警察と衝突するデモ隊。
巨額の債務を抱えるギリシャの社会不安は続いています。
今月13日17時間にも及ぶ交渉を経てユーロ圏の首脳はギリシャへの金融支援に道を開くことで合意しました。
しかし、支援と引き換えに緊縮策を受け入れたチプラス政権に対し、ギリシャの人たちは失望を隠せません。
さらに、今回の危機をきっかけに、ユーロ圏各国の間の深い亀裂があらわになりました。
終わりの見えないギリシャ危機に引き裂かれるヨーロッパ。
溝が深まるEUの現実に迫ります。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
ギリシャは共通通貨ユーロを導入したEU・ヨーロッパ連合の結束を大きく揺るがしています。
EUはギリシャに対して2010年と2012年の2度にわたり総額2400億ユーロ32兆円の金融支援を行ってきました。
再び資金繰りに行き詰まったギリシャ。
ユーロ圏各国はかんかんがくがくの議論を経てギリシャに対し3度目となる最大で860億ユーロ11兆5000億規模の金融支援の協議を始めることで合意しました。
ギリシャの債務問題が発覚して以来度重なる支援を行ってきたEU。
ギリシャがユーロ圏から離脱するという最悪のシナリオは当面避けられることになりましたがこの問題を通してあらわになったのがEUの亀裂です。
ギリシャに徹底した緊縮構造改革を求めるドイツをはじめとした国々とこれ以上の緊縮策はギリシャ経済の回復の妨げになると考えるフランスなどの国々との間で溝が深まったのです。
ギリシャは結局11兆円余りの支援と引き換えに、ドイツなどが主張した財政緊縮策を受け入れざるをえなくなりました。
年金の支給年齢を引き上げ原則67歳にすること。
日本の消費税に当たる付加価値税の税率引き上げ。
そして国有資産を売却するなどし500億ユーロを捻出することです。
繰り返されるギリシャの債務問題で深まるEU内の対立。
一方、支援を受ける側のギリシャでは繰り返し求められる緊縮策に対して反発が高まり混迷が深まっています。
20日朝8時。
ギリシャで3週間ぶりに銀行の営業が再開しました。
1日60ユーロに制限されていた預金の引き出し額は、週に1度420ユーロまでまとめて引き出せるようになりました。
しかし、海外への送金も制限されるなど資本規制は続いています。
ギリシャ経済は今後さらに厳しい状況に追い込まれるのではないか。
国民に不安が広がっています。
ギリシャ最大の港、ピレウス港。
主要産業である海運業の中心地です。
港の前にあるカフェには毎朝多くの失業者が集まり日雇いの仕事を探しています。
この町では失業率は60%を超えています。
今回、金融支援を受けるため国が所有する港を売却し民営化することになりました。
港の関係者は、民営化で失業者がさらに増えるのではないかと危機感を募らせています。
ミハリス・ドラクラコスさん62歳。
船の整備などの仕事をしてきましたが、リストラされここ3年、日雇いの仕事もほとんどありません。
ドラクラコスさんは妻と24歳の息子の3人暮らし。
息子も仕事に就いていません。
収入は清掃員として働く妻の月6万円のみです。
年金がもらえるのは5年先の67歳から。
20日からは一部の食料品の付加価値税も上がり、今後の生活が立ち行かなくなると感じています。
今月5日、ギリシャでは緊縮策の受け入れの賛否を問う国民投票が実施され6割の人が反対を突きつけました。
その結果を受けユーロ圏首脳会議に臨んだチプラス首相。
民意を背景に、債務の負担の軽減を迫ろうと考えていました。
しかし、最大の債権国、ドイツがギリシャへの不信感から終始強硬姿勢を示しました。
国有資産の売却を行うなど構造改革を実行しなければ一時的にユーロ圏から離脱すべきだなどと提案したのです。
強気の姿勢で臨んだチプラス首相ですがユーロ圏離脱までちらつかされ妥協せざるをえませんでした。
これに対しギリシャ国民の怒りが爆発。
国民投票でノーを突きつけたにもかかわらず厳しい緊縮策を迫ったEU側に対し反発したのです。
しかも緊縮策を僅か3日以内に法律にするよう要求されました。
ギリシャはEUなどから一段と厳しい管理を受けることになったのです。
こうした中、人材の流出も懸念されています。
ニコラス・ペタラスさん、42歳。
清掃用機械の輸入販売を行う会社の経営者です。
アメリカの大学のMBA・経営学修士を取得しています。
資本規制が続く中ここ数週間商品は1台も売れていません。
もはやこの国では、ビジネスを続けていくのは難しいと考えています。
ぺタラスさんの妻は今、妊娠8か月。
まもなく父親となるペタラスさん。
この国での暮らしに展望を見いだせないでいます。
今夜のゲストは、ヨーロッパの経済危機の研究を続けていらっしゃいます、慶應義塾大学教授、竹森俊平さんです。
3度目の支援を求めなくてはいけなくなったギリシャ。
当然、その痛みを伴う改革を求められるのも当然だという考え方もあるかと思うんですけれども、人々の反発は非常に激しいと。
今、ギリシャ経済、どうなっているんですか?
2010年からギリシャ、支援を受けていますけれども、当時、IMFの判断は、これだけ債務がたまっていると、まず減免をしてからでないと、いくら貸しても、返ってこないっていう判断があったんです。
だけど、それはいろいろな事情で、減免がそのときされなくて、そのかわり、ギリシャ政府が財政を黒字にして、それで債務を払えってことになったんですけれども、緊縮政策っていうのは、もちろんそれで財政はよくなるんです。
確かに金利の負担を除いた財政赤字が最初、10%ぐらい、GDPの10%あったのが、全部消えましたから、よくなった、それはですね。
だけど、緊縮でGDPも減っていくわけです。
2008年と比べると、今、ギリシャのGDPは25%減って4分の1。
これだけ減ったというのは、大恐慌のレベルなんですよね。
そうしますと、大事な数字というのがありまして、GDPに対して、どれだけ公的債務があるかという、その比率なんですね。
それが今、ちょっと出していただきましたけれども、2009年に126.8%あった。
そのあと、財政は赤字から黒字に、プライマリーバランスは変わったんですが、見ていただくと分かりますように、公的債務残高の比率は、175%ぐらいまで2年前に上がっちゃった。
GDPが4分の1も減るわけですから、それでだんだん大きくなっちゃったということですね。
どんどんどんどん縮小していると?
経済がですね。
来年もまた?
そうなんです。
結局、借金を返すって、稼いで返さなきゃいけないんですけど、稼ぐ力がどんどん下がっているわけですから、だんだんだんだん、返せる目標が遠くなってるというのがあると思いますね。
それで今回も、一応、支援策が決まる方向には動いてますけれども、もう一回、これで緊縮策が押しつけられるということだと、ここでまた続けられるか、また同じことが起こるんじゃないかという懸念は、みんな抱いていると思いますね。
え
国民投票で、緊縮策に反対だという声が6割に達したのに、結局、交渉から帰ってきたチプラスさんは、より厳しい緊縮策を求めざるをえなくなったと。
非常に迷走しましたよね。
これ、債務を使って、交渉をうまく動かすということで、蔵相だった人は、え1回デフォルトする、1回債務不履行する。
そうしますと、ひょっとしたら全部返ってこないというところから、スタートして、いくらか返すっていうようなそういう交渉をちょっと考えてたんですよね。
まず債務を不履行したあとで、交渉する。
そうすると有利になるんじゃないかと。
恐らくチプラス氏も、それを最初、考えていたと思うんですが、でもさっきありましたように、もし、債務不履行すると、銀行が潰れますよとかですね、輸入ができなくなりますよとか、そういうことがだんだん怖くなってきて、その1回、強気に出たんだけど、だんだん怖くなってきて、引き戻した。
結果は、より大きな緊縮策を背負い込むことになったので、最悪の結果だと思いますね、ギリシャ国民にとっては。
ギリシャ国民にとっても、非常に反発のある結果になってしまったんですけれども、EUの、ヨーロッパの国々の間での亀裂があらわになった。
怒号が飛び交うような交渉であったとも言われてるんですけれども。
対立のポイントはなんだったんですか?
独仏の対立が起こったというのは、私は非常にこれ、ヨーロッパの将来にとって、由々しいことだと思います。
ドイツ対フランス。
そうです。
ドイツとフランスは、共同でこれまで欧州統合を進めてきたという意識があったんですけれども、それがちょっと影響が出たのが、1枚のメモでですね、7月11日に大蔵大臣の会議があるときに、ドイツのショイベル首相が1ページのメモを用意して、その中に、交渉がまとまらないんだったら、ギリシャは5年間、ユーロ圏から出て、その間に債務を減免するなら、そういう措置をすればいいっていうふうに、書いたんですね。
それを見て、フランスはびっくりしたわけですよ。
っていうのは、ユーロ圏の規約の中に、どうやったら、退室させられるか。
自分から望んで出ることも、どっかの国から追い出されることも、何も書いてないのを、一方的にドイツが、規約を勝手に作って、しかも、その退室の道を見せたっていうのが、これはびっくりしたわけですよね。
なんかもう、今までは自分たち、2人でやってると思ったのに、なんかお前は1人でどんどんルールを決めて勝手にやってくのかっていうんで、非常に反発を受けたんではないかと思います。
ちょっとそれ、将来的に考えてみますと、要するにドイツと大きくぶつかると、退室の道を見せられて、そこから出てけってことになる。
いずれ、フランスやイタリアも、そんなに財政はよくないですから、そうなると、自分のところもそういう道をたどるんじゃないかと。
あるいはマーケットが、それを疑って、今はフランスは国債はユーロ建てだけど、いずれフランに戻って、ものすごく価値が下がる、売りたたかれるんじゃないかって、そういうような経済的な面での懸念もあったと思うんですね。
それで、フランスはものすごく反発したんだろうと思います。
今の竹森さんのお話にありましたように、ギリシャ問題であらわになったのが、EUの亀裂ですけれども、こちらご覧ください。
青は厳しい緊縮策を求めている、ドイツと考え方を同じにするような国々。
そして赤は、これまでのギリシャの努力を一定程度、評価して、柔軟な姿勢をすべきだとしている、フランスなどの国々です。
EUの亀裂の実態を次にご覧いただきましょう。
ギリシャに厳しい姿勢を取るドイツ。
先週、議会はギリシャが緊縮策を着実に実行することを条件に新たな金融支援の協議を始めることを承認しました。
ドイツはギリシャの最大の債権国です。
ユーロ圏の国々が行った支援の29%、532億ユーロを負担しました。
さらに、3度目となるギリシャ支援の方向にかじを切ったメルケル首相に与党・キリスト教民主同盟の議員からも批判が相次ぎました。
ドイツ国内では、ギリシャのユーロ圏からの一時離脱を求める声も上がっています。
与党の地方幹部を務めるトーマス・シュマッツさん。
これまでの2度にわたるギリシャ支援は支持してきました。
しかしもう限界だと考えています。
この日、党の集会に出席したシュマッツさんはギリシャ支援に対する疑問の声を上げました。
今、シュマッツさんは党員へのアンケート調査を計画しています。
ギリシャ支援について不満が広がっている現実を党指導部に伝え政策転換を促したいと考えています。
最近、新たにユーロ圏に入った国々の間でも不安が広がっています。
バルト三国のラトビア。
財政健全化に努め、去年1月に念願のユーロの導入を果たしました。
2008年のリーマンショック直後の経済危機でも、国民の痛みを伴う厳しい緊縮策を実施して乗り切りました。
そのしわ寄せは年金生活者に及んでいます。
ゾフィア・ジエワさんです。
受け取る年金は月に日本円で4万円ほど。
ギリシャの平均の半分にも満たない額です。
今、ラトビアでは年金の引き上げを求める署名活動が始まっています。
僅か1か月で、全人口の2%に当たる4万人の署名が集まりました。
そうしたラトビアにとってギリシャへの支援は不公平に映っています。
一方、ユーロ圏の南の国々では、ドイツが強く求める緊縮策に対して、反発する声が急速に高まっています。
その一つがギリシャと同じく金融支援の代わりに緊縮策を強いられたスペインです。
緊縮策だけでは、経済は立て直せないと訴える新たな政党が市民の支持を集めています。
3年前からの緊縮策で財政状況は改善されたものの若者の2人に1人は職がなく先は見えないままです。
フランスでも、ドイツに対する反発の声が上がっています。
ヨーロッパの統合を共に推進してきたドイツがギリシャのユーロ圏からの一時離脱を主張したことに批判が強まっています。
今回のギリシャ危機をきっかけに、ヨーロッパ統合の動きにブレーキがかかるおそれがあると、専門家は指摘しています。
両者の考え方、なかなか相容れるのが難しそうなんですが、どうやってこの政治対立を解消していくんでしょうか?
そもそも、これは民間の債権だったのを政府が肩代わりしたんで、政府対政府のぶつかり合いになったんですよね。
これは欧州統合の考え方の違いにぶつかってて、ドイツはドイツなりに欧州統合を目指したいんですが、それは何よりもルールを守って、財政規律を守って、そうじゃない人たちは、入ってもらいたくないっていうのが考えなんですね。
だけど、フランスとかイタリアにとっては、欧州統合って何よりも夢であって、おとぎ話であって、あんまり経済的には、ユーロ圏に入ってよくなかったんです。
だけど夢があるってことだったんですね。
この対立はなくならない。
だからそう簡単に一つに考え、まとまることはない。
ただし、考え方は違っても、今までは平和にやってきたんですよ。
ところが、このギリシャ問題が出てきて、対立の種が出てきて、何回も何回も何回もこれが出てくる。
それでそのたびに、だんだんだんだん性格の違いが出てきて、それで対立が大きくなってきている。
だから、これはともかくギリシャ問題を解決する、来年はもう、この話をしないで済むようにしなければならないと思うんです。
私はそのためには、やっぱりドイツが減免ということをのまなきゃいけない、これはIMFも数字を出して、来年はGDPの200%になると言っていますけれども、これはやっぱり、ドイツが減免をのんでくれれば、いったん、これはヨーロッパは平静に戻るんであって、それが一番いいと私は考えていますけど。
2015/07/21(火) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「ギリシャ危機 対立深まる欧州」[字]
ギリシャの債務問題でEUが割れている。引き続き支援すべきだとする南欧の国々に対してドイツなどはユーロからの離脱まで主張。溝が深まるEUとギリシャの行方を読み解く
詳細情報
番組内容
【ゲスト】慶應義塾大学教授…竹森俊平,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】慶應義塾大学教授…竹森俊平,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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