(テーマ音楽)
(出囃子)
(拍手)
(拍手)
(桂ざこば)ありがとうございます。
すぐ脱ぐんならなにも着てこんでもよかったんですけど。
(笑い)一応まぁあるというところを見といてもらお思て。
師匠米朝が亡くなりましてまぁ落ち着いたと言うのかいやまだ居てはるのか居てはれへんのかまぁ居てはれへん訳ですが。
まだ元気な頃…元気というても入院してはりまして病院へまぁ見舞いに行く訳ですがね師匠の好きな鰻やとか桃なんかこう持っていく訳ですけどまぁまぁ品物よりもどっちかいうたら面白い話を持っていくほうが師匠も喜んでくれはって笑うてくれはると結構うれしいもんでね。
師匠が入院しはってまだ元気な頃家の子供が幼稚園で「何のこっちゃ?」っちゅうのを覚えてきよってねええ「何のこっちゃ?」。
腹立ちまんな。
こんなチビに「何のこっちゃ?」言われたらむかつきまっせ。
どんな時に使いよるかいうといくとって言うんですけど「いくといくと。
御飯食べんのはええ御飯食べんのはええ。
けど残したらあかん。
いや御飯残したら罰当たるぞ」。
「何のこっちゃ?」。
でこういう時使いよる。
(笑い)うん。
私も腹立つんで言い返したるん。
「『何のこっちゃ?』?お前ら5つやないかい阿呆。
じいじはな67やど」。
「何のこっちゃ?」とこう言いよる。
(笑い)こういうのを師匠の前で…。
「師匠。
どうですか?」。
「うんボチボチやな〜」。
「あっそうでっか。
ちょっと聞いてもらえまっか?孫の話」。
「うん。
何やねん?」。
「いえいえ幼稚園でね『何のこっちゃ?』っちゅうのを覚えてきよってねどんな時に使いよるかいうと『いくと。
御飯食べんのはええ御飯食べても残したらあかん。
残したら罰当たるで』言うたら『何のこっちゃ?』とこんなん言いまんねや。
まぁ腹立つさかいね『お前ら5つやないかい。
じいじは67やど阿呆。
何を言うとるねん』言うたら『何のこっちゃ?』とこう言いまんねんエヘッ。
師匠。
これどない思いま?」言うたら米朝が「何のこっちゃ?」いうて言うてましたけどね。
(笑い)確かに何のこっちゃやろと思いますけどね。
まぁ師匠にはいろいろお世話になってええ言葉残しはりましたな〜「米朝語録」と言いますか。
料理屋でお弟子さんをぎょうさん連れて師匠がバッと座って若い衆がウロチョロウロチョロしてるとね「もう早う座れお前らもう座ったらええねん」言うたら一番若いのが「いえ下座探してるんです」。
「どこでもええ座れ。
お前の座った所が下座や」いうてこの。
(笑い)こらぁええ言葉や思いますね。
ええ。
まぁありがたいです。
「え〜師匠」。
「何や?」。
「いや友達が亡くなってね香典を包みたいんやけどどのくらい包んだらよろしやろ?」。
「どういうつきあいやい?」。
「まぁこういうつきあいで」。
「あ〜そうか。
香典てなもんそない包むもんやないで。
まぁ三千円ぐらいでええんと違うか」。
「あ〜左様か。
いや私ちょっと少ないように思うん五千円ぐらい包みたいんですけど」。
「それやったら相談に来な」いうてもう一言ですわ。
(笑い)仰るとおりですね。
うん。
また私も訳の分からん事を聞きます。
「師匠」。
「何やねんな?」。
「あの〜『地獄極楽』ってな事言いますけどそういうもんはあるんですかね〜?」。
「人間知らいでええ事がある」。
いうてもう一言です。
「あ〜ええ言葉やな」思いますな。
これから弟子に何か聞かれたら「人間知らいでええ事がある」いうてそれで済ましたろ思うんですけどね。
よういろいろ注意もしてくれはりました。
私結構師匠の前へ出る時がよくあってこうバ〜ッとひき下がると師匠がこう上がってきはるんですけどそのすれ違いざまに落語を聞いててちょっと注意してくれはるん。
「ざこば。
今舞台で手こうしてたな?手のひら見したらあかんでお客さんに汚いこれ見したら。
手の甲を見せなさい。
こうしたほうがきれい見えるから」いうて一言言うてシュ〜ッと師匠は入ってきはる。
私も「ヘヘ〜ッ」いうて「なるほどな」ってなもんですね。
またある日パ〜ッとすれ違いざまに「今日はよう噛んでたなよう噛んでた。
お前ねた食ってないん違うか?もっと食らわなあかん。
あない噛んだらあかんで」。
私は自分で噛むのはこれは味やと思とるんですが…。
(笑い)米朝はそこまで気付いてなかったんでしょうね。
(笑い)まぁ噛みもせんと手のひらもまぁうまいこといったりしてお客さんもそこそこ喜んで頂いてで師匠とこう入れ違う時もう言う事がないんでしょうねそれでも何か探して言いはるん。
例えばどんなもん言うかいうと高座の座布団ねこれ結構個人で持ってくる時があるんです。
「ざこば今日の高座の座布団あれどこのんや?」。
「ええあれ家のんです」。
「お前とこのんかい。
いっぺん日に当てて乾かしとけ」いうて訳分かれへん。
(笑い)うん何か言いはるんですな。
まぁありがたいです。
内弟子の時分弟子入りして…。
「将棋指せるか?」。
「ええ。
将棋できまっせ。
十…ちっちゃい時分からやってましたからねそこそこ強いですよ」。
「あ〜そう。
私もそこそこ指すんやで。
やってみよか〜」いうて師匠とこう将棋指すんです。
さすが強いですやっぱり。
でポッと負けるとこの将棋でも最後何か言いはるん。
「お前俺こう『飛車くれ』言うた時お前飛車逃げたやろ?あれ逃げたらあかんがな。
あらぁもうほっといてな私の頭の上へ銀を打ったらええねん。
ほんなら私お前『あっ』とこうちょっと困るんや。
あらぁ飛車はほうってもええんやで」とか何でも終わったら解説してくれはるん。
ありがたいです。
だいぶと師匠は将棋は腕が上でしたね。
枝雀兄ちゃんのお弟子さんで九雀という男がいてましてこれが高校の将棋部の副部長これは強いですね。
ええ。
副部長ですから将棋部の。
「九雀。
将棋打てるか?」。
「ええ。
私副部長でそこそこ打てるんです」。
「あ〜そう。
指してみよう」。
ピャ〜ッと指しはった。
けど将棋部の副部長には勝てませんわ。
パ〜ン。
最後王手。
もうどないも動けへん。
米朝は「イヤ〜ッ」。
横でどないなんのんかいな思てジ〜ッと見てたら…。
「寝る」いうてもう一言。
(笑い)上へ上がりはりましたけどね。
ええ。
やっぱり悔しいもんがあるんでしょうね。
(笑い)その話が枝雀兄さんの耳に入りまして「九雀。
お前そんな勝ったらあかんがな」っとこう「加減せな」。
けど師匠ぐらいになると「こいつ手抜いとんな」とか分かると思いますんでそらぁもう目いっぱいいったらいいと思います。
私今碁もやっとります。
私の友達で今関西棋院で九段の同級生がいてましてそれに15中学の時から碁を打ってましてねええそこそこ打てる。
南光さんが…。
「えっ?ざこば兄さん碁を打てるんですか?私も碁なんか打ってみたいですね」。
「ほな紹介するわ」いうて私の…今関西棋院の理事やってる方を紹介して今もう2年ぐらいやってるんですかね。
ええ。
で通いだして間なしに…。
「南光やんいっぺん碁を打とか?」いうたら「いやいや。
まだまだそんなとてもやないが」って。
で牛窪…牛窪って言うんですけど牛窪義高君に電話して…。
「南光やんと今打ったらどやろ?」。
「勝てる。
今打ったら勝てるで。
打ち打ち」。
向こうも負けるいうのを分かってるんでしょうね。
「いやいやいやいや」。
それから2年経ったん。
ほんなら牛窪君から電話があって…。
「もうぼちぼち打ったほうがええで」。
(笑い)「だいぶと強なっとるで」いうて言われましてねええぼちぼちせないかんな思うんですけど。
何とも言えませんなあの将棋でも碁でも盤の上へパッと手を置いて「負けました」ってこう一言言うのん辛いでしょうね。
辛いけど負けたんやからしゃあない。
何とも言えん。
「負けました」。
勝ったほうは「勝ちました」そんなん言えへんね。
(笑い)ってこう頭下げてええもんです。
これ人間対人間やから。
今ロボットコンピューターでやってるん。
今年3勝2敗ですわ将棋の部は。
ええ。
コンピューターはいけまへんわええ負けたって「負けました」言えへんもん。
(笑い)あれはいかんわ。
やっぱりロボットでもこんなアームみたいなやつでこうやってピャ〜ッて打ってきよんねんあんなあかん。
やっぱりコンピューターも負けだすと何か震えがきてね。
(笑い)ガリガリッガリガリッガリガリッいうてこの辺から煙がパ〜ッと出てきてね。
(笑い)ええ最後ドバ〜ンと倒れるとかなんとかならないかんのやないか思いますが。
いやいや勝っても負けても勝負事というのは面白いもんですけど。
「辰っつぁん。
えらい待たしてすまなんだな」。
「いえいえ。
そんなん構しまへん。
それよりも用事済ませたんでっか?」。
「ええっ?いやいや別に私が顔出さんでもええねや。
役所のほうから役人が来てな番頭が『旦那さん。
お役人が来てます。
ちょっと顔見せてやっておくんなはれ』てそんな私が行かんでも番頭やそこらで済むねんけどあんまりやいやい言うさかいちょっと言葉交わしてやって来た。
『もう辰っつぁんと碁を打つ時は誰も呼びなや』いうて言うてるのに。
あ〜始めよか?」。
「ええ。
ほなやりまひょうか?」。
「うん。
やろやろ。
ヨイショッと。
ほんなら黒やさかい私のほうからいくで。
あ〜辰っつぁん。
あの〜私らこれまぁあの〜どない言うの?し素人やな?せやさかいそない難しい考えんでもええんやけど何やこのごろ『待った』っちゅうのが多いように思へんか?何やあったら『待った』『あ〜それちょっと待って』いうてな『待った』が多い。
今日はひとつ『待ったなし』っちゅう事で打てへんか?」。
「よろしな〜。
いやいや私もね『待った』が多いように思てましたんや。
ええ。
何や囲碁打ってんねやら『待った』打ってんねやら何やよう分からなんだ。
ええ旦那さんがそない言いはるんやったら今日はひとつ『待ったなし』っちゅう事でいきまひょか」。
「よっしゃ。
ほんなら『待ったなし』やで。
さぁ力が入るな〜。
ほんならまず私はこの三三へいこか」。
「えらい堅うおまんな」。
「ああ。
『待ったなし』やさかい」。
「あ〜そう。
ほんなら私はこの星の所へポッと載せてもらいまっさ」。
「あ〜なるほどな。
ほんなら私はちょっと2間飛んでここへこういこか」。
「あ〜なるほど。
しかし考えたら旦那さんもけったいな人でんな」。
「ウ〜ン?ンフフ何がいな?」。
「いや〜これだけの大きな質屋でんがなね?誰なとあんた碁打つ相手いたはりまっしゃろ?いやそれをいつも私と打って」。
「いやいや私ゃなあんたと打ってんのが一番楽しい。
というのが腕がちょうど頃加減やろ?こんなもんあんまり差があるとな打ってても面白うない」。
「あ〜左様か。
そない言うて頂いたら私も楽しゅうございます」。
「あ〜そう。
ほんなら私これちょっと伸びようか」。
「あ〜伸びなはったか。
あ〜なるほ…。
あ〜そう。
ちょっとオホッ私大胆にこの中へ入りまっさ」。
(笑い)「アア〜ッあっなるほど。
ホオ〜ッ。
ええらい所へ打ち込んだな。
ええ?うん?」。
「パッス〜ッ。
いやウッそれではそこ目がでけへんがな」。
「パッス〜ッ。
その隅取られたらこれもう負けやで。
アハッ負けんのん承知で打っててもこれ面白うないがな。
あ〜そう?パッ。
ハア〜ッ。
ス〜ッ」。
(笑い)「パッス〜ッ。
ハア〜ッ。
えらい手見つけよったな〜。
これどないもならんなこらぁ」。
(笑い)「パッス〜ッ。
ええっ?こんなもん負けるのん分かっててアハハ打っててもしゃあないな。
パッス〜ッ」。
(笑い)「早いきなはれな」。
(笑い)「いやいや。
パッス〜ッ。
エヘン。
「な〜辰っつぁん」。
(笑い)「何だんねん?」。
「この一手な〜」。
「待ったはあきまへんで」。
「誰も待った言うてへんがな」。
(笑い)「この手な〜言うただけやろ?」。
(笑い)「この手な〜ええ手やなて言おう思たんや」。
(笑い)「パッス〜ッ。
ハア〜ッ。
こらぁ…。
面白うないわこれ」。
「な〜辰っつぁん」。
(笑い)「私ら別にこれで飯食うてる訳やないがな」。
(笑い)「遊びでやってんねん。
な?ちょっとこれ待ってえな」。
(笑い)「そらぁあかんあかん。
いやあんたのほうが『今日は待ったなし』って言うたんやからそらぁあきまへん」。
「いやいや確かに私のほうから言うた。
だけどこれ一手待ってくれたら私もお前一手待ってあげるがな」。
「いや私何も待った言えへん。
とにかくいきなはれ」。
「いきなはれてこんな負けんのん決まってて分かっててこらぁ面白うない。
ひとつ頼む。
これひとつ待ってえな」。
「いやそらぁあかんがな。
いやあんたのほうから言いだしたんやとりあえずこれ済ましてまた一からいきまひょ。
とりあえずこれ済ましまひょ」。
「済ましまひょて私楽しないがなこれ」。
(笑い)「どうしても待ってもらわれへんか?あ〜そう。
アハッ。
これ待ってくれへんとなるとな言いとうもない事の一つも言いとうなるな〜」。
(笑い)「またけったいな言いをするな〜。
『言いとうもない事の一つも言いとうなる』?何かあんねやったら言うてみなはれ」。
「ああ。
言わしてもらう。
今から5年前の話や」。
(笑い)「5…5年前?5年前何やっち言いなはんね?」。
「あんた私とこへしょうもない質ぐさ持ってきて『これで金貸して』いうてやって来たな〜」。
「ああ〜確かに。
けどあんたん所商売やそない質ぐさがどうか知らんけどそれで金貸すのん当たり前や商売や」。
「そうそう。
私質ぐさ以上の金貸したはずや」。
「いやそらぁ知らんがな」。
(笑い)「まぁ私も承知の上で貸したんや。
であれからちょうど三月経ったかな?私あんたに言うたがな『辰っつぁん。
たとえ一月でも利息入れてくれな質ぐさ流れてしまうで』ってこう言うたがな」。
「ええ。
確かに言いなはった」。
「あの時あんたどない言うた?『今持ち合わせがおまへんねん。
えらいすみまへんけど一月待っとおくんなはれ』言うたな?」。
(笑い)「ええ。
言いました」。
「あの時私一月待ったんや」。
(笑い)「これ今ちょっと待って言うてるねん」。
(笑い)「これちょっとが待てんか?」。
「私なその話聞く前やったらね待ってもええ思てました」。
(笑い)「けど5年前の話言われたら待ちとうてもこらぁ待てんわ。
もうやめようこんなん。
フ〜ン」。
(笑い)「何をすんねお前。
なにも潰さいでもええやろ」。
「潰しとうなるやろ。
このへぼ」。
(笑い)「へぼ?」。
「下手くそど下手」。
「ど下手?よう言うたな。
もうあんたとはね生涯碁は打たん」。
「ああ〜こっちも打つかい。
ええ?二度と敷居は跨がん」。
「ああ〜跨いでいらん。
ええ?とっとと帰っておくれ」。
「帰ったらぁほんまに。
な〜嬶こない言うてお前旦那さんと喧嘩して帰ってきたんや。
これどっちが悪いと思う?」。
(笑い)「もうどっちもどっちやないかいな。
ええ?あんたも一手くらい待ってあげたらええねや」。
「私も待ったろ思たわい。
けど5年前の話もち出すんやで待ちとうてもお前これ待てるか?」。
「そらぁいかんあの人いかん。
な〜。
そんなもん碁打ってんのに5年前の話もち出したらいかんわ。
あの人そういう子供みたいな嫌らしいとこあるあの人は」。
「おいっ。
お前あの旦那さんの悪口言うな」。
(笑い)「あんたが言うてんねやがな」。
「同じように言うな。
俺が言うのはええわお前が言うな。
あの旦那さんええ人やねんぞお前」。
(笑い)「ア〜アッほんまに」。
(膝を叩く音)「ウウ〜ンどうしたらええんやろ?」。
(笑い)「あんた。
えらい退屈してるようやな〜」。
「ああ。
退屈やわい」。
「あんたな今まで3日とあげずにズ〜ッと行てたんやもう10日行ってないんやで?ボチボチ旦那さん所へ『打ちに来ました』いうて行てきたら?」。
「阿呆言うな俺ぁ二度と敷居跨げへん言うてんねんそんなもん行けるかい阿呆。
ほんまにウ〜フフフ何で私も待てへんかったんかなあの時」。
(笑い)「また旦那さんも何で5年前の話言うてくんねん。
ほんまにアア〜ッ打ちたいな〜ほんまに。
私煙管と煙草入れ向こうへ忘れてるわ。
煙管と煙草入れ取りに行てくる」。
「取っといで早いとこ取っといで」。
「碁を打ちに行くねやないで。
お前何か碁を打つように思てるな」。
「何も思てへんがな。
煙管と煙草入れ早う取っといで」。
「取ってくる。
な〜?最前からえらい雨が降ってきたがな。
あっ濡れたらいかんこの傘持っていくで」。
「あかんあかん。
それ置いといて。
いいえぇな私これからお使いに行かんならんその傘要んねやさかい」。
「それでは私濡れるやないかい」。
「そこにそうあんたがだいぶと前に伊勢参りした時の道中笠があるやろ?」。
「あ〜この被り笠深江笠か。
ええ?これ傘代わりに?けったいな物被っていくんやなお前。
ええ?うん。
なるほどこれか。
手濡れるからこうして行こか。
ほなら行てくるわ」。
「行てきなはれ」。
「碁は打てんで」。
「何を言うてんねんな何も言うてへんがな」。
「ほんまにええ?旦那さんもな誰か呼びに来てくれたらええのにほんまに。
こんなもんお前伊勢参りしてる時やからこんな笠でええけど何もせんとこんなん被っとったら阿呆やがなほんまに」。
(笑い)「旦那さん。
お茶が入りました」。
「あ〜おおきにおおきに。
エエ〜ッ。
ゴックン。
ア〜ッ」。
「えらいご退屈なご様子でんな」。
「退屈です退屈してます」。
「あの〜辰っつぁん所へ丁稚呼びにやらしまひょか?」。
「そんな事せんでよろし。
『二度と敷居は跨いでくれるな』言うたんやから」。
「あ〜そうでっか。
ほんならどなたぞお友達碁の相手探してきまひょか?」。
「よろし探さんでよろし。
私の相手は辰っつぁんしか居らんねやさかい」。
(笑い)「あんなええ男は居らんねでや。
何であいつ一手ぐらい待ってくれなんだんやろ?私もつい5年前の話してしもた。
ほんまにええ?あいつもあいつやここに煙管と煙草入れ忘れとんねや。
これ『取りに来た』いうて入ってきたらええのにアア〜ッ。
そうや番頭お前な私と辰っつぁんと喧嘩する時お前傍にいてたな?」。
「はい。
傍にいてました」。
「私あの時なあんたが止めてくれると思てたんや」。
(笑い)「あんた止めんとニヤニヤニヤニヤ笑てたな。
あれであんたの暖簾分け3年延びました」。
(笑い)「そんな殺生な事言いなはんな」。
「そらぁそやないか…。
辰っつぁん来よった辰っつぁん来よった。
家ぃ碁を打ちに来よった。
見たりなやあんまり見たら向こう入りにくいさかいな。
知らん顔しといたれ。
ほ〜ら入ってきよるで〜入ってきよる。
ウ〜ッウ〜ッウ〜ッ。
ア〜アッ通り越しよった」。
(笑い)「ええ?何かどっか用事か?いや。
そんな事ないが塀の所へ立っとるがな。
私とこ入ってきよんねや。
え〜思案しとんねや。
あっこっち向いて入ってきよった。
番頭。
碁盤出せ碁盤出せ。
これ出してな一人で打ってたら入ってきよるわい。
このパチ〜ッパチッちゅう音聞いたらそらぁ居ても立ってもおられヘんであいつ。
お〜らっ今度入ってきよる入ってきよるで。
アハッまた通り越しよった」。
(笑い)「ポストの横で立っとるがな。
ほんまにけったいな物被ってお前」。
(笑い)「どっちがポストや分かれへんがな」。
(笑い)「ほんまに家ぃ来んねやろ。
これや辰っつぁ〜んこれ〜ちゃうか〜?辰っつぁ〜ん」。
「ああ〜い」。
(笑い)「それ〜それ〜それ〜私の〜」。
「分かった。
取りに来たんやろ?入っといで入っといで。
これ渡したる。
渡したるけどな一番打たなんだらこれ渡せへんで」。
(笑い)「一番?阿呆な事言いなはんな。
私三番打たなそれもらえまへんで」。
(笑い)「アハハそうか。
ああ三番でも何でもええよう来てくれた。
あ〜打とう打とう。
あっこ〜れ雨漏りか?何やね?ええ?えらいビチョビチョや。
あんたまだ笠被ったままやがな」。
(笑い)「あ〜これ笠脱ぐのを忘れておりました」。
「アハハえらいすまなんだな〜ええ?えらい5年前の話しょうもない事言うてからに」。
「いいえ。
そらぁ私があれ一つ待ったらよかったのにこっちこそえらい片意地に待たん言うてえらいすんまへんでした」。
「いやいや。
そらぁ構へん構へん。
私のほうが悪かった。
もう仲ようやろうな。
うん。
よっしゃほんならいつものように私のほうから打たしてもらうで。
エ〜エッ…。
今日は待ったありか?なしか?」。
(笑い)「ありありあり。
なんぼでも待ちまひょ」。
(笑い)「なんぼでも待ってくれるか?あっそうか。
ほんならちょっと待ったありならここへ打たしてもらう」。
「あ〜そこへいきなはったか。
これ待ちまひょか?」「いやいや…」。
(笑い)「今打ったとこやがな」。
ワ〜ワ〜言うております。
「碁敵は憎しも憎し懐かしし」。
お馴染みの「笠碁」という一席。
ありがとうございました。
(拍手)
(打ち出し太鼓)2015/07/20(月) 15:00〜15:30
NHKEテレ1大阪
日本の話芸 落語「笠碁」[解][字][再]
6月に開催した第353回NHK上方落語の会(6月4日(木)NHK大阪ホール)から桂ざこばさんの「笠碁」をお送りします。
詳細情報
番組内容
6月に開催した第353回NHK上方落語の会(6月4日(木)NHK大阪ホール)から桂ざこばさんの「笠碁」をお送りします。あらすじ:囲碁好きの二人、きょうも楽しく囲碁を打っているが、よくある話で「ちょっと待ってくれ」この一言から仲たがいが始まる。「二度とお前の顔なんかみたくない」「なにをこの頑固者」とけんか別れをしてしまう。しかし囲碁好きの二人は相手のことが気になり、碁を打ちたくなってたまらなくなり…
出演者
【出演】桂ざこば,浅野美希,豊田公美子,桂米輔,桂しん吉,桂二乗,増岡恵美
ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz
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