スター☆ウーマン〜輝くアメリカ女性の仕事物語〜「軍事企業トップ ほか」 2015.07.21


(佐久間)ここはマンハッタンにあるニューヨーク最大の駅グランド・セントラル・ターミナル。
老若男女多様な人種が一日75万人行き交います。
私はフリーライターとしてニューヨークを拠点に15年以上にわたりアメリカのさまざまな場所や人々を訪ねその文化や生活を取材し続けています。
その私が最近感じるのはこれまで以上に女性の活躍が増えているという事です。
アメリカの大統領選挙に立候補を表明した…初の女性大統領を目指しています。
彼女の他にもアメリカで活躍する女性リーダーは大勢います。
今日はアメリカ社会で活躍する星のような輝きを放つ女性たちの中から2人にお話を伺います。
まずは映画界から。
アメリカ映画界最高の栄誉とされるアカデミー賞。
その選考をする組織のトップ…もう一人は世界最大級の軍需企業…この2人のスターウーマンたちに仕事にどう取り組んできたのかまた家庭との両立をどうしてきたのかなどなかなか聞けない本音を伺います。
ハリウッドスターたちが一堂に集まるアカデミー賞授賞式。
この式典を運営するのは映画界から選抜されたおよそ7,000人の会員で構成される映画芸術科学アカデミーです。
その会長に2年前に就任した…大ヒット映画「未知との遭遇」「フォレスト・ガンプ」など多くのハリウッド映画の広告宣伝の仕事に携わってきました。
アメリカ西海岸ビバリーヒルズにある映画芸術科学アカデミーを訪ねました。
アイザックスさんはアフリカ系アメリカ人としては初めて女性では史上3人目の会長です。
実際に映画業界で仕事を始める前にさまざまな職業に就かれましたよね。
それはなぜだったのですか?自分が何をしたいのか分からなかったんです。
だから好きな旅行ができる航空会社に入って客室乗務員になりました。
その時はただ旅行がしたかったんです。
アイザックスさんは他に百貨店や非営利団体でも仕事をしていました。
どの仕事もキャリアとして続けていく気持ちにはなりませんでした。
楽しかったけれどいつまでもそうしてはいられないと自分の気持ちに真剣に向き合いました。
自分が心から好きな事は何なのか自分に問いかけました。
その時大好きな映画を思ったのです。
映画の仕事が自分の一生の仕事になるとすぐに感じたのですか?最初はとにかくうれしかった。
だって憧れのハリウッド映画のセットが立ち並ぶ場所に毎日通うようになったんですもの。
そしてこの業界で働き続けたいと心から願うようになったの。
その時は給料を聞く事さえしなかった。
そのくらい好きになったの。
大好きな映画の世界に入り夢中で仕事をしていたアイザックスさん。
その後広報やマーケティングの分野でキャリアを伸ばしたいという意欲が湧いてきました。
数年たって何回か広報担当者として表舞台に立ちメディアの質問に答えたりし始めた時広報のチームを自分で動かしてみたいと思ったの。
でも昇進はできなかった。
平静を装っていたけれど心の中は悔しい気持ちでいっぱいだったわ。
どうしても諦めきれなかったの。
そこで自分の目標を広報のトップに決めその可能性がある会社を探したんです。
つまり自分がなりたい地位を目標と決めて可能性がある別の会社に移ると?働く場所ではなく自分のやりたい事ができる役職が重要だったんです。
女性である事で感じた苦労はありますか?例えば以前無視された自分の発言と全く同じ事を男性が言うと…。
そしてその意見にみんなが「そりゃ斬新でいいアイデアだね」なんて反応すると腹が立つわ。
女性としての苦労だけじゃないわ。
ある映画製作に関わっていた時の事よ。
ある会議が開かれたの。
その時私以外は全員白人だったの。
すると彼らは何ていうかう〜ん…。
口調はすごく丁寧なのに内心では怒っている感じがしたの。
彼らは普通を装っていたけど私にとってはおなじみの事でした。
白人でない私にできるのかと疑っていたのよ。
だから自分の能力を知ってもらうために製作者たちとはうまくやりながらも自分がトップに立って全ての事を把握管理しているんだという事を示しました。
その結果彼らとその他に2本映画を作ったわ。
引いてしまってはダメなの。
自分がこれだと思った事を貫くのよ。
それでも感情を抑えられず「あ〜もう!」と思った事もあります。
猛烈に腹が立つとオフィスを飛び出してしまうの。
いつも運動靴を置いているからそれに履き替えて20分くらい近所を歩き回るのよ。
そうすると気分が落ち着くんです。
悔しい感情を抑えるのではなく悔しさをバネにするのよ。
これは映画界で実力を認められている俳優たちから聞いたんだけれど彼らも自分たちが感じた感情をしっかり覚えておいて後で演技に生かすそうよ。
映画業界は競争が激しいですが母親業をこなしながらどうやって仕事を続けたのですか?母親になるってすばらしい事よ。
子供がいくつになってもね。
たとえ息つく暇がないほど大変でも気にならないわ。
私はほんとに幸運でした。
私の夫は映画製作者で自宅で仕事ができたの。
だから私たちの息子は常に父親が近くにいました。
でも息子が物心付く4歳になった頃私は思ったんです。
子供と話をするためにそろそろ一緒に過ごす時間を増やす必要があるって。
そこで時間の自由が利くように自分で映画のコンサルティング会社をつくりました。
息子が学校から戻った時家にいて一緒に過ごすのを次の目標に定めたんです。
そんなに大変な思いをするのなら仕事をやめようとは思わなかったのですか?全く思いませんでした。
もちろん友達の中には子供が生まれたら仕事をやめる人はいます。
それはそれぞれの選択です。
でも私は仕事を休む事は全く考えませんでした。
もしそうしていたら映画製作に関われなくなってそのうち自分はこう…。
仕事でやりたい事がたくさんあってイライラしてきたでしょうね。
アイザックスさんにとって働く事の意味は何ですか?仕事は私を生き生きとさせる魔法の栄養剤ね。
とてもやめられないわ。
自分で情熱が感じられるからなんですね。
イエス。
自分の情熱をささげられるキャリアにまだ巡り合っていない人もいると思います。
アドバイスはありますか?自分が好きな事は誰でもいくつかはあると思います。
まだどれがいいのか気付いていないのならしばらくは一つに絞らなくてもいいと思うわ。
そのうちにどれか一つへの情熱が大きくなるからたとえお金にならなくてもしばらくは続けた方がいいわ。
だって何が起こるか分からないもの。
さまざまな職業を経験されました。
そこから得た事は何でしょう?どんな経験も無駄にはなりません。
どんな事も将来役に立ちます。
たとえそれが惨めな経験でも。
惨めな思いをしても何が自分を惨めにさせるのか知る事ができるわ。
自分の同僚や上司を見回すとどうしても好きになれない人もいるかもしれない。
不公平であなたの存在にも気付かないような。
そういう時はそれを反面教師にすればいいのよ。
私の母は子供たちが何か問題に直面した時はいつでも言いました。
「上手に乗り越えなさい」。
それが私のモットーになったの。
人生の壁にぶつかった時や何か邪魔なものが現れた時うまく避ける道を探します。
いつも壁をぶち壊す必要はないのよ。
映画界には女性の監督が少ないとよく耳にしますが…。
これから増えていくと思います。
業界でも話題に上がっていますし昔のように話題にも出せなかったという時代ではないわ。
才能あふれる人々…。
そこにはもちろん女性や少数派の人種なども含まれている事をみんなが十分理解する事が映画界を前に進めていくと考えています。
映画は物語を伝える事です。
それは人間愛あふれるさまざまな私たちの姿を分かち合ってこそ理解し合えるものだからです。
日本で大学を卒業後アメリカで仕事をしてきた佐久間さん。
日米で女性の働く環境の違いについてどう感じているのでしょう?アメリカは働くという選択が女性にとって一種当たり前の事として存在すると思うんですけれどもそれでもやっぱり現実社会になると子供を持つ事であったりとか子供のために休みを取る事であったりとかそういう現実的なハードルっていうのはまだまだ存在するんだなというふうに感じています。
景気が悪くなるとやっぱり働くお母さんが一番に切られてしまったりとか資本主義優先会社の利益優先になってしまうようなところがあってやっぱりそうすると女性がこう企業組織の中で働くよりも一人のフリーランスとしてという選択を迫られたりとか。
女性の社会進出はアメリカでも難しい状況があります。
女性がどんなに頑張っても社会の高い地位までは上がれない目に見えない限界は「ガラスの天井」と言われています。
イギリスの新聞が今年発表した…これは女性の管理職や役員の数給与の額などのデータを合わせて割り出したものです。
これによると男女の待遇が全く平等である事を100とした場合OECD経済協力開発機構の加盟国28か国の平均は60.3。
1位はフィンランドで80。
日本は最下位から2番目の27.6。
アメリカも平均を下回る58.2。
ガラスの天井を破るのはアメリカでも簡単な事ではありません。
アメリカの首都ワシントンに隣接するメリーランド州ベセスダ。
世界最大級の軍需企業ロッキード・マーチンの本拠地です。
世界最新鋭の戦闘機F−35の製造開発。
最先端デジタル技術を取り入れた航空宇宙産業。
アメリカの国防と密接に結び付いたロッキード・マーチンの売り上げはおよそ6兆円でこれまで社内は男性中心の雰囲気でした。
そんな会社のトップに2年前に就任したのが…技術者として32年前に入社しキャリアを積み上げてきたスターウーマンです。
CEOに任命された時のお気持ちは?仕事は知り尽くしていました。
入社以来20の異なる部署でリーダーを務め転勤も8回経験しました。
ですからCEOになる経験は十分積み準備は出来ていました。
誰にでも初仕事の日はあります。
でも高度な教育働く意欲そして柔軟な精神と積極的に新しい事を学ぼうという姿勢があれば可能性が広がるのです。
そうして経験が豊富であれば過去にできたのだからこれもできると躊躇せず引き受けられるようになるのです。
ですからCEOに任命された時CEOの経験はありませんでしたが自分にはできると思いました。
それまでの経験を生かして目の前のチャンスをつかんだのです。
私がリーダーシップを初めて学んだのは9歳の時でした。
父を亡くし5人の子供を抱えて苦労していた母がある日私に言いました。
「マリリン妹2人の面倒はこれからあなたが見てね」って。
両親がこう教えてくれたの。
「自分の価値を高めてそれに忠実に一生懸命働いていたら何でもこなせる」。
それを私は強く信じています。
常にその精神で物事に当たってきました。
昇進の道を阻むのは他人でも競争でもない自分自身です。
毎日その日の仕事に全力で取り組んでいるかどうか新しい任務や昇進などの機会が来た時のために十分な経験を積んで準備が出来ているかどうかという事です。
新しい経験をたくさんする事が自分を次のレベルに引き上げるのです。
自分の安全圏から出る事。
縮こまらず「できない」なんて考えず「やる」のよ。
だって「できる」んですもの。
女性である事で苦労をした事はありますか?私がキャリアをスタートした頃会議室で女性一人という事もよくありました。
女性のリーダーや管理者は当時はほとんどいませんでした。
私にも自信がなくなる時はありました。
そういう時頭の中でささやきが聞こえるの。
「男性と渡り合える?相手にされると思うの?」って。
そんなささやきが聞こえた時はどうやったら仕事が成功するのかという事だけを考えたのです。
成功は男性女性に関係なくチームのそれぞれが持つ能力を出し合って成し遂げられます。
それができた時「今日はいい一日だった」と達成感を感じます。
自分はチームの一員として仕事を成し遂げているんだと思う事でささやきを打ち消す事ができたんです。
他の人と「違う」という事は重要です。
なぜなら異なる才能が集まってチームで仕事をするから。
大事なのは一体となる事です。
全員で物事に当たる事なのです。
もちろん男性と女性は違うわ。
性別が違うし着るものも違う。
でも一旦男性と同じ部屋に入ったら肩を並べて仕事をこなさなくてはいけない。
でもできない理由は何もないわ。
だから頭の中でささやく「できない」という声のスイッチをオフにして!だってできるんですもの。
モットーはありますか?私のモットーは「きょうの仕事に全力を注ぐ」事です。
そして差し出されたチャンスは逃さない事。
なぜならそうする事で学ぶ事ができ自分の成長になるからです。
そうして経験を重ねる事が昇進につながるのです。
その日の仕事に全力を注ぐ事で昇進を続けてきたヒューソンさん。
一方でその成功の陰にはメンターの存在もありました。
私の可能性を早くから見いだしてくれた上司の存在があった事は幸運でした。
管理職向けの育成プログラムに入れてくれました。
そのプログラムに入れるのは2万1,000人の社員のうち4人だけだったんです。
でも彼は私を推薦してくれました。
その方があなたのメンターとなって後押しをしてくれたのですね。
メンターは会社にとって非常に重要です。
先輩社員の経験を聞く事でそこから学ぶ事が多くあり不安を消します。
それによって積極的に新しい事を学ぶ意欲が生まれます。
これが私を昇進へと導いてくれました。
ひいてはそれが会社の利益につながるのです。
働く女性として家庭との両立のために一時的に仕事を休もうと考えた事はないのですか?私にはとても協力的な家族がいます。
大学時代の恋人だった夫と結婚した時将来は条件が良い仕事を持っている方に生活を合わせると決めたのです。
私は既に修士号を持ち私の仕事の方が良さそうでした。
そこで夫は2人の息子のために在宅で子育てをする事になりました。
その後ヒューソンさんの仕事に合わせて一家は8回の引っ越しを経験しました。
私の転勤は私だけで決めたわけではありません。
いつも家族会議で「次のこの仕事は受けるべきかしら?私たちにとってこれは有意義かしら」と話し合いました。
これは非常に大事な事です。
それが私たちのスタイルでした。
どの家族も事情は異なるのでどういう形が自分たちに合うのか冷静に決めなくてはいけません。
私は仕事と家庭を両立させるには何事も家族全員で決めた方がよいと考えています。
今子供たちは2人とも20代になりましたが…。
引っ越しで得た経験から物おじする事なく新しい人々と出会い知らない土地を訪ね自分たちのキャリアを積んでいます。
子供の頃の経験のおかげで新しい事に恐れずに挑戦できるようになったと言っています。
私のように仕事を続ける女性社員は増え続けてきました。
今では我が社の4人に1人が女性です。
これは有能な才能の確保という意味でとても重要な事です。
性別やどこの出身かに関係なくチームの一員としてベストな仕事をする人材が必要です。
特に我が社は最新のテクノロジーを使ったり技術革新のためにさまざまな才能を集めて創造的なアイデアを生み出す必要があります。
重要な事は全員からそれぞれの最高の考え能力を引き出す事です。
女性が増える事は会社の成功につながります。
女性なしには考えられません。
ロッキード・マーチンが取り組んでいる「ガールズ・インク」というプログラムがありますね。
これの目的はどういう事ですか?科学技術の才能がある人々とのパイプラインの確保は非常に重要です。
なぜなら11万2,000人の社員のうち6万人が科学者と技術者だからです。
ガールズ・インクは9歳から12歳までの少女を対象に科学や技術に興味を持ってもらおうという取り組みです。
会社に招いて女性技術者と一緒に仕事を体験してもらいます。
女性技術者が少女たちの模範的な存在となり少女たちは自分たちの可能性に気付きます。
少女たちの目がキラキラと輝くと私もワクワクします。
彼女たちに航空宇宙産業や軍需産業でのキャリアのすばらしさを紹介したいのです。
ヒューソンさんはアメリカを代表する大企業のCEOという事で押しの強いタフな方を想像していましたがとても穏やかな人柄の方でした。
今回お話を伺って特に印象に残っているのはお二人とも女性としての苦労はありながらも女性であるという事を意識せず一人の人間としていかに全力を尽くせるかベストの環境を生み出すかだけを考えていたという事です。
女性だからできないという事は何もないとおっしゃっていました。
彼女たちの生き方考え方から出てきた一つ一つの言葉が私にとっても非常に参考になりこれからの仕事に生きていくような気がしています。
2015/07/21(火) 01:00〜01:30
NHK総合1・神戸
スター☆ウーマン〜輝くアメリカ女性の仕事物語〜「軍事企業トップ ほか」[字][再]

米社会でトップに立つ女性に「成功の秘けつ」「家庭との両立」を聞く。「悔しさをバネに」と映画界のアイザック氏、軍事企業ヒューソン氏は「出世を阻むのは自分だ」が持論

詳細情報
番組内容
アメリカ社会のトップに立つ女性は大統領をめざすヒラリー・クリントンだけじゃない、映画芸術科学アカデミー会長アイザック氏(アフリカ系)と軍事企業CEOマリリン・ヒューソン氏に「成功の秘けつ、家庭との両立」を聞く。航空会社や百貨店で働き、やっと映画の宣伝という仕事にめぐり合えたアイザックさんは「悔しい感情をバネに」と語る。軍事企業CEOヒューソンさんは「自分の安全圏から出ないとだめ」が持論だ。
出演者
【出演】ロッキード・マーチン社CEO…マリリン・ヒューソン,映画芸術科学アカデミー会長…シェリル・ブーン・アイザック,【きき手】佐久間裕美子,【声】玉川砂記子,尾又淑恵,【語り】福絵美子

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
バラエティ – トークバラエティ
ドキュメンタリー/教養 – インタビュー・討論

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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