるでしょうし。
でも同じ時代を生きてるんである程度思い当たるものがあるのかなとは思いますね。
忙しい日々を送る又吉だがどの仕事も一切手を抜かない。
この日は書店の挨拶回りで都内を巡り夜は2本のお笑いライブを控えていた。
100冊近い本にサインを書き終えたらすぐに次の書店へ。
そんな中携帯電話を取り出しメールを打ってるのかと思えば…始めたのは執筆。
実はこの日依頼されていたエッセーの締め切りが迫っていた。
又吉は文筆家として書評やエッセー俳句など多数の連載を持つ。
自分の考えや感性をさまざまな表現で発信する事に又吉はとことん貪欲だ。
そんな又吉の創作の原点は幼い頃に遡る。
1980年大阪府で生まれた又吉直樹。
小さい頃から想像力豊かで常に頭の中で空想を膨らませていた。
小学校の学芸会では劇の脚本を担当するなど書く事が大好きな少年だった。
子どもの頃から割と例えば無表情ですごく楽しんでても表情が豊かではないから何かこうみんなからそんなに感情がないと思われてバカにされたりする時あったんですけど僕自身は感情が表に出にくいだけで頭ですごくいろんな事を考えてますし感情もあるんでこいつは人に対してこういうふうにするんやとかこいつはそういう人に対しても優しくするんやとか見えるじゃないですか。
そういう時に人の事ってすっごい見えるんですよね。
表情は見せないけど頭の中ではものすごいこう…。
考えてるんですよ。
やっぱりよく変わってるとは言われましたね。
僕が覚えてるのは保育所に行ってた時に先生と親で連絡帳っていってこんな事がありましたっていうやり取りの…。
その内容を母親に読んでもらうと先生は僕が保育所内で言ういろんな発言がうそが多いと。
その…虚言癖が。
で何て言うんですかね?僕からしたら今とやってる事全く一緒なんですよね。
その…途中までは現実でそれを母親に話す時に例えば保育所であった事を例えば消防署に社会科見学に行った時にはしご車に先生が乗って昇っていく出来事が子どもからしたらすごい面白くて自分も乗りたいと思うんですけどそれを母親にしゃべる時に途中までは正直にしゃべるんですけどだんだん「思ってたよりもはしごが延びていって怖くて先生が泣いた」とか言っちゃうんですよ。
それはうそつこうと思ってるんじゃなくて楽しまそうと思ってるんですよ。
やっぱりもともと人が笑うのがすごい好きなんですよ。
自分も笑う事…。
笑う時は楽しい?僕もすごい好きなんですよ。
すごく何でも笑うんですよ実は。
まあ安心感で笑う時もあるんですけどやっぱり裏切られて思ってもいなかった事が起こって笑うっていう事が大きいですかね。
小学校の時に友達に「お前が変な事言うと周りが怖がるから俺の前以外で変な事言うな」とか言ってくれる親友がいて「ありがとう。
そうするわ」って言って気を付けたら無口になったんですよね。
中学校なんて行ったらもう誰ともしゃべれなくなって。
そういう変な…変な自分にだんだん気付いていって…で何かこれ変なのかなと。
これは変な事なんだと思ってて教科書に載ってる芥川龍之介の「トロッコ」を読んだ時にその主人公の少年がいろんな事を考えて世界からしたらどうでもいいような事なんですけど不安を感じたり焦燥を感じたり大人にこう見られたいって事を感じたり仲間になめられたくないとかいろんな事を考えるんですよね。
それを見た時に「おるやん!」と思ったんですよ。
「一緒やん俺と」っていう。
いないと思った?そんなやつ自分しかおらんと思ってたんです。
それまで暗いとか考え方が変やっていうのを持て余してたんです。
どう扱えばいいか分からなかったのが読んでて客観的にその登場人物を見るとここが変やなとかここが卑屈やなとか見えるから自分に対しての突っ込み目線が生まれるんですよね。
笑いというか芸人の魅力存在としての魅力ってあると思うんだけどどこにあると思いますか?大人やのに何でこんなアホな事やってんのやろとかそれはすごいおかしくて大阪に吉本新喜劇っていうのがあってそこではお芝居なんですけどみんなふざけ倒すんですよね。
急にお店の人と…お店の従業員と借金取りが「金返せ」「いやそんなん借りた覚えない」の言い合いしてた2人が急にサルとネコになって戦いだすとか…。
これ何なんやろと思って子どもの頃見ててすごい面白かったんですよ。
…で「この人たちって大人やのにな」っていうふうに。
大人って真面目なもんやと思ってたんで芸人ってその大人っていうのをフリにしてめっちゃアホな事するっていう。
…でそれがやりたいっていうのは何か思っていったんですけどね。
又吉がお笑いコンビピースを結成したのは2003年。
23歳の時。
現在年間350本以上のテレビ番組に出演する人気芸人になった。
この日は又吉主宰のライブ。
タイトルは…このライブは台本もなく人を笑わせるコントを即興で作り上げていく。
じゃお前ら銀行強盗2人。
はい。
…でお前が受付。
はい。
「俺はな」で見て「君だよ」と…。
はい。
これに合わせてストーリーを展開していく。
はい。
新しい笑いを表現しようと3年前から月に1度このライブを行っている。
この日は平日にもかかわらず大勢の客が詰めかけた。
(拍手)ライブのタイトルどおり又吉は実験的な笑いを追究している。
「もう早く帰れ。
お前忙しいんだから」って言いだして。
「ああ〜!」。
「イエ〜イ!」。
(拍手と笑い)「お前たちの気持ちは分かった」。
「そんな事より…」。
(拍手と笑い)「いつ無くなっ…えっ?」。
「いつですか!?大丈夫ですか?」。
「監督大丈夫ですか?」。
「後で捜しましょうよ。
もう…」。
(拍手)お疲れさまでした。
又吉はなぜこのライブを続けているのだろうか。
僕もの作る時に気を付けてんのが…。
例えば今僕が完全にプロットを立ててコントとか小説を考えちゃうと僕が持ってる知識の範ちゅうに収まってしまうと思うんですよ。
それは見える。
それってきっと僕が作れるような事でしかないんですよね。
いかに自分の才能を超えるかっていう。
じゃそれどうすればいいのかっていったら何かに対する反応やと思うんです。
自分で書いた言葉に自分で驚きながら次書いていけば外に出れるはずなんですよね。
そう思っていつもやってるんですよね。
テレビがあってインターネットがあって繰り返し見られて昔は一回見られても何回か消費がゆっくりな分飽きにくいっていうのがあるじゃないですか。
そういう錯覚がある世界で僕たちは生きていかなあかんっていうのもあるんでだから次のネタ次のネタでもう一回やったらできないですよ本当は今だと。
もうネットで見れちゃうんで。
…て考えるとめちゃめちゃ大変ですよね。
たくさんのそういう引き出しを持たないとできないというのは今の日本の笑いの一番みんなをくぎづけにさせてる人たちと共通してるところかな。
そうですね…。
発想もやっぱり…。
僕友達と話してたり友達に相談されたり後輩に相談された時にしゃべってる時に気が付いたら自分でもびっくりするようないい事言ってる時があるんですよ。
今までそんな事思った事なかったのに「いやこうでこうでこうじゃないかな」っていう。
それって「何で俺こんな事言えたんやろう?」と思ったら一人じゃ絶対言えないんですよね。
自分の意識とか自分の能力の外に出してくれるものとのぶつかり合いを常に…。
それって意識的にやっぱりいろんな人…いろんな経験をしてる人たちと渡り合おうと考えてるんですか?もういろんな職業の人といろんな世代の人としゃべりたいっていうのはありますね。
「何かやりたい事ありますか?」って言われたら「何かのスペシャリストとか何か窮めた人とお話する仕事がしたいです」って僕いっつも言うんですよね。
何かそうしたら何か新しいものが得られる事が自分の気付いてへん何かに発見できる事が多いんで。
それはもう積極的にやっていかなあかんなと思ってるんですけどね。
又吉さん自分をどういう人だと思いますか?そうですね何て言うんですかね…バラバラなんですけど。
みんな「分からん」って言うんですよね。
女性にフラれる時も「何考えてるか分からん」って言われてフラれる事が多いんですけど。
でも僕自身はやっぱり人間大好きな男やと思うんですけどね。
人に対する興味っていうのがすごく強いっていう…はい。
又吉直樹に自分自身を表現する漢字一文字を書いてもらった。
又吉が選んだ字は「歩く」。
この漢字を選んだ理由とは…。
まあ散歩がすごい好きなんですよ。
でなぜ散歩が好きなのかって考えた時に仕事してる時も「今日終わってから散歩しよう」って事考えたら頑張れるみたいなとこがあるんですけど。
多分僕がずっとお話ししてる事とつながってて散歩したら景色変わるじゃないですか。
毎秒自分の範ちゅうの外のものが情報で入ってくるからず〜っと何か会話できるというか物を作る上でのヒントにもなって参考にもなって。
やっぱり音も聞こえますし。
もしかしたら全然知らない人に急に殴られるかもしれないっていうそういう危険性もあるじゃないですか歩く事には。
で歩くと何かと出会えるというのがあるんで。
僕にとってはこの歩くというのは…自転車でもいいんですけど。
結構大きな事やなっていうはい。
次は何を書くか…もう既に言われてる…ファンに多分言われてると思うんだけど。
自分の外側に出たいって僕ずっと思ってるんで次とかその次って多分僕の周辺の事になると思うんですよ。
例えば恋愛であったりだとか例えば子どもの頃の事であったりだとか友達であったりだとか親であったりだとか。
その辺多分4つぐらい書いたら書き終わると思うんですよ。
5個目の何もなくなった時が一番面白そうですよね。
2015/07/20(月) 14:30〜14:58
NHK総合1・神戸
Face To Face 又吉直樹〜人間観察が生む創造力〜[二][字]
芥川賞を受賞した“ピース”の又吉直樹。小説「火花」を執筆するにいたった思いや人生観に迫る対談番組。国際放送番組「Face To Face」を日本語版にして放送。
詳細情報
番組内容
又吉が執筆した小説「火花」は、売れない芸人と先輩が、悩みながら生き方を模索する姿を描いている。又吉もまた、お笑いの世界で10年もの間下積み生活を送った苦労人。小さい頃は妄想を楽しむ無口な少年だったという。そんな又吉がお笑い芸人を目指し、小説を執筆したのはなぜなのか。また、小説が若者に支持される理由とは? 知られざる又吉の素顔と彼の人気の向こうに見える若者の今に迫る。MCは、ロバート・キャンベル。
出演者
【ゲスト】お笑い芸人・作家…又吉直樹,【司会】ロバート・キャンベル
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又吉直樹
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ドキュメンタリー/教養 – インタビュー・討論
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